2016年5月20日号(国際、政治)

2016.06.01

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年5月20日号
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                発行日:2016年5月20日(金)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2016年5月20日号の目次
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★トランプ大統領が実現するのか
☆増税見送りと衆参同日選の可能性
★経済と政治(3):中国の今後
 
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
 今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
浅草・三社祭で忙しくて・・というわけではありませんが、今号の発信が大幅に遅れました。
大変、申し訳ありません。
 
先日、関東地区でも震度3~6弱の地震が起きました。
いよいよ首都圏直下型地震かと身構えた方も多かったのではと思われます。
熊本だけではありません。
我々の住む国土のもろさを実感させられます。
 
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┃★トランプ大統領が実現するのか                 ┃
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最初に断っておきますが、私が、本項のタイトルに”★”を付けたのは「悪い」という意味ではありません。
現実になった場合の良し悪しは”分からない”という意味です。
そのくらい、トランプ候補が大統領になるかも・・が現実味を帯びてきたということでもあります。
 
米国人である義弟や私の米国の知り合いの多くは、客観的に上層階級に属する人たちなので、トランプ候補の躍進を危惧しています。
しかし、今や、彼らは米国を代表する米国人ではなく、マイノリティになってしまっています。
 
米国ギャラップ社の調査によると、共和党支持者の66%は「オバマ政権で暮らし向きが悪くなった」と感じています。
逆に民主党支持者の71%は「良くなった」と答えています。
 
共和党は議会で多数を占めながら、このような共和党支持層の不満を吸収できないというジレンマを抱えています。
実際、中小企業の経営を圧迫しているといわれる「医療保険制度改革(通称オバマケア)」を廃案にできなかったし、不法移民に寛容なオバマ政権を追い込むこともできていない・・といった不満が、白人の下層階層(いわゆる“プア・ホワイト”)を中心に蔓延しているのです。
さらに、同性婚などの「古き良き米国の伝統を壊すこと」に対する反発も保守層には根強く、こうした人達もトランプ支持に回っています。
 
しかし、オバマケアなどの政策や同性婚の受入れなどの現象は、古い価値観から新しい価値観へと変わっていく先進国に共通の潮流なのです。
ゆえに、共和党首脳部は、公然とこの潮流に逆らうことはできません。
結果として共和党は、プア・ホワイトや頑迷な保守層の不満を吸収し、かつ先進国のリーダーとして新しい潮流に乗るという道を見つけることができずに大統領選に突入してしまったのです。
 
ゆえに、オバマ政権に対する不満が、そのまま共和党主流派に降りかかるという事態になっています。
そのように動けなくなった共和党主流派に代わって、政治経験のまったく無い、完全なアウトサイダーであるトランプ氏は自由です。
トランプ氏は、こうしたプア・ホワイトや保守層の不満を惹きつけるには最適な候補なのです。
 
その上、トランプ陣営の選挙戦略はなかなかに巧みです。
こう言っては米国民には失礼なのですが、
米国人の過半は、近視眼的で考えが浅く、学習することをせずに、自己中心的です。
米国人の60%は、ダーウィンの進化論を信じず「人間は神が創った」と信じているという世論調査があるくらいです。
日本人の99%は進化論を信じていると思いますから、びっくりです。
 
このような米国人たちが、トランプ氏の「Make Amerika Great Again(アメリカを再び偉大にする)」
といった単純なコピーに飛びつくのは当たり前と言えるのです。
 
かつて日本でも、「自民党をぶっ壊す」と言った小泉元首相の言葉が喝采を浴び、その支持が巡り回って自民党を下野させ、わけが分からないうちに2009年の民主党政権が誕生しました。
今の米国は、その時の状況に似ています。
考えてもみてください。
鳩山由紀夫氏や菅直人氏が首相だった日々をです。
今から思えば“悪夢”としか思えません。
でも、現実だったのです。
米国でも同じ現象が起き、トランプ大統領が現実になろうとしているのです。
 
それに対して、クリントン氏は典型的なインサイダーであり、この点での不利は否めません。
いろいろな世論調査の結果が出ていますが、冷静に分析してみると、トランプ、クリントン両候補の可能性は、50:50に近いかと思われます。
ややクリントン有利と言えるかもしれませんが、僅差です。
 
共和党の指名を確実にしたトランプ陣営は、矛先をクリントン候補に絞り、勝つための戦略に転換してくると思われます。
こうなると、「トランプでも良いじゃん」となる人が増えてくるでしょう。
これからのトランプ氏の言動に要注意です。
 
 
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┃☆増税見送りと衆参同日選の可能性                ┃
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夏の参議院選挙が近づいてきた。
しかし、参院選そのものより、再増税延期の可否と衆参同日選の可能性のほうに巷の関心は移ってしまっている。
 
安倍首相は、消費税の再増税に関しては、「リーマンショックあるいは大震災級の影響がある出来事が発生しない限り税率の引き上げを行う」と、何度も答弁してきた。
では、消費が低迷する中で熊本地震が起きた現況が、そうした“出来事”に該当するのかどうか。
首相は「そうした状況に該当するか否かは、専門家に議論してもらい適時適切に判断したい」と明言を避けている。
 
5月18日に発表された「1~3月期のGDP速報値」は2期ぶりのプラスになり、年率換算で実質1.7%増(名目2.0%増)となった。
これだけ見ると「再増税は可能」となるように思えるが、問題は「家計消費」にある。
GDP速報値の家計最終消費支出は、実質0.5%増(名目▲0.1%)であった。
GDP全体では名目値が実質値より高かったのに、家計支出では逆にマイナスになっている。
デフレあるいは均衡経済下では、実質成長率より名目成長率のほうが実態に近いと言われる。
再増税には黄色信号が灯っていると言ってよいであろう。
 
同日(5月18日)に行われた自民党と民進党(旧民主党)の党首討論で、安倍首相は以下のように発言した。
「(2014年4月に)消費税を引き上げて以来、(個人)消費が弱いのは事実だ。その弱さは我々の予想より弱く、そこに注目している」
はっきりとは言っていないが、「再増税は難しい」と言っているように聞こえる。
 
さらに、その討論において、民進党の岡田代表は「もう一度、消費税の引き上げを先送りせざるを得ない状況だ」と発言した。
つまり、再増税の見送りは与野党党首の一致した見解であり、選挙の争点にはならないということになる。
 
そうなると、問題になるのは、ただ一点である。
2014年11月に再増税を延期した際、「再び延期することはない」と明言した安倍首相の言葉である。
この言葉に対する責任を取るとして、首相は「国民の信を問う」衆院の解散に踏み切る可能性が大きくなったともいえる。
 
ただし、現在2/3を超える議席を有している政権与党にとって、解散は両刃の剣である。
衆院での2/3を維持できなかったら、首相の進退に関わる事態となる。
その決断のタイミングは、伊勢志摩サミット後、今国会の会期末6月1日となる公算が強い。
 
当初、熊本地震の発生によって同日選の実施は困難との見方が強かった。
しかし、熊本地震の復旧・復興のための16年度補正予算が成立したことで、政権内部では、「地震は同日選の障害にはならない」との見方が出ている。
地震対応への評価などで内閣支持率が堅調に推移していることも追い風と見ている。
 
これで、伊勢志摩サミットで景気回復を重要視することが評価されれば、オバマ大統領の広島訪問という絶好の機会を捉えて、増税見送り、大規模な経済対策の指示、そして同日選の宣言と続けるかもしれない。
あるいは、増税見送りだけで、同日選は回避となる可能性もある。
当面は、安倍首相の言動に注目が集まるということである。
 
 
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┃★経済と政治(3):中国の今後                 ┃
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多くの戦争は、経済と政治の整合の乱れから起こります。
第3回の今回は、現代の日中関係の続きをお送りします。
 
前号では、国が豊かになると国民の権利意識が上がって民主主義に移行し、民生を圧迫する軍事費の増大は思うようには出来なくなるはずが・・中国が、なぜそうならないかの疑問で終わりました。
 
その答えは、中国政府自らが説明しています。
GDPは世界第二位になったが、「国民一人当たりでみれば、まだ開発途上国である」とです。
 
もっと言えば、GDPが日本を抜いたことも“怪しい”かもしれないのです。
中国の発表する経済数値が信用出来ないことは、今や世界の常識です。
おそらく、中国政府自身も自国の数値を信用していないのだと思います。
全人代で今後の経済政策を発表した李克強首相の苦しい表情が、それを物語っています。
 
困難な時ほど、正確な情報が必要です。
これは古今東西の普遍的な原理です。
戦前の日本も、米国から経済的な圧迫を受けて苦境に立っていました。
しかし、正確な情報を把握し、国民に示すという基本を怠りました。
逆に「大東亜共栄圏」なる夢物語を国民に吹き込み、「イケイケドンドン」路線をひた走ったわけです。
その結果としての開戦、そして敗戦でした。
 
私には、習近平政権が掲げる「一帯一路」という中国の夢は、戦前日本の「大東亜共栄圏」とそっくりに重なって見えます。
欧米が築いた世界秩序への挑戦という図式まで、そっくりです。
ということは、戦前日本の轍(てつ)をそのまま踏んでいるのではないかということです。
 
中国はイヤがるでしょうが、中国には安倍首相の「戦後70年談話」の以下の部分をしっかりと読んで欲しいものです。
「(米国による経済封鎖という事情はあったが)満州事変、そして国際連盟からの脱退と、日本は、次第に国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした新しい国際秩序への挑戦者となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました」
安倍首相の本心か否かは別にして、この言葉は真実です。
経済的行き詰まりを、軍事力を背景にした強引な政策で打開しようとしている今の中国は、戦前の日本と同じです。
 
中国の指導者たちがそこまで愚かだとは思いませんが、引き返せなくなる時点というものがあります。
戦前の日本は、米国から石油禁輸を受けたことで、「石油が無くなる前に米国を叩こう」との逆発想になり、真珠湾を攻撃しました。
「真珠湾攻撃は米国の罠だ」という意見もありますが、冷静に考えれば分かることです。
各種経済データで5~10倍以上の国力差の国に戦争を仕掛けたのです。
「愚行」でなければ、何というのでしょうか。
経済差を考え真珠湾攻撃を思いとどまれば、戦争は避けられた可能性が大です。
真珠湾攻撃の決断が「引き返せなくなる時点」だったのです。
(歴史に「たら」「れば」は無いことは分かっていますが・・)
 
中国政府は、まずは、正確な経済データの把握に全力をあげ、その結果を国民に示すべきです。
それが戦争を回避する一番の道です。
メンツを重んじ、中国の夢の錯覚から覚めない習近平政権には無理だと思いますが、「経済と政治の不整合が戦争の引き金になる」という歴史の教訓は分かって欲しいと思います。
 
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<編集後記>
昨日(5月19日)、また沖縄で米軍関係者による”おぞましい”事件が起きました。
オバマ大統領の広島訪問を前に、米軍基地反対の論調が強まるかもしれません。
気持ちは理解できますが、冷静さを欠いた感情論一色にならないよう、マスコミは心して欲しいと思います。

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