中国の思惑通りにはいかない(その8)

2020.12.15


日中韓にASEAN諸国、さらにオーストラリアやニュージーランドを加えた16カ国のRCEP(地域的な包括的経済連携)は、最後にインドが離脱しましたが、8年の交渉の末、妥結に辿り着きました。
中国を含む大型FTAのRCEPの実現は、世界経済に一定のインパクトを与えるかもしれません。
一足はやく発足したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)との関係が気になるところです。
そのカギを握っているのは、政権交代が規定事実となっている米国の出方です。
 
その前に、RCEPが出来た経緯を復習しましょう。
中国は、2004年、「ASEAN+3(日中韓)」の経済連携構想であるEAFTA(東アジア自由貿易圏)」を提唱しました。
それに対し、日本は2006年に、インド、オーストラリア、ニュージーランドを含めた「ASEAN+6」の構想「CEPEA(東アジア包括的経済連携)」を提唱しました。
RCEPは、この両者が合併して出来た枠組みです。
こうした東アジアの経済協力の枠組みの動機となったのは、1997年のアジア通貨危機です。
第2次クリントン政権の時でしたが、IMF(国際通貨基金)が緊急融資の条件として大幅な金利引き上げを実施したことで、アジア各国の経済破綻が発生し、通貨危機を招きました。
韓国では、それまで「1ドル=1000ウォン」だったレートが2000ウォン近くに跳ね上がったことで債務返済ができなくなり、IMFの管理下に入るという屈辱を味わったことは周知のとおりです。
 
この通貨危機は、「強いドル」を志向したクリントン政権が引き起こしたもので、こうした「米国ファースト」の姿勢は、トランプ氏の専売特許ではなく、クリントン政権下の民主党政権が始めたことなのです。
米国のこうした姿勢から、米国を除外した地域協力の枠組みの必要性を痛感して「ASEAN+3」の構想が生まれたわけです。
その構想が、中国と日本から、それぞれ独立して生まれたことは大きな要素です。
 
中国にとっては、米国不在の枠組みは狙っていたものでしょう。
東アジアにおけるルール形成には、米国より中国のほうが「正統性」があることを意味するからです。
ゆえに、RCEPにおけるデジタル関連のルールは、米国が望むような高水準なものではなく中国の意向に沿ったものになっています。
ただし、RCEPには日本主導のCEPEAの思想が入っていますから、日本の動向でルールが強化される可能性があります。
その意味で、日本主導のTPPが既に発足していることは大きな要素です。
そのことを意識したのか、中国の習近平国家主席が11月20日のAPEC首脳会談で、「TPPへの参加を積極的に検討する」と表明しました。
安倍前首相は、桜問題などで脇の甘さを露呈しましたが、外交面においては、よくやっていました。
安倍政権の通商政策の積み重ねが、米中双方に一定の影響を与えているのは確実です。
野党やマスコミは、こうした情報を分析することもなく、安倍政権の批判に終始していましたが、「お粗末」の一言です。
 
しかし、大事なのはこれからです。
菅首相が、どこまで前政権の成果を活かしていけるかに注目していますが、バイデン氏の外交姿勢が見えないことが不確定要素です。
特に、バイデン氏は日本に関連する発言がほとんどありません。
菅首相との仲も、安倍前総理vsトランプ前大統領のようにはいかないでしょう。
ただ、今の日本は、そもそもバイデン氏が進めていたTPPの実質的なリーダーであり、米国が重視する「自由で開かれたインド太平洋」構想の提唱者にして、主要プレイヤーです。
バイデン政権は、そうした日本を無視はできません。
経済面での日本の存在感を高める絶好の機会といえます。