日本流の中国との付き合い方を(その5)

2019.05.06

ソ連崩壊の頃から「中国もいずれは“崩壊”する」という予測が、欧米日の政治・経済の研究機関から何度も出されてきた。
しかし、中国は“崩壊”せず、経済規模で日本を抜き去り、軍事力でも米国に挑むという野心をあからさまに出してきた。
 
私も崩壊論を書いてきたが、「崩壊を望む」というより「変化を期待」してきた。
その変化が起こるか否か、今年の4月9日に習近平国家主席が発表した「論考」なる論文に注目した。
その中で、西側の思惑に反して中国が崩壊しなかった理由を、習主席は以下のように定義付けている。
 
習主席は、発表した「論考」の中で、中国が推進してきた「特色ある社会主義」こそが中国の発展という“歴史の結論”を導いたと述べ、中国の作家・魯迅が残した次の言葉を引用した。
「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」。
つまり、西洋からの借り物の社会主義ではなく、中国が独自に作ってきた「特色ある社会主義」の正当性を強調し、この路線を、自信を持って進むという宣言である。
その意思は「論考」の中の以下の文章に強く現れている。
 
「近年、国内外の一部世論は、今の中国は社会主義国家なのかという疑問を投げかけている。彼らは、“資本社会主義”“国家資本主義”“新官僚資本主義”といった表現を使うが、これらは完全に間違っている。 我々が言うところの中国の『特色ある社会主義』とは社会主義であり、どのような方法で改革、開放を行っていくにしても、中国の特色ある社会主義の進路、理論体系、制度を堅持していく」
さらに続けて、
「近年、わが国の総合国力と国際的地位が上昇するに伴い、国際社会では“北京コンセンサス”“チャイナモデル”“中国道路”といった議論や研究が増えてきている。その中には称賛する者もいる一方で、一部の海外の学者は『中国の急速な発展は一部西側の理論が疑問視される状況を作り出し、一種の新たなマルクス主義理論が西側の伝統的な理論を転覆している』と考えているようだ。だが、我々は、各国の発展の道は各国の人民によって選択されるべきであると考えている。いわゆる“チャイナモデル”というのは、中国人民が自らの奮闘と実践の中で創造した中国の特色ある社会主義の道に他ならないのである」
 
強烈な自信であるが、ここまで強く言うのは、西側の批判めいた論評が気になるのであろう。
西側でさかんに言われるようになった「国家資本主義」とか「チャイナモデル」という言葉や概念が、習主席の癇(かん)に障っているのである。
 
この論考で注目すべきは「各国がそれぞれの道を歩むべき」という中国の立場表明である。
これは何を意味するのであろうか。
習主席は、既存の社会主義国が次々と崩壊する過程を見て、ソ連が目指したような「世界を共産主義に」というイデオロギーでの勝負は無理ということは悟ったのであろう。
 
しかし、西側の価値観である「自由資本主義(グローバリズム)」に異を唱える国や人々の声が大きくなり、米国の大統領までもが「自国第一主義」を打ち出す“内向きな動きの現状”を見て、これを利用する戦略を考え出した。
 
それは「中国の特色ある社会主義」の優位性を証明し、その複製を世界のあちこちに植えていくという戦略である。
それが「一帯一路」の真の狙いである。
一帯一路が成功して、参加国にチャイナモデル式の社会主義が浸透すれば、結果的に「中国共産党の正統性の死守と強化」を世界に示すことにつながる。
そのことで、中国が米国にとってかわって世界のリーダーとなったことを世界が認める。
今回の「論考」を読んで、この狙いがはっきりと分かった。
 
さて、そうした中国の戦略に対して、日本はどのように対処すべきなのか。
次回は、もう一つの側面、台湾問題を論じてみたい。