2022年6月30日号(経済、経営)

2022.07.19

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2022年6月30日号
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発行日:2022年6月30日(木)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2022年6月30日号の目次
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★日銀は政府の子会社?(後半)
◇これからの近未来経済(19):家計は値上げを許容している?
★急激な円安が示していること(その3)
◇論理思考は大切だが、もっと大切なことがある(3)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
円安が止まりませんが、そもそも止められるものでしょうか。
あえて言えば、そんなに悪いことでしょうか。
たしかに輸入品の価格上昇で、企業の原材料コストは前年比で+9.1%となっています。
しかし、企業間取引は循環するものです。
時間とともに、多くの企業が価格転嫁していくので、そこでバランスします。
もちろん、そう単純なことではなく、苦しい企業も出ますが、それを乗り切るのが経営です。
 
近年、輸出割合が減っているとはいえ、円安は輸出にはプラスで、観光収入増にも繋がります。
この効果を給料の上昇に繋げていくのも経営です。
その結果、家計も物価上昇分を吸収していくでしょう。
第一、「穏やかなインフレ」が政策目標だったのですから、騒ぐのはおかしくありませんか。
 
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┃★日銀は政府の子会社?(後半)                  ┃
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安倍元首相の「日銀は政府の子会社」発言は、いわゆる「リフレ派」vs「財政健全派」の対立の一環といえます。
もちろん、安倍氏はリフレ派の頭目的存在ですし、マスコミの多くは財政健全派といえます。
最近は、経済評論家の大前研一氏なども財政健全化を唱えています。
 
それでは、日銀が発行分の半分を所有している国債について考えてみましょう。
日銀が保有する国債に対して政府は利子を払います。
今はゼロ金利ですが、仮に2%になったとします。
1000兆円の半分500兆円の2%=10兆円が政府支出となります。
予算が10兆円も利払いで消えると思われますが、それは違います。
この支出は日銀の利益となりますが、納付金制度により、日銀は、同金額を政府に支払います。
つまり、政府に戻ってくることになりますので、差し引きゼロなのです。
 
また、日銀が保有している国債に対して政府に償還する義務はありません。
安倍氏が発言した「日銀は政府の子会社」は、このことを指しているものと思われます。
この規定は、財政法に基づく予算総則の規定となっているので、間違いではありません。
つまり、理論的には何回でも借り換えていけるので、半永久的に借りたままでもOKとなります。
 
日銀は日銀法に基づく認可法人で、会社法に基づく法人ではありません。
マスコミは、よく「日銀の独立性」という表現を使いますが、正しい表現ではありません。
国会の同意が条件ですが、政府には日銀の人事任命権があり、さらに予算認可権もあるので、日銀はまさしく政府機関の一部といえます。
民間会社でいえば「子会社」そのものです。
55%を占める政府出資に議決権がないのも事実ですが、そもそも政府機関なのですから「政府と独立している」と言うほうが無理といえます。
 
この仕組みは、米国や欧州の中央銀行でも同様です。
中央銀行の独立性とは、「手段の独立性」(instrument independence)であるとされています。
「手段の独立性」とは、大きな目標について政府と共有しながら、金利の上げ下げについては、中央銀行に「独立行使する権限」が付与されているということです。
中央銀行が国債の大半を所有している国では、金利の上下動は、先に説明したように、政府予算の執行にはほとんど影響がないのです。
 
財務省は“守り”の部門で、借金は嫌いだし、なるべく出費を抑えようとします。
それで、財務官僚はマスコミを使って「こんなに借金が増えて・・」と言うのです。
 
ここまで書くと、私が「リフレ派」と思われそうですが、そうではありません。
歯止めなき財政支出が良い理由はありません。
しかし、30年も停滞したままの日本経済を考えると、ここは政府支出を増やすべきだと思うのです。
岸田首相、いかがでしょうか。
 
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┃◇これからの近未来経済(19):家計は値上げを許容している?   ┃
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日銀の黒田総裁が「家計は値上げを許容している」と発言して批判を浴びました。
すると、“あっさり”と撤回してしまいました。
しかし、日銀のホームページを見れば分かるように、発言自体は間違いではありません。
データは「家計が値上げを受け入れる割合」が、昨年8月の43%から今年4月には56%に増加していることを示していますから。
黒田総裁は、野党やマスコミの揚げ足取りが面倒になり、発言を撤回したのでしょう。
あるいは、参院選前の国会で「真の問題点を議論したくなかった」と考えたのかもしれません。
 
新型コロナ禍による行動制限で「強制貯蓄」と呼ばれる「使わないことで自然に増える貯蓄」が増えていることは事実です。
黒田総裁は、このデータをそのまま述べれば良かったのに「家計が値上げを許容・・」と余計なことを言ってしまったのです。
おそらく、スタッフが書いた原稿をそのまま言ってしまったのでしょう。
 
総裁の発言全体は、マクロ経済全体を見渡した内容で正論でした。
しかし、野党は失言のように見える“わかりやすい”部分だけを取り上げ、それを全体の主旨のように思わせる、いわゆる「ストーリー・テラー」手法を使って、批判します。
それは反論ではなく、難癖を付けているに過ぎず、政治家としては恥ずかしい行為です。
国会で黒田総裁に「買い物をしたことがあるか」と質問した野党議員がいましたが、呆れるばかりです。
 
マスコミ報道は、それに輪をかけてひどいものです。
一部の品目の価格上昇だけを示して、全体の「物価」が上がっているように国民を誘導しています。
そもそも、エネルギー価格や食品価格の上昇などは、ウクライナ侵攻が主要な原因で、政府の責任とは言えません。
エネルギーと食品を除いた4月の消費者物価指数上昇は、対前年比0.8%にすぎません。
それなのに、立憲民主党の泉健太代表は、衆院予算委員会で「物価高対策として金利引き上げを検討すべきだ」と政府に要求しました。
こんなことをしたら、住宅ローン金利が上昇して家計を圧迫、中小企業の倒産なども増えるでしょう。
どうしようもない経済音痴ぶりというしかありません。
 
必要なことは、物価の値上げ対策ではなく、マクロ経済の上昇を導き、本格的な賃金上昇につなげる政策の立案と早期実行です。
具体的には、黒田発言にある「家計が値上げを受け入れている」間に、民間投資の呼び水となるインフラ投資を倍増、それを企業収益の上昇と投資意欲の喚起につなげ、賃金の本格上昇を促す政策です。
岸田首相には、「新しい資本主義」などという言葉遊びではなく、上記政策の実行を望みます。
 
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┃★急激な円安が示していること(その3)              ┃
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10兆ドル(1,350兆円)あまりのマネーを運用するといわれている米国の資産運用会社、 ブラックロック は世界経済のグローバル化の申し子というべき存在です。
よく話題になる孫正義氏率いるソフトバンクグループが赤子に見えてしまうほどの資産規模です。
同社は、FRB(連邦準備理事会=米国中央銀行)を支えるバックボーンであり、日銀との関係も深いと言われています。
 
そのCEO(最高経営責任者)であるラリー・フィンクが、3月24日に、投資家たちへ一通の手紙を出したことが明らかになりました。
その内容は、一言で言って「世界経済のグローバリゼーションは終わった」というものでした。
この手紙の引き金は、もちろん、その1ヶ月前の2月24日のロシアによるウクライナ侵攻です。
ブラックロックは、侵攻から1ヶ月の様子を分析した結果、この侵攻が長期化し、世界経済のグローバル化が終わると判断したと思われます。
 
ブラックロックの創業は34年前の1988年ですから、そんなに古いわけではありません。
その翌年の1989年にベルリンの壁が崩壊し、次の90年には東西両ドイツの統一、そして翌91年にはソ連が終わるという大転換の時代でした。
つまり、そうなる未来が分かっていて、米国は同社を創業させたということなのです。
 
私は、ベルリンの壁崩壊の報道を、米国出張中に知りました。
米国企業との会議の最中に、その一報が入り、会議を中断、全員でTVの画面に見入りました。
私は、その映像の後に「東独の警備兵による市民への発砲」の映像が流れるのではないかと思いましたが、それはなく、多数の市民がハンマーで壁を壊す様子が流れ続けました。
私は、固唾を飲んで映像を見守るだけでしたが、米国人スタッフの「これで世界は変わる」との声をきっかけに会議は中止状態となり、今後の世界はどう変わるかといった議論になりました。
 
多くの意見は、「この壁の崩壊でソ連は崩壊し、冷戦は終わり、平和な時代が来る」というものでした。
その後の経緯を追えば、そのとおりとなりました。
しかし、帰国した私を迎えたのは、米国内とはまったく真逆な日本の雰囲気でした。
米国人はベルリンの壁の崩壊を自分のこととして捉えていたのに対し、日本人は「よそごと」としてしか捉えていなかったのでした。
 
ブラックロックの創業は、こうした時代の先取りでした。
同社は、米ソ冷戦終結によるグローバリゼーションの追い風を受けて、信じられないような急成長を遂げました。
まさに「平和の配当」を象徴する成長でした。
 
しかし、そのブラックロックが「平和の時代は終わった」との認識を示したのです。
ラリー・フィンクCEOによる手紙の2日後の3月26日、ジョー・バイデン米国大統領はポーランドの首都ワルシャワで演説しました。
マスコミは、大統領の演説の中の「この男が権力の座にとどまり続けてはいけない」の部分を切り取り、「米国はプーチン体制の転換を目指している」と指摘しました。
しかし、この言葉は「元の草稿にはない」バイデン大統領の“アドリブ”でした。
マスコミは、この言葉は「ロシアとの話し合いの糸口を失うものだ」と批判しました。
私は、そうではないと思いますが、読者のみなさまは、どう感じられたでしょうか。
 
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┃◇論理思考は大切だが、もっと大切なことがある(3)        ┃
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旧聞になりますが、映画監督の河瀬直美氏の発言に批判が集まったことがあります。
撮影現場における河瀬氏のパワハラ疑惑なども、そうした批判に輪をかけたものと思われます。
私は、その話題ではなく、河瀬氏の言葉に関心を持ちました。
以下に引用します。
 
「もし、人間にとって最も重要なことが、すべて論理で説明できるならば、論理だけを教えていれば事足りそうです。ところがそうではない。論理的には説明できないけれども、非常に重要なことというのが山ほどあります」
 
私が、なぜ、河瀬氏の言葉を引用したかはお分かりと思います。
最も論理的な世界は、数学の世界でしょう。
私は、小学生の頃から大学まで、数学が好きでした。
無秩序に思える自然ですら「フィナボッチ数列」のように数学で解析できることに感動すら憶えていました。
 
このように、論理だけで構築されているように思える数学の世界でも、実は「正しいか正しくないかを論理的に判定できない命題が存在する」ということが証明されています。
 
1931年、オーストリアの数学者クルト・ゲーデルは「不完全性定理」をもって「論理で解くことが不可能な命題」を示しました。
原子物理学の世界で、この定理を応用したと言われる「不確定性理論」は、それまで絶対視されてきたアインシュタインの「相対性理論」を論破しました。
本理論は、相対性理論を否定したわけではなく、「相対性理論でも解けない不確定な世界があり、我々の世界は、その不確定な事象の上に成り立っている」という理論です。
 
大学受験までは「ニュートン力学」を絶対視し、大学で「ニュートン力学」は「相対性理論」の限られた一部に過ぎないことに衝撃を受けた私ですが、「不確定性理論」によって、それをも打ち壊されたわけです。
 
このように、この定理は、数学にとどまらず、哲学などにも大きなインパクトを与えました。
どれほど論理を突き詰めていっても「正しさ」を決めることはできない場合があるという考え方は、それまでの考え方を根本から揺さぶりました。
 
有名な問いがあります。
それは、「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いです。
この質問を「論理的に」説明できる人はいないでしょう。
人によって「殺してもいい理由」も「殺してはいけない理由」も、挙げることはできます。
しかし、論理で絶対の正解を導くことは極めて難しいです。
ある著名な評論家はこう言い切りました。
「人を殺してはいけないのは、『駄目だから駄目』ということに尽きます」
つまり、「人を殺してはいけない」のは論理ではないということなのです。
そこで、私は、心の底で、以下のルールを決めました。
「自分の身および『自分が大切に思う人の身』を守る時以外は、決して人を殺さない」
これは、見方によっては「殺人の肯定」になります。
それゆえ、その結果に対しては全面的に責任を取るという覚悟を決めています。
 
こうした、人が“自分で決めた”心の中の規範が「倫理」なのです。
人は、論理で決められないことは、倫理で規範するしかないのです。
かつ、倫理は「自分の心の中だけに存在」するもので、誰にも言う必要はありません。
 
そうすると、学校の授業にあった「倫理社会」という科目に疑問が湧きます。
倫理は自分で決めるもので、学校で教わるものではないからです。
 
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<編集後記>
岸田首相の打ち出した「骨太の方針」の重点4分野のひとつに「スタートアップへの投資」があります。
そのことで、32年前の創業のことを思い出しました。
システム機材とソフトウェア開発で2億円の資金が必要でしたが、自前で用意できたのは1/4でした。
不足する3/4の資金確保には、奇跡と覚悟が必要でした。
創業への思いは20代からありましたが、創業資金は高い壁で、20年以上の時間がかかりました。
現代は、あの時代よりマシになっていますが、それでも若い人には高い壁です。
でも、大事なことは、この壁を低くすることではなく、失敗しても何度でも挑戦できる社会にすることです。
「柳の枝に飛びつくカエル」は、変わらぬ真理なのです。
 
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