2015年7月6日(臨時号ギリシャ特集)

2015.07.06

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2015年7月6日 臨時号
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                発行日:2015年7月6日(月)

いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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          2015年7月6日臨時号の目次
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★事前のつばぜり合い
☆チプラス首相の目論見
★ギリシャ人は本当の怠け者なのか?
☆ギリシャは、ドイツ、フランスに食い物にされた?  
★ギリシャ迷走の終着駅はどこ?
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こんにちは、安中眞介です。

7月5日に行われたギリシャの国民投票は、61.32%の反対という結果でした。
「賛成派が勝つのでは」とした私の予想は外れました。
ギリシャ国民の間では、それほど緊縮策への抵抗が強かったということです。

本臨時号は、ギリシャ情勢について解説します。

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┃★事前のつばぜり合い                       ┃
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報道で“トロイカ”と称されるのは、EU(European Union=欧州連合)、IMF(International Monetary Fund=国際通貨基金)、ECB(European Central Bank=欧州中央銀行)の3機関のことで、ギリシャの大口債権者である。
ギリシャは、このトロイカから、待ったなしの財政改革案を突き付けられていた。
この改革案をのめなければ、これ以上の支援には応じられない、とである。

それに対し、ギリシャのチプラス首相は、6月30日というギリギリの日に、ユンケルEU委員長、ラガードIMF専務理事、ドラギーECB総裁に、条件付きで受け入れるという書簡を送っていた。
その条件とは、以下のように言われている。

1.観光業に適用する消費税を13%にする(トロイカは23%を要求している)。
2.離島での消費税は30%の特別割引を適用する。
3.年金支給年齢を67才に引き上げるのを今からではなく、10月から適用。
4.最低額の年金受給者への特別手当(EKAS)は2019年末まで維持。
5.軍事費削減を2016年に2億ユーロ(280億円)、2017年に4億ユーロ(560億円)とする
(トロイカは2016年も4億ユーロの削減を要求している)。

ギリシャは、2017年までに債務返済などで290億ユーロ(4兆600億円)の資金が必要だが、自力での調達はとても無理である。
それに対し、ドイツのメルケル首相は、ギリシャのチプラス首相に以下の案を提示した。
その案とは、ギリシャが緊縮策を受け入れることを条件に、350億ユーロ(4兆9,000億円)の支援パッケージを用意し、さらに10月に債務の減免と再編を検討する用意があるという内容であった。

ギリシャにとっては破格ともいえる好条件であり、チプラス首相は、上述の5項目の条件が通らなくても受け入れるだろうと思われていた。

ところが、チプラス首相は7月2日のテレビ演説で、「国民投票では『NO』に投じることを希望する」と、
驚くような発言をした。
なぜ、チプラス首相は、トロイカの改革案を条件付きで受け入れる書簡を送る一方で、国民には「NO」を呼びかけたのであろうか?

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┃☆チプラス首相の目論見                      ┃
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EU側は、チプラス首相はユーロ圏から離脱する気なのかと受け取ったようだが、当初からそんな気は全くなかったらしい。

彼は、6月29日、国営放送(なんと2年ぶりの再開)に出演して「ユーログループが我々を追い出すとは思えない。その代償は非常に高いものにつくからだ」述べている。

ギリシャが抱えている負債は、3150億ユーロ(44兆1,000億円)と言われているが、その80%はトロイカが債権者である。
ギリシャがユーロ圏から離脱すれば、債務不履行が確定し、債権者は債権を取り戻せなくなる。
トロイカはそれを恐れていると、チプラス首相は今でも考えているようである。
だから、国民投票で「反対」が勝てば、トロイカとの再交渉はギリシャに有利に働くとチプラス首相は考えたのである。

結果は、チプラス首相の思惑通り、反対派が勝ち、ギリシャ国民はEU提案を拒否したことになった。

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┃★ギリシャ人は本当の怠け者なのか?                ┃
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ここに面白いデータがある。
OECD Statistics(経済協力開発機構・統計)に掲載されている、国別の年間労働時間である。
以下を見て欲しい。
国名   一人当りの年間労働時間
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メキシコ:2228
ギリシャ:2042
(途中省略)
日本:1729
英国:1664
ドイツ:1371
OECD加盟国平均:1770

なんと、ギリシャは世界で2番目に働き者の国で、ドイツは怠け者の国である。
統計データは、基礎的条件が同一でないと間違った判断をしてしまうという典型的な例である。

毎日新聞外信部の福島良典記者のレポートによると、
「ギリシャは、時間当たりの生産性が低い。長時間労働の自営業や中小企業が多く、効率を重視した国際的な競争力のある産業が少ないため、見かけ上の労働時間が上がる」という。
さらに、ギリシャでは、勤務中にシエスタ(昼寝時間)を取るという習慣があるが、これも労働時間に含まれているようである。
もっとも、ギリシャの夏は我々の想像以上に暑く、シエスタを取らなければ倒れてしまうほどだと言われている。
統計データで的確な判断は出来ないようである。

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┃☆ギリシャは、ドイツ、フランスに食い物にされた?         ┃
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林秀毅氏の欧州経済・金融リポート2.0「ピケティがみたユーロ危機」〔2015年5月8日 日本経済研究センター〕を読むと、興味深いことが書いてある。
以下に抜粋する。

経済書「21世紀の資本」の著者で、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏は、ギリシャ人が生産する以上に消費する“怠け者”であったために債務問題に陥ったとする論調に対して2010年3月に反論。
他国がギリシャ国内で所有する資産が、ギリシャが対外的に所有する資産を常に上回るという「負の遺産」を抱えてきたため、元々「ギリシャ国民が生産する以上に消費せずにいられる可能性はほとんどなかった」とした。
ピケティ氏はさらに、2009年秋にギリシャの財政収支の粉飾が明らかとなった後、金融市場が反応しギリシャの国債金利が急上昇したため、短期間で危機的な支払不能の状況に陥ったことが原因であると述べている。
粉飾決算の発覚が、短期間での危機的な支払不能の状況を招いたとの指摘である。

一考に値する意見であるが、一般に言われている原因を列挙すると、以下のようになる。

(1)財政が基準を満たさないままEUに加盟した
財政赤字を国内総生産の3%以内に抑えるという基準を満たさないままギリシャはユーロ圏に加盟した。

(2)身の丈に合わない借り入れと粉飾決算
EU加盟による通貨ユーロの採用で、ギリシャは市場からの信頼を獲得し、国債利回りは急低下。
政府は低い調達コストで海外から多額の資金を調達した。
しかし2009年10月、欧州統計局が粉飾決済を指摘したことで、同年の財政赤字は、対名目GDP比率で当初の3.7%から12.5%に急落。
危機が表面化した。

(3)公務員雇用、高額年金…公的資金“バラマキ”
海外からの借り入れで得た資金を、与党は、選挙対策である年金給付の増加や公務員雇用の拡大に使ってしまった。
中長期的な経済成長に貢献する投資には使われずに、調達資金は消えてしまった。

(4)脱税、政治家の利権で財政再建が進展せず
ギリシャの脱税規模は「政府財政赤字額の2倍」と言われるほど脱税が日常化している。
ユーロ圏諸国は、政府の徴税能力改善に向けて、人的、システム面で支援を行ってきたが、徴税能力の抜本的な改善は出来ていない。
さらに、国有資産売却策も、政治家の利権の壁で頓挫した。

(5)ドイツ、フランスの食い物にされた
ギリシャの軍事費は、GDP比2%超と北大西洋条約機構(NATO)加盟国としては突出して高い。
実は、ギリシャは、ドイツやフランスにとって兵器購入の得意客なのである。
つまり、両国はギリシャをカモにしていた?

各項目を見ていると、日本だって、いつ陥るかもしれないことばかりである。
国民は、「以って他山の石とすべき」である。

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┃★ギリシャ迷走の終着駅はどこ?                  ┃
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とにかく、ボールはEU側に蹴りこまれた。
EU、とりわけ中心になるドイツは、どう動くのか。
実は、ユーロの通貨統合で一番得をしたのはドイツである。
当時の実力以下の通貨安を享受して外貨を貯めこんだのである。
そのドイツが、ギリシャに緊縮財政を要求しているのだから、皮肉としか言いようがない。

ドイツのショイブレ財務相は、投票前に、先週までのトロイカの改革案は既に無効になっているという意見を表明した。
つまり、これからの交渉は白紙状態からのスタートになり、条件は更に厳しくなるという考えである。
このドイツの姿勢が緩和されない限り、トロイカは具体的な提案はできない。

仮に、ドイツのいないユーログループであれば、ギリシャの執拗な交渉の前にすでに折れていたであろうと一部メディアは報道している。
世界の経済学者らの意見は、ギリシャ国民はこれ以上の緊縮策を受け入れられないだろうと、ギリシャ寄りの意見が増えているという。

だがドイツは、メルケル首相が投票前に思い切った救援策を提示し、チプラス首相も条件付きながら受け入れを表明したのに、土壇場で裏切られたという不信感が強い。
容易にはギリシャからの誘いには乗らないであろう。

たとえEUからの支援策がまとまったとしても、社会保障費の削減や物価の高騰、高い失業率など、ギリシャ国民の「いばらの道」は果てしなく続く。
国民が耐えていけるとは思えない。

現在のギリシャのプライマリーバランス(歳入と歳出のバランス)は、ほぼ取れているという。
ならば、債務を大幅にカットして返済の負担を減らす以外に策はない。
国も企業も、再建策に本質的な違いはない。

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<編集後記>
日本は、ギリシャの轍を踏まないためにも、本気で財務バランスの是正に取り組む必要があります。
カギは社会保障費の抑制にあります。
国民も真剣に考えていかなければなりませんね。
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