これからの近未来経済(12):山なり多重回帰曲線型経営(その3)

2021.11.16


新規創業した会社のかなりの部分は、すぐに消えてしまいます。
酷な言い方ですが、そうした会社は、そもそも起業すること自体が間違っていたといえます。
創業者の基本的能力、資金力、信用力、その全てに不足があったということです。
何より、事業を遂行する強い意志に欠けていたと言わざるを得ません。
 
そのような創業期の第一関門を抜けた会社の多くは、かなりの速度で成長していきます。
弊社のことで恐縮ですが、創業年の売上は、その後の2年で3倍になり1億円を超えました。
これが「山なり多重回帰曲線」の最初の上昇カーブです。
徐々に上昇カーブは鈍っていきますが、気持ちを緩めなければ上昇は続きます。
会社が市場から一定の認知をされた結果ということです。
 
しかし、このカーブもやがて山(ピーク)を迎えます。
市場のお客様は「飽きやすい」のです。
「絶品の味」と感じたラーメンも、食べ続ければ飽きが来るという理屈です。
弊社の場合、創業6年でこの山が来ました。
この山が来た時にやるべきことは「それまでの見直しと是正」です。
原価や経費が過大になっていないか、まだ開拓できる市場の広がりや奥があるのではないかを、「初心に還って」見直すのです。
この時期が「山なり多重回帰曲線」の「改善期」にあたります。
それを実直に行うことで、カーブは鈍りますが、上昇を続けることはできます。
 
しかし、やがて「改善」の材料も尽き、利益の上昇は止まります。
そこで、経営者は、次の経営戦略を練る必要に迫られますが、ここが最初の分岐点です。
あくまでも既存商品や既存サービスにこだわり一段と高いレベルを目指すか、新たな商品やサービスを開拓するかの戦略の選択です。
この段階を「山なり多重回帰曲線」では「改革期」と呼びます。
弊社の場合は、創業から10年で、ここに至りました。
 
弊社は、後者の「新たな商品、サービスの開拓」の道を採りました。
理由は単純です。
私の性格が飽きっぽく、新しいものを作ることが好きだったからです。
この判断は経営トップにしかできないことなので、トップのわがままが重要な要素になります。
 
正直な話、いま書いている「山なり多重回帰曲線」は、自社の経験や他社の事例を分析して出てきた考えであり、当時はまったく念頭にありませんでした。
つまり、この時点での私は、まだ「素人経営者」だったのです。
 
弊社は、創業時は建築設計事務所でしたが、半年でソフトウェアの受託開発を始め、1年後には「建設業向けパッケージソフトの開発・販売」との2本立てになっていました。
その2本の柱の成長が鈍り「新たな商品、サービスの開拓」の時期がきたとき、創業期から蓄えた経験や知識と、建設会社時代に得た実務経験を活かし、建設会社向けの現場指導や経営支援のコンサルタント業を始めました。
これが当たり、さらなる上昇カーブに乗ることができました。
 
しかし、そこで待っていたのが、前号で述べた第二の落とし穴でした。
原因は、現業部隊の社員の厚みに比べ、経営統治機構の社員が未熟でした。
つまり、ライン重視でスタッフ部門の人材不足を来していたのです。
この現象は、弊社だけでなく、急成長した新興企業に共通して見られる欠点です。
しかも弊社は、トップである私が新規事業のコンサルタントとして第一線に出ていて、不在状態でした。
経営管理の業務は、当時の専務に任せっきりという状態でした。
このツケが回った話は次号で。