軍隊という組織(1)

2022.06.30

ウクライナ侵攻では、ロシア軍の“意外な弱さ”が露呈しています。
このことは、「日本の自衛隊は大丈夫なのか」という反面教師にもなっています。
しかし、77年の平和に慣れた日本国民の意識からは「軍隊」への関心も理解も薄いものになっています。
戦後生まれの私も同様なのですが、環境が少々違っていました。
本メルマガで何度も言及していますが、父は旧日本陸軍の将校で、最前線で米軍と戦った過去を持っていました。
また、父の男兄弟で、子供の時に亡くなった者を除く4人のうちの3人が父と同様に軍人でした。
うち、兄の一人は沖縄戦で戦死、弟はシベリア抑留で命を落としました。
死亡率5割ですが、前線における若い将校の死亡率は、そのぐらいでした。
(ちなみに陸海軍の戦闘機パイロットの死亡率は9割と言われています)
そうした軍人家系の中で育った私は、父たちから、戦場での実体験の他に、軍隊という組織について様々な話を聞きました。
さらに、40代からは孫子研究の第一人者であった故武岡先生に学ぶことができました。
先生も、実戦を戦った旧陸軍将校で、戦後は陸上自衛隊で陸将として多くの自衛官を指導してきました。
その縁もあり、私は自衛隊の実戦演習に参加したことがあります。
そうした話や経験から今回のウクライナ侵攻におけるロシア軍の戦略や行動を見ていると、ロシア軍の組織上の欠陥がよく分かります。
前段が長くなりましたが、今回から数回に分けて、軍隊という組織について論じてみます。
私の力には余るテーマですが、会社組織にとって参考になることも多いと思います。
問題のロシア陸軍は、軍管区単位で編成されていて、以下の構成になっています。
上位組織から、軍、軍団、師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊、分隊です。
世界標準的な編成といえます。
最小の分隊は5~10人編成で、最上位の軍は10万~20万というところでしょうか。
今回の侵攻兵力は17~20万と言われていますが、東・南・北の三方向からの侵攻です。
ということは、軍としてではなく、軍団単位での侵攻であることが分かります。
全体の指揮を取る軍司令官の存在が見えないことも、そのことを裏付けています。
親露派が一定の支配をしている東部地区へ侵攻した軍団、および2014年から占領を続けるクリミヤ半島を起点とする南部地区へ侵攻した軍団に比べて、
ベラルーシから侵攻した北部地区の軍団は、後方からの兵站に難があり、敗退という結果になっています。
この軍団の司令官を待っている処分は過酷なものになるでしょうが、敗退はプーチンが最高司令官としての資質に欠けることを意味しています。
三軍団を統括指揮する軍司令官がいなかったということは、軍団単位の各司令官が、連携なくバラバラに作戦を進行させていたということを意味しています。
大失敗に終わった旧日本軍のインパール作戦と似たような状況になっていたと思われます。
インパール作戦では、牟田口廉也中将が全体の指揮を取る立場でいたのですが、彼の作戦立案は願望が先走り過ぎ、机上の空論だったと言われています。
その結果、三方向に分かれて侵攻した各軍団が互いに呼応しながら進撃することはなく、それぞれが孤立し、かつ兵站線が寸断され無惨な結果に終わりました。
まったく同様の愚を、現代のロシア軍が冒しているといえます。
遅まきながら、プーチン大統領は全戦域を統括する司令官に、ロシア連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将を任命しました。
同大将は、シリアでの残虐行為の報道が伝えられているだけで、力量はよく分かりません。
しかし、任命後の軍事指導の情報がなく、その力量は不明のままです。
というより、「今さら・・」と本人も思っているのではないでしょうか。
次回は、別の側面からロシア軍の致命的な弱点の話をしようと思います。