急激な円安が示していること(その1)

2022.05.16

ドル円相場で急激な円安が進んでいます。
この事態を招いた張本人(?)は、誰もが知るように、日銀・黒田総裁です。
0.25%の固定金利で10年物日本国債を無制限に買い入れる「連続指値オペ」には、正直驚きました。
米国の10年国債の年利回りが3%に近づく現状での、この買いオペ発表です。
当然、一気に資金が日本から米国に流れ込みました。
 
金融相場は一種の博打ですから、投資家は常に大きな変動を待っています。
その変化に備えて、円とドルの双方を保持して、相場を睨んでいます。
投資家にとっては、急激な円高も円安もチャンスなのです。
日銀は、そうした投資家に儲けるチャンスをどんどん与えていることになるわけです。
 
黒田総裁は、もちろん金融のプロ中のプロですから、こんなことは分かっているはずです。
ということは、この円安は黒田総裁が仕掛けた円安ということになります。
そこが肝心なことです。
 
安倍内閣から日銀総裁の座に座る黒田氏は、日本経済をデフレから脱却させるにはインフレ政策しかないとして、猛烈にお札を刷って市場に供給してきました。
アベノミクス開始前の2012年12月時点で132兆円だった「お金の総量」は、2022年3月時点で662兆円と5倍になっています。
しかし、我々の財布の中身は5倍にはなっていません。
それはそうです。
同じ時期、市中に回っているお金は、1135.8兆円から1532.4兆円に増えただけですから、僅か1.35倍にしかなっていません。
つまり、大半のお金は空回りをしていることになります。
 
日銀は企業や個人に直接融資することは出来ませんから、大量に刷った円は、銀行に供給されます。
しかし銀行には、これだけ大量のお金を貸し出す先がありません。
大半のお金は虚しく「日銀当座預金」という名の口座に塩漬けという状態になります。
つまり、日銀が発行したお金は、そのまま日銀の口座に眠っているということです。
しかも、その巨額の預金は、マイナス金利の中では利子が付くどころか、減り続ける構図です。
貸出先のない金融機関にとっては、体力を削るだけのお金になっているのです。
 
そんなことは百も承知の黒田総裁の狙いを要約すると、以下のことかなと思います。
急激な円安で原材料の高騰が起き、企業は製品の値上げに踏み切らざるを得なくなる。
かつ手元資金が目減りすることで、金融機関からの借入が増える。
金融機関は、ここぞとばかり融資を拡大させ、「日銀当座預金」が減る。
そうして、とにかくお金の流れを作ろうというのが、黒田総裁の考えかと推察します。
 
この思惑が当たるか外れるかは難しい賭けです。
黒田総裁も、そこは賭けに出たのでしょう。
気になるのは今後の政策との整合性です。
岸田首相と意見が一致しているのかどうかが、気になります。