抑止力という名の軍事力(20)

2021.12.28


ロシアがウクライナとの国境に大軍を集結させ、年明けにも軍事侵攻するのではと報道されています。
ロシアが、こうした脅しを掛けるのは、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を病的なまでに恐れているからです。
ロシアの歴史を考えれば、そうした心理は理解できます。
古くはナポレオンによる遠征、近代ではナチスドイツによる侵攻といった西側からの侵略で、国が無くなるかもしれないほどの被害を受けました。
このトラウマは、現代でも国民意識となっています。
1979年、当時のソ連は、突如アフガニスタンへの軍事侵攻を始めました。
結果としては大失敗に終り、現在まで続く中東の不安定要因を作っただけの愚行でした。
ですが、この侵攻も、国境線を遠ざけたいとするトラウマともいえる感情から出たことです。
 
またロシアは、ウクライナはソ連崩壊で失った「もともとのロシア領土」という意識を持っています。
歴史的には、そう単純な話ではありませんが、ウクライナ東部の住民も同じように考えウクライナからの独立運動が起こっています。
それに対しウクライナ政府は、12万の大軍で東部地区を包囲して圧力をかけています。
今回のロシア軍の国境集結は、それに対する対抗処置との見方もあります。
 
ロシアは、黒海とつながるアゾフ海を、事実上の内海にすることを狙っています。
それにより、ロシア黒海艦隊の行動の自由度が格段に増すからです。
その第一弾が2014年のクリミヤ半島併合で、第二弾が、親ロ派の住民が多いウクライナ東部地区(アゾフ海沿岸)を分離独立させることです。
この意図を考えると、ウクライナへの軍事侵攻はあり得ることとなります。
その場合、ウクライナの北に位置する親ロ派のベラルーシから侵攻する可能性があります。
アゾフ海沿岸の東部地区とは真反対になりますが、その包囲に動員されているウクライナ軍の背後を突く格好になります。
ウクライナ軍も12万の大軍ですが、国境に展開しているロシア軍10万の圧力で動けなくなります。
そうした膠着状態を作った上で、実質的にロシアの支配下にある東部地区の親ロ派に武装蜂起させ、ウクライナから分離・独立させるという戦略です。
陸海空合わせて25万のウクライナ軍は、こうしたロシアの侵攻に手も足も出ず、東部は事実上のロシア領土となるでしょう。
 
米国のバイデン大統領は、プーチン大統領とのオンライン会議で「米軍出動は無い」と明言してしまいました。
こうした米国の腰の引けた姿勢は、プーチン大統領の「経済制裁はしのげる」との判断を誘発し、軍事侵攻に踏み切らせる可能性があります。
とはいえ、ロシア経済の現状は厳しく、膠着状態が続き、どこかで和解がなされる可能性のほうが高いと思われます。
 
日本にとっての問題は中国のほうですが、こうした米国の弱腰姿勢を見て「バイデン大統領は口だけ」と判断した中国が、台湾への軍事侵攻を実行に移すかもしれません。
日本は、防衛の基本戦略を、米国との同盟中心から自国防衛力中心に見直す必要があります。
それが、最大の戦争抑止力になります。
残念なことですが、中国の戦略が根本から変わらない限り、日本の戦略を変えるしかないのです。