抑止力という名の軍事力(16)

2021.09.01


中国から「日本が台湾有事に軍事介入するなら中国は即座に日本を核攻撃する」という動画が配信されました。
たとえ動画といえども、中国では検問なしの配信はできませんから、政府主導と見るべきです。
国際社会では、核保有国は非核保有国に対する核攻撃は行わないことが暗黙の了解となっていました。
中国が、公然とこの了解を覆してきたのですから、米国でも大きな波紋を広げています。
 
この動画では、「中国は、日本が台湾有事に一兵卒でも一軍用機でも送って参戦した場合、ただちに日本に核攻撃を行う。この戦いは全面戦争であり、日本が完全に降伏するまで核攻撃を続ける」と日本への威嚇で溢れています。
こうした中国の姿勢を支持する国家は北朝鮮ぐらいであり、ロシアは無反応、反日に染まる韓国もさすがに沈黙です。
中国の核兵器は、日本だけでなく韓国にも照準を合せていることを、否が応でも思い知らされたはずです。
 
習近平政権の無軌道ぶりが、これほどはっきり示されたことは驚きですが、冷静に中国の意図を分析することが大事です。
いまや中国の外交は行き詰まりを見せ、何もかもうまくいかなくなっているのです。
数字的には好調さを見せている経済も、バブル崩壊の兆しが現れ始めています。
そうした中での今回の動画騒動ですが、実際に核攻撃に踏み切る可能性は「ゼロではないが・・」というレベルです。
逆に、台湾侵攻や尖閣侵攻が難しくなっている状況にあることを物語っているといえます。
(東沙島などの台湾の離島への侵攻はあるかもしれませんが・・)
 
その裏返しとして、日本への核攻撃という恫喝戦術に出たということです。
しかし、日米両国を同時に相手とする戦争はもちろん、日本単独に対しても勝つ戦略が描けないというジレンマ状態にあることを、むしろ露呈したといえ、外交的にはマイナス要素にしかなりません。
 
核兵器は、自国に対する核攻撃への報復という意味しか持たない兵器です。
例外は、イスラエルであり、北朝鮮です。
イスラエルは周囲全てが敵であり、数の上の圧倒的劣勢を補う上での核武装です(公式には一切保有を認めていませんが・・)。
北朝鮮は、あの貧弱な通常兵器では戦争になりません。
軍事弱国なのに平和路線を選択できない国の末路といえます。
 
こうした国家とは違う非核国は「持たない」ことが一番の防衛策です。
日本の一部に核武装論を唱える人たちがいますが、「持ちたがり病」としか言えません。
 
しかし、中国による核攻撃の可能性がゼロとはいえない国際政治の現実は無視できません。
人民解放軍の中には「日本への軍事攻撃を」という声があることも事実です。
国際社会には、「日本は、核兵器を持とうと思えばいつでも持てる国」という認識があります。
核保有国に囲まれている日本は、こうした認識を勝手に持たせておくことも抑止力です。
それゆえ、核兵器廃絶条約に加盟しないという政治的選択は現時点では正しいと思います。
中国による恫喝が続く限り、外交的防衛策をたくさん持つ必要があるからです。
残念なことですが、日本を取り巻く情勢は平和ではないのです。