第一列島線の攻防(2)

2019.11.05

日本にとって「第一列島線の攻防」の最前線ともいえるのが尖閣諸島だが、最近、めっきり報道が減っている。
では、中国による領海侵犯が減ってきているのかといえば、そうではない。
逆に増えている。
マスコミの報道が減っているだけのことであり、それだけ国民の関心が薄らいでいる証拠でもある。
中国からしたら、そこが付け目であろう。
領海侵犯を既成事実化し、やがて実力で海上保安庁の巡視船を追い払い、実効支配を企んでいることは明白である。
 
現在の日中関係は、表面では良好である。
背景に米中激突の国際情勢があるのは誰もが分かっているが、中国側から考察してみると、相当な危機的状況にあることが分かる。
つまり、中国は余裕がなくなってきているのである。
 
中国は、最大の脅威である米空母艦隊の接近を阻止し、中国の領域に入ることを拒否する、いわゆるA2/D2戦略を、防衛の基軸にして急ピッチで軍事力を増強してきた。
その防衛ラインとして第1列島線を設定し、“短期高烈度の戦い”で、列島線の内側に米艦隊を入れないという軍事強化を主軸としてきた。
実際、中国の沿岸部には数千といわれる対艦弾道ミサイル網が整備されている。
これにより、習近平主席は列島線の内側に入ってきた米艦隊を完全に殲滅できるという自信を深めた。
 
しかし、トランプ大統領同様、習近平主席も軍事の素人である。
ただ、米国は大統領に能力がなくとも、軍首脳は優秀であり、豊富な国防費を使い、有効な戦略を実行に移せる。
これに対し、中国は独裁国家であるため、個人の能力に依存してしまう。
この弊害を緩和するため、トップ7人(以前は9人)による合議制を採っていたのだが、習近平主席は自身の独裁制強化へひた走っている。
これが、中国の最大の弱点となっている。
 
この10年、米国は、中国のA2/D2(接近阻止・領域拒否)戦略を圧倒する新戦略を研究し、2019年5月に、MPS =Maritime Pressure Strategy(海洋圧迫戦略)を発表した。
この詳細は次回述べるが、第一列島線に位置する日本が無関係でいられるはずはない。
米国のこの戦略には、自衛隊との共同作戦が重要な要素となっている。
2020年以降、日米の共同軍事演習は、この戦略に沿って大きく様変わりしていくであろう。
日本は、否応なしに新たな冷戦の最前線に立たされることになるのである。