抑止力という名の軍事力(14)

2021.07.01

誰もがご存知のことですが、戦前の日本は戦闘機開発の先進国でした。
終戦間際、ドイツから得た設計図を基に世界で二番目のジェット戦闘機「橘花」を開発しましたが、試作機の段階で終戦となりました。
この敗戦で日本は飛行機の開発が禁じられましたが、エンジンがプロペラからジェットに代わるという大きな技術転換期であったことが日本の不幸でした。
敗戦から実に42年が経った1987年12月、ようやく戦後初の国産戦闘機の開発計画が立ち上がり、F-2と名付けられました。
しかし、長期の空白の影響は大きく、完全国産による開発は無理として米国のF-16戦闘機をベースにした開発となりました。
たしかに、このことで開発期間は短縮され2000年9月の初号機納入にこぎつけましたが、米側の思惑に振り回され、技術やノウハウの蓄積は思うように出来ませんでした。
 
この轍を踏まないようにと、次期戦闘機の開発は日本が主導を採るとしていましたが、技術蓄積の乏しさはいかんともし難く、結局米国との共同開発にならざるを得ませんでした。
その結果、またしても米国が大きな壁となり、開発の主導権が制約を受ける懸念が浮上してきました。
主幹企業の三菱重工とエンジンを請け負うIHIの頑張りに期待するしかないのでしょうか。
 
前号で書いたように、近代の戦闘機は、単独の性能よりネットワーク網を介した連繋機能がカギになってきています。
こうした大きな技術変革期に、日本は「現在、世界には存在しない」戦闘機を開発しようとしているのです。
つまり、今回は単に兵器を開発するという次元を超えて、世界をリードする最先端の技術やノウハウを開発する大きな機会と捉えるべきなのです。
当然、米国も同様の考えを持っていて、開発の主導権を取ろうとしています。
同盟関係とはいえ、両国は静かな戦争に突入しているのです。
 
技術の世界に軍用と民用とを隔てる垣根は存在しません。
採算を度外視できる軍用がリードし、その成果が民用に転用されていくのです。
その中でも戦闘機の開発は、宇宙開発と並ぶ最先端の技術開発です。
戦闘機の開発の歴史をたどるだけで、近未来の技術開発の進む道が見えてくるのです。
それは次号で。