インフレ誘導政策は是か非か(3):官制経済の危うさ

2017.01.16


来年度の春闘でも、安倍政権は経済界に「官制賃上げ」を要請するようである。
強引と言われようと、インフレ誘導政策を進める執念のようなものを感じる政権の姿勢である。
安倍政権のこうした姿勢は、日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)にまで及び、それまで禁じ手とされていた株式購入に拍車がかかっている。
今や、東証一部上場企業の株式の37%が日銀とGPIFの持ち株となっているという指摘がある。
上場企業の4社に1社は、実際の筆頭株主が日銀とGPIFだとも言われている。
「まるで、国営企業ではないか」という危惧の声も聞こえる。
しかも、両者とも、こうした保有株を売却する方針を示していない。
ここまでの安倍政権の努力は認めるが、「経済を支える」ことに重点が行き過ぎて官制経済になってきてしまっている。
ただ、安倍首相は強運の持ち主なのか、トランプ旋風による米国経済の過熱現象のおかげで官制経済の弊害がまだ出てこないという幸運に恵まれている。
こうした幸運があるうちに、官制経済からの脱却に取り組まないと抜き差しならない事態に陥る危険がある。
前号で述べたように、日本経済のガンは、団塊世代の高齢化と低消費の若者年代である。
だが、団塊世代に「老いるな」とは言えないので、若者年代の給料を上げさせようと企業に圧力をかける「官制賃上げ」になっているのである。
しかし、たとえ、給料が上がっても若者世代は従来型の消費などはしない。
それは「カッコ悪い」ライフスタイルなのである。
しかも、それは先進国に共通のライフスタイルである。
欧米では、有名ブランドのロゴを付けた服を着ることが「カッコ悪い」ことになっている。
一方で、ブランドものの生地の良さ、着心地の良さは捨てがたい。
そこで、買い求めた有名ブランドの服から苦心してロゴマークを外すことがはやっているという。
外した跡が不自然にならないような工夫の仕方がネットに溢れるという二次現象まで引き起こしている。
こうした現象が日本でも広がってくるのは時間の問題である。
だが、こうした現象を取り込む経済を官制経済で作っていくことなど出来るはずはない。
政府がそこに気が付かないで、今のままの官制経済を進めていくことが間違いなのである。
「モノを買う」という形の個人消費は、消えることはないが、もう伸びることは無い。
「高級品を持っている」ことを誇示することは「カッコ悪い」から敬遠されるが、「高級品の良さ」は理解している。
こうした、一見矛盾するようだが理にかなっている購買動機を理解することは、古い経済理論に染まっている年代の人間には難しいだろう。
でも、真の「遊び心」を持っている人は、年代にかかわらずに理解できると思う。
「官制賃上げ」ではなく、企業の自由度を増やし、新規事業の後押しを強化すべきである。