世界経済はどうなるの? (2)

2016.06.01

3月16日、中国の全国人民代表大会(全人代)が閉幕しました。
マスコミは、この全人代のことを「日本の国会に相当」と報道しますが、民主主義国の国会とは似て非なるものです。
そもそも一党独裁の中国に、我々が認識している「国会」など存在していません。
マスコミは、このような余計な注釈などは付けるべきではないと思います。
 
さて前号で「中国の政権が次に打つ政策を検証してみる」と大見得を切りましたが、この全人代の報道を見る限り、画期的な政策など見当たりませんでした。
李克強首相は(過剰生産の象徴である)ゾンビ企業の整理と、6.5%を超す高めの成長を同時に達成すると強弁しましたが、
この相反する2つの目標をどうやって達成するのか、具体策は一切ありませんでした。
たしかに構造改革を強調していましたが、欧米の市場関係者は疑いの目で見ています。
一党独裁の政治体制の中での構造改革は、共産党内部の血みどろの抗争を招くからです。
そして、その抗争の勝者が誰になっても、経済の悪化は深刻になるだけです。
 
中国は、トウ小平の頃より、政治には自由を認めず経済は自由にするという民主主義国家とは違う政策を採り、いったんは成功を収めました。
独裁政治の利点を最大限に活かし、固定為替制度を維持し、金融を全て国家統制の下に置いてきました。
その結果、国際的に安く豊富な労働力を背景に、大幅な経済発展を遂げてきたわけです。
この成功体験の故に、トウ小平後の政権も「一党独裁政治」の優位性を疑いもしませんでした。
 
しかし、経済の発展とともに対外圧力が強まり、やむを得ず、完全とは言えない形ですが、変動為替制度に移行しました。
この結果、元安の優位性が徐々に失なわれだしたのです。
さらに、金融資産を蓄えた中産階級が増え、その要求で資本の自由移動を認めました(つまり、日本での爆買いが出来るようになったのです)。
ここから中国経済は行き詰まっていきました。
 
そもそも、自由主義経済の三本の柱、為替相場と資本移動、金融政策は、相互に矛盾し合う関係にあります。
これを「国際金融のトリレンマ」と言います。
つまり、(1)為替相場の安定と、(2)自由な金融政策、(3)自由な資本移動の3つは同時に成り立たず、どれか1つを犠牲にしなければならないという定理です。
日本を含めた自由主義の各国は、この3つのバランスをとることに苦労しているわけです。
なのに、中国は、共産党一党独裁の政治形態の中で、この3つを完全に統制出来ると過信したのです。
 
中国は、自由な資本移動(海外の株や債券を買ったり、買い物などでドルや円を海外に持ち出したり)を認める一方、為替の安定を目論んで市場介入を行ってきました。
この介入は金融引き締め政策であり、続ければ金融政策の自由度を損なっていきます。
そこで、金融緩和策へ切り替え、市場介入を縮小したところ、人民元の下落を招きました。
慌てて大幅な市場介入を再開し、人民元の下落を食い止めようとしたわけですが、当然、失敗しました。
この矛盾を解こうと思ったら、別の選択肢として自由な資本移動を認めない(つまり、爆買いを禁止)という資本規制に踏み切らざるをえなくなります。
 
しかし、それでは、国際通貨基金(IMF)が認めた人民元のSDR(特別引出権)通貨入りが暗礁に乗り上げてしまう恐れがあります。
資本規制は、IMFが中国に求めた人民元改革に反するためです。
IMFは自由な資本移動と変動相場を認める(つまり為替相場の安定性を犠牲にする)代わりに、自由な金融政策を認める立場だからです。
 
でも、このまま月1000億ドルにおよぶ資本流出が続けば、中国は、人民元の下落を容認するか、資本規制を実施するか、さらなる為替介入を続けるかの選択を迫られます。
しかし、そのどれも中国経済の崩壊につながる道です。
 
残るのは一手だけですが、それは次回に解説します。