商品開発のおもしろさ(5)

2020.11.15


今回は、商品としてのアニメ・コミックの話をします。
読者のみなさまは、アニメ映画が大盛況の「鬼滅の刃(きめつのやいば)」というコミックをご存知だと思います。
私は、TV版の第1回を観た時、「これはヒットする」と確信しました。
「商品開発のおもしろさ」が詰まっていたからです。
 
時代背景が大正時代という異色の設定が、まず興味を引きます。
あの時代の日本なら、敵役(かたきやく)の「鬼」にリアリティ感を持たせられるからです。
「兄妹の愛」というテーマは陳腐ですが、大正時代という異色の時代背景と組み合せたことが成功しています。
 
こうした話の王道で、当然、妹は「美少女」です。
ところが、時に鬼になってしまうこの少女は、昼間は兄の背負うカゴの中に、竹の猿ぐつわをはめられ眠っています。
この意表を突く第三の設定が興味をさらに掻き立てる道具となっています。
 
この少女、鬼と戦っている兄がピンチになると、突如覚醒し、カゴから飛び出し、凄まじい形相で敵対する鬼を倒すのです。
かわいらしい妹の顔が鬼の形相に一変するのですが、美少女の面影をちゃんと残している作画能力も、ヒットの大きな要素です。
 
このアニメ版の作画には大きな特徴があります。
背景が水墨画のようにモノトーンの世界になっているのです。
そのせいで、登場人物たちの派手な色柄の服装がより際立つ仕掛けになっています。
しかも、この背景が実に緻密に描かれていることで、このプロダクションの作画能力が尋常ではないことが分かります。
その背景の上で激しく動く派手な衣装の主人公たちは、「動く浮世絵」のようです。
このプロダクションの作画能力が、ヒットの最大の要素といえるでしょう。
 
ところで、この妹、コアなファンの間で人気のキャラクターになっています。
女性の芸能人たちが、インスタグラムで、この少女のコスプレを次々と披露していて、それが話題になるなど、二次的、三次的な広がりになっています。
そうです。このコミックの大きなキーワードのひとつは「強い美少女」です。
この妹以外に、主人公の同僚となる「鬼殺隊(きさつたい)」には、何人もの美少女隊員が登場します。
これら美少女たちのコスプレも芸能人に流行っていますが、少し前の「セーラームーン」のコスプレを世界的なフィギュア選手が演じたことからも分かるように、「強い美少女」は現代のキーワードです。
 
最後のキーワードは、敵役の「鬼」にあります。
登場する凶暴な鬼たちは、元は人間だったという設定です。
日本各地に、鬼伝説と人食い伝説(一部は事実)が残っています。
「人は死ぬと鬼になる」は、中国の道教の思想です。
死ぬことを「鬼籍に入る」と言いますが、道教の思想が日本に広く伝播していることの証明です。
そして、生前、悪行を行っていた者は、地獄で閻魔様に許されず、永遠に地獄をさまよい続ける悲惨な末路となります。
鬼滅の刃では、そうした鬼たちを絶望的な哀れな存在として描き、その境遇に主人公も心を痛めます。
そうした日本人的な感傷をうまく引き出していることもヒットの要因です。
そして、この「敵にも情感を」という傾向は日本アニメの大きな特徴になっています。
 
このように、日本のコミック・アニメには現代の商品開発のヒントが山のようにあります。
読まない、観ない方も、読んでいる知り合いやお子さんから話を聞いてみることをお勧めします。
商品開発者は、あらゆることに興味を持つことが必要です。
旺盛な好奇心こそ、“おもしろい”商品開発の一番の要素です。