中国の思惑通りにはいかない(その9)

2021.01.15


中国の習近平主席が、TPP (環太平洋パートナーシップ)への参加意欲を表明しました。
日本政府は論評を避けていますが、いまは何も反応しないほうが賢明です。
では、中国の意図はどこにあるのでしょうか。
ずばり、TPPがメジャーになることの阻止です。
前号で取り上げたRCEP(地域的な包括的経済連携)は中国が主導権を取る連携となるでしょう。
その中国にとって邪魔なのがTPPです。
そのTPPへの加盟狙いは、ずばりTPPの無力化です。
 
TPPはRCEPより徹底した自由貿易を志向しています。
その協定には「国有企業改革や資本の自由化」という項目が含まれています。
つまり、共産党一党独裁国家であり、国営企業を国家が操っている中国は、国家政策を根本から変更しなければTPPには参加することができないのです。
 
しかし、急激な経済発展と軍事力拡大を実現した習近平主席は、「中国には民主化など不要」と確信しています。
むしろ、中国の権威主義体制をさらに強化し、欧米の民主主義に代わる「世界の政治体制のモデル」になると考えています。
しかし、国内においてさえ、その体制はほころびを見せ始めています。
香港の抗議行動への弾圧は、世界の先進国から批判を浴びています。
カネの力で押さえつけられている新興国は、国連の場で中国支持に投票していますが、それも限界に達してきています。
 
実は、新興国に対する融資では、日本のほうが中国よりも一段と早いペースで伸びているのです。
BIS(国際決済銀行)の情報によると、1年前の四半期のデータですが、日本の融資の増加が2,225億1000万ドルなのに対して、中国の融資の増加は457億5000万ドルにとどまっています。
もっと顕著なのは、1年半前のデータですが、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の融資残高がわずか64億ドルにとどまっているのに対し、日米主導のADB(アジア開発銀行)は、2018年単年で358億ドルを融資しています。
 
中国は「人民元の国際化」を図っていますが、中国自身の国際的な融資は圧倒的に「ドル建て」が占めています。
一方、目立つことは何もしていない日本の「円」は、国際取引において世界第3位の通貨です。
世界の取引全体における円の比率は、2019年2月の時点で4.35%ですが、同時期の人民元の比率は1.15%にすぎません。
世界の外貨準備高に占める割合でも、人民元1.89%に対し日本は5.2%で、その差は広がっています。
 
中国は、「一帯一路」を声高に喧伝し、新興国の頬を札束でひっぱたくという悪徳金貸しそのものです。
新興国は日本に期待を寄せています。
日本は、そうした国々に偉そうな態度を取ることはないし、アフガニスタンで非業の死を遂げた中村医師のように、地道な活動で現地に溶け込み頑張っている民間人も数多くいます。
日本の支援は、初期のODAで見られたような日本企業の利益優先の姿勢から、新興国の経済・産業の発展を第一に考える姿勢に大きく変わっています。
現地企業に技術支援し、工場運営のオペレーションを教え、人材育成にも力を入れています。
中国人は、どうしても利益優先の考えから抜けることが難しいようです。
日本のような「お人好し」なやり方では損すると思っています。
日本の「損して得取れ」の考え方は、悠長すぎると嫌われるようです。
習近平主席の中国は、自ら崩れていくでしょう。