小さな会社の大きな手(12):戦略投資の失敗(その3)

2016.04.18

弊社の戦略投資の失敗の話をさらに続けます。

最初の商品である「CADソフト」の開発投資に失敗した弊社は、「圧倒的に優れた『何か』」を求め、
次の商品として「ネットワーク環境で動くパソコン用の基幹業務ソフト」を製品化することにしました。

今でこそ、類似商品はいくつもありますが、25年も前の話です。
当時は、そのようなパソコンベースのソフトは皆無でした。
ゆえに、成功する自信は多いにありました。

当時、商品としてのパッケージソフトを作るには1億円の開発資金が必要と言われていました。
それで、1年で積み上げた5000万円の利益に、初めての銀行融資5000万円を加えて、1億円の開発資金を用意しました。
創業2年に満たない当時の会社としては、”たいしたもの”でした。
それで“いい気になって”いたわけではありませんが、しかし、大きな落とし穴が待っていました。

1年が経ち、1億円の資金を使い果たしても、パッケージが完成しなかったのです。
自信のある建設業の、自信のある基幹システムです。
何社かの中堅建設会社の同システムを作ってきた経験もありました。
しかし、それだけでは、商品としてのパッケージソフトを作ることは出来なかったのです。
それほど、「商品」を作るということは難しいことなのです。
そのことを「嫌というほど」思い知らされました。

考えてみれば当然です。
製造業でも、依頼を受けた製品を作ることと、「具体的な顧客が見えない」市場に対する汎用商品を作ることには雲泥の差があります。
試行錯誤を繰り返し、何度も試作品を作り直し、挑戦しては跳ね返されを繰り返し、ようやく市場に受け入れられる商品に仕上がっていくのです。
それを一発で作れると自惚れていた自分の甘さを呪いました。

しかし、悔やんでいても、時間もカネも戻りません。
受託システムの依頼を断って商品システムに大多数の経営資源をつぎ込んできたため、今更、元には戻れません。

追い込まれて考えました。
当たり前のことばかりが頭に浮かびましたが、その当たり前のことを「当たり前」とせずに、一つずつ丁寧に確認していくことが大事です。
まず、「だれが、この苦境を脱する案を考えられるか」でした。
社員数は増えていましたが、社長は自分一人です。
創業間もない会社です。
自分以外にいるわけはありません。
でも、そのことを客観的に確認して初めて「自分がやるべき」という覚悟が生まれます。

そうした確認作業の最後が「撤退するか、進むか」の決断です。
このような時、多くの人は、「撤退する言い訳」とか「進めない理由」とかを考えてしまいます。
つまり、「他責を見つけよう」としてしまうのです。
社員の能力が足りないとか、ろくな協力者がいなかったとか、いろいろ浮かんできます。
でも、それでは結論が出せません。
かと言って、「自分が悪かった」との自責も意味はありません。
悪い自分でも、中小企業の社長は簡単には辞められないのです。
代わりはいないのですから。

「撤退するか、進むか」を決めるのは、主観ではなく客観的事実からです。
先に述べた「当たり前のことを確認する」作業も、客観的事実からの確認を重ねていくことがポイントです。
こうして、1周間ぐらい時間を掛けて決断しました。
「進む」ことをです。

しかし、「進む」ことの最大の問題は、新たな開発資金の確保です。
長くなりますので、この話は次号でしましょう。