2016年12月31日号(経済、経営)

2017.01.16

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年12月31日号
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                発行日:2016年12月29日(木)

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        2016年12月31日号の目次
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★中国経済のからくり
☆トランプ氏を利用する“したたかな”政策へ
★未熟な日本の計画技術(3)
★インフレ誘導政策は是か非か(3):官制経済の危うさ
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は経済、経営の話題をお送りします。

今年の日本経済を一言で言うと、「可もなく不可もない1年」でした。
ですが、来年は、トランプ大統領の誕生で、良くも悪くも世界経済は波乱含みです。
日本経済がどの程度の影響を受けるかは未知数ですが、企業としては、短期的変動に備える経営へのシフトが必要と考えています。
そのことについて、来年から新たな連載を始めようと企画しています。

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┃★中国経済のからくり                       ┃
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中国の外貨準備高が急減し、3兆ドルを切ろうとしている。
一時は4兆ドル寸前まであったから、深刻な事態である。
当然、中国当局は流出する資金の抑制に躍起になっている。
露骨な為替介入を行うだけでは足らず、500万ドルを超える海外への送金や両替を事実上禁止するという強引な措置を講じた。
この処置を海外企業にも適用したので、中国に拠点を持つ企業は利益を国外に持ち出すことが出来なくなった。
中国への投資が黄色信号から赤信号に変わる危険が現実化してきたといえる。

 
もっと深刻な数字がある。
12月15日、米財務省は国際資本統計を発表したが、10月末時点の米国債保有額で、日本が中国を抜き1年8ヵ月ぶりに首位を奪回した。
日本も前月比で45億ドル減の1兆1319億ドルと下がったのだが、中国は413億ドル減と大幅に減じ、1兆1157億ドルと日本を下回ったのである。
現在、この差はさらに拡大しているとみられるが、中国が2位に落ちた影響は深刻である。
なぜなら、真の外貨準備高と言われるのはこの米国債なのである。
今後、米国債保有額が減り続ける中国に対し、投機筋の元売り圧力が一段と高まることが予想される。

 
しかし、そんな中でも「投資の天才」と呼ばれているジム・ロジャーズ氏は、相変わらず「中国推し」の投資を続けている。
ロジャーズ氏は「中国経済は他国の経済とは根本的に違うのだ」と、GDP操作疑惑など全く気にせず、中国に全幅の信頼を寄せているように見える。
(あくまでも、見えるだけであるが・・)

 
以前から、こうした米国投資家の姿勢を奇妙に思ってきたが、中国の研究を進めていくうちに、そのからくりが分かってきた。
我々は、中国を「共産主義の国」と見ているが、その前提が間違っているのである。
中国は、平等を目指した共産主義とは正反対の「格差主義」の階層社会になっているのである。

 
その象徴が新幹線の座席に現れている。
中国の新幹線は、特等~2等に座席が分かれているが、特等席はわずか5、6席で、1等席も30席くらい、その他の大半(700~800くい)が2等席というように、徹底的に格差をつけている。

 
しかも、そもそも新幹線に乗れるのはある程度の富裕層だけで、大多数の庶民は、座席も劣悪な一般列車で数十時間をかけての旅となる。
この座席や列車の比率こそ、格差の人口比率とほぼ同じなのである。
このように、今の中国社会は、ありとあらゆるところでクラス分けがなされている「超階層社会」になっている。
その最上位に君臨する階層が共産党員であり、そのてっぺんが共産党最高幹部の7つの椅子である。
しかも、さらにその上に皇帝の椅子を置こうとしているのが現政権である。

 
こうした階層社会を力づくで維持し、コントロールし、外資を呼び込むことで経済の破綻を防いでいるのが、今の中国なのである。
世界の投資家は、GDP値の粉飾に代表される中国のウソを見抜いているが、逆にそのウソを利用して利益を膨らませている。
格差こそは、支配階級や投資家が利益を上げるのに最も適した源泉に他ならないのである。

 
現に、中国買いを推し進めている前述のロジャーズ氏だが、2007年には中国株が上げ切ったところでちゃっかり売り抜け、その後の暴落後に押し目買いをしている。
自分の知名度で煽って株価を釣り上げ、その裏で売り抜けるという商法である。
こうした著名投資家の言動で多くのカネが動き、結果として中国経済の破綻を助けているといえる。
破綻すると言われながら中国経済が破綻しないからくりは、共産主義の衣をかぶった徹底した階層社会という特異性と、それを利用している投資家の存在なのである。

 
問題は、中国当局が粉飾を維持できなくなった時である。
もっともロジャーズ氏らは、その場合の備えもしっかりと用意していると思うので、彼らの動きに要注意である。

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┃☆トランプ氏を利用する“したたかな”政策へ             ┃
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矛盾だらけのトランプ氏の発言ですが、トランプ氏はそうした批判など全く意に介していないようです。
平気であからさまなウソや無責任な言動を繰り返し、それを指摘した人は徹底的に口撃する。
世界は、こうした人が次の米国大統領になることに危惧と戸惑いを覚えているが、どうすることも出来ない。
1月20日以降は「こうした発言を慎むのではないか」との淡い期待をかけて諦めているようである。

 
しかし、日本としては、受け身にならず、より積極的な戦略をもって、来年以降の4年間トランプ氏をどう利用するかを考えるべきである。
 
最初に行うべきことは、トランプ氏の発言の裏(真意?)を分析することである。
経済政策でいえば、「TPPの破棄=保護貿易に走る」と、単純に考えてはいけない。
トランプ氏の真意は、米国の通商政策における交渉力の強化にある。
TPPのような多国間交渉では、米国は、貿易量において全体の6割を占めているのに、一参加国としての立場しかないことに不満を持っている。
それに対し、個別の二国間交渉ならば、力関係で米国に有利な協定を結べると考えているのである。

 
となれば、新政権発足後、そう時間を置かずに日本に貿易交渉を持ちかけてくるであろう。
その際、防衛問題を絡めて日本に圧力をかけ貿易交渉で有利な状況を作ろうとすることが考えられる。
これが「日米安保はアンフェアだ」と言っている真意であろう。
日本は、こうした圧力に屈するふりをして、したたかに日本の国益にかなう方向に交渉をリードすれば良い。

 
TPP交渉では、農業関係者から「コメを犠牲にして自動車産業を助けるのか」というような批判が出ていたが、冷静な判断では「自動車を犠牲にしてコメを助ける」わけにはいかないのは明白である。
 
そのような明日の展望もない反対ではなく、「コメを犠牲にする」ふりをして逆の成果を上げさせ、その資金で日本の農業を強化する政策を実行するという圧力を掛けるべきである。
防衛問題とて、米国の意図は、経済問題を有利に進める道具なのである。
ならば、日本も同様の戦略で立ち向かうべきである。
「在日米軍の撤退」などによる損失は米国のほうが大きいのだから。

 
安倍内閣がトランプ発言にも関わらずTPPの国会承認を急いだことで野党は批判を強めているが、
野党の幼稚さのほうが心配である。
安倍内閣は、トランプ政権発足後、TPP交渉が日米の個別貿易交渉に変わることは想定している。
しかし、その場合でも、交渉内容がTPP交渉と全く異なるとは思っていないであろう。
実際、TPPにおいては、全体での公式交渉の場より日米による非公開交渉のほうにずっと重きが置かれていた。
この成果を完全に捨て去るより、TPP交渉を土台にした交渉にするほうが良いと日米双方の当局者は考えている。
そこまで考えての安倍内閣のTPP承認と認識すべきである。
ゆえに、野党としては、政権を上回る戦略が必要なのに「反対」一色の芸の無さである。
安倍政権からは完全になめられ切っていることを自覚すべきである。

 
勿論、今後の交渉の場で、政治経験のないトランプ氏から素人感丸出しの指令が出ることは考えられる。
しかし、それでも専門家である当局者の意向を完全無視することは難しいであろう。
そのような場合は、むしろ「相手の混乱を利用しよう」というくらいのしたたかさで戦って欲しいものである。

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┃★未熟な日本の計画技術(3)                   ┃
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高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決定されました。
1兆円をはるかに超える費用をかけながら、1ワットの商用電力も生み出すことができなかった原子炉として、マスコミは非難の大合唱、国民の多くも怒っています。
私は、何度か述べたように、「もんじゅ」の設計に携わっていた時期がありました。
その時の設計においては、「冷却材に液体ナトリウムを使う」という高速増殖炉特有の技術の壁を克服できないという大問題があり、根本的な解決策は作れませんでした。
しかし、「もんじゅ」の前に作られた実験炉の「常陽」が臨界にこぎつけられたことで、「“もんじゅ”もうまくいくさ」といった楽観論が政府や上層部に蔓延していました。
たしかに「常陽」は冷却材に液体ナトリウムを使用していましたが、熱を生成するまでの実験炉であり、電力を生成する原子炉ではありませんでした。
電力を生成するには、より多量の液体ナトリウムを複雑に循環させる必要があります。
しかし、ナトリウムは熱伝導率が大きいため、温度の上下により配管や機器類の構造材料に繰り返し大きな熱衝撃を与えます。
設計時のシミュレーションでは、5年間の運転で配管の曲がり部にピンホール(微小な穴)が開くという問題が生じたのです。
技術チームは、克服する手段を必死に模索したのですが、ついに根本的な解決策は見い出せませんでした。

 
しかし、「もんじゅ」建設に巨額の予算が付いてしまうと、もう止まりません。
「巨額の予算=巨額の利権」が生まれ、経済界だけでなく政界が深く関わってきます。
技術陣の懸念などは「小さな問題」として、チリのごとく吹き飛ばされてしまったのです。

 
豊洲の問題も五輪会場の問題も、「もんじゅ」と同様の「計画が軽く扱われる」という日本特有の問題が根っこにあります。
小池都知事は、都民の支持をバックに、計画そのものを根こそぎ変えようと目論んだようですが、「時、既に遅し」の感があります。
都知事就任が1年遅かったということでしょうか。

 
しかし、国民の多くは、やりきれない思いを抱えたままです。
せめて「巨額の予算=巨額の利権」の構造を暴いてくれという切なる願いを都知事に託しています。
でも、小池都知事には、その構造を暴く力や情報を持っているスタッフがいないのではないかと思われます。
相当の難題と言わざるを得ません。

 
ただ、このような巨額の建設物の計画が「実にいいかげんである」という事実に、国民を気付かせた功績は大きいと思います。
欲を言えば、「計画の大切さ」にまで国民の意識が進むと良いのですが、どうでしょうか。

 
まだまだ道は遠いです。
そこには、「技術と政治の対立」という、最も深いレベルの問題があり、常に技術が負けてきました。
そして、ここでいう「政治」の当事者には、国民が含まれるのです。
計画問題の最大の利権者とは国民そのものなのだという自覚が必要なのですが、
当の国民はそのことに気づこうともせず、犯人探しばかりです。
原発問題も沖縄の基地問題も、そうした低次元での対立になっています。
日本国民の意識は、まだまだ夜明け前なのです。

 
「技術と経営の対立」は、国民を社員や顧客と置き換えてみれば、どの会社の根本の問題でもあります。
新年からは、経営問題として「未熟な日本の計画技術」を論じてみたいと思います。

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┃★インフレ誘導政策は是か非か(3):官制経済の危うさ       ┃
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来年度の春闘でも、安倍政権は経済界に「官制賃上げ」を要請するようである。
強引と言われようと、インフレ誘導政策を進める執念のようなものを感じる政権の姿勢である。
安倍政権のこうした姿勢は、日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)にまで及び、それまで禁じ手とされていた株式購入に拍車がかかっている。
今や、東証一部上場企業の株式の37%が日銀とGPIFの持ち株となっているという指摘がある。
上場企業の4社に1社は、実際の筆頭株主が日銀とGPIFだとも言われている。
「まるで、国営企業ではないか」という危惧の声も聞こえる。
しかも、両者とも、こうした保有株を売却する方針を示していない。

 
ここまでの安倍政権の努力は認めるが、「経済を支える」ことに重点が行き過ぎて官制経済になってきてしまっている。
ただ、安倍首相は強運の持ち主なのか、トランプ旋風による米国経済の過熱現象のおかげで官制経済の弊害がまだ出てこないという幸運に恵まれている。
こうした幸運があるうちに、官制経済からの脱却に取り組まないと抜き差しならない事態に陥る危険がある。

 
前号で述べたように、日本経済のガンは、団塊世代の高齢化と低消費の若者年代である。
だが、団塊世代に「老いるな」とは言えないので、若者年代の給料を上げさせようと企業に圧力をかける「官制賃上げ」になっているのである。

 
しかし、たとえ、給料が上がっても若者世代は従来型の消費などはしない。
それは「カッコ悪い」ライフスタイルなのである。
しかも、それは先進国に共通のライフスタイルである。

 
欧米では、有名ブランドのロゴを付けた服を着ることが「カッコ悪い」ことになっている。
一方で、ブランドものの生地の良さ、着心地の良さは捨てがたい。
そこで、買い求めた有名ブランドの服から苦心してロゴマークを外すことがはやっているという。
外した跡が不自然にならないような工夫の仕方がネットに溢れるという二次現象まで引き起こしている。
こうした現象が日本でも広がってくるのは時間の問題である。
だが、こうした現象を取り込む経済を官制経済で作っていくことなど出来るはずはない。
政府がそこに気が付かないで、今のままの官制経済を進めていくことが間違いなのである。

 
「モノを買う」という形の個人消費は、消えることはないが、もう伸びることは無い。
「高級品を持っている」ことを誇示することは「カッコ悪い」から敬遠されるが、「高級品の良さ」は理解している。
こうした、一見矛盾するようだが理にかなっている購買動機を理解することは、古い経済理論に染まっている年代の人間には難しいだろう。
でも、真の「遊び心」を持っている人は、年代にかかわらずに理解できると思う。
「官制賃上げ」ではなく、企業の自由度を増やし、新規事業の後押しを強化すべきである。
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<編集後記>
建設ビジネスサロンが予告ばかりで、なかなか開設せずに年を越してしまいます。
申し訳ありませんでした。
でも、来年早々から本気で始めます。
予告通り「ネットサロン」から開設しますが、最初のシリーズは「基本の原価管理術」です。
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