これからの近未来経済(8):日本の産業構造は問題か?

2021.07.16


前号で述べた「日本が韓国より貧しくなった」原因として、ある識者は「世界一の勤勉さにある」としました。
そして、もうひとつ「中小零細企業が圧倒的に多い日本の産業構造」を原因にあげていました。
以下は私の意見ではなく、この識者の意見の要約です。
 
「日本企業の99.7%、従業員数の68.8%は中小・零細企業である。
その結果として賃金が先進国の中でも際立って低く抑えられてきた。
中小・零細企業の大半は、輸出や商品開発などに資金や労力を投ずることは難しく、昔ながらの内需型かつ現状維持型のビジネスモデルを続けている。
それゆえ、人口減少で内需が縮小する中で過当競争に陥り、賃上げどころではなくなっている。
そもそも、資本主義社会では、企業が成長して、その果実を労働者へ還元する。
そうした経済が回ることで国民全体が豊かになっていく。
ゆえに、資本主義社会では賃金が上がり続けることが必要なのだが、日本だけがそれを出来ていない。
その根本の要因が、中小・零細企業が圧倒的に多い産業構造にある」
これが、この識者の主張です。
 
この識者は、そうした構造をつくった原動力の一つに、1963年に制定された「中小企業基本法」をあげています。
この法律によって中小・零細企業を手厚く優遇したおかげで爆発的に企業数が増えたとしています。
さらに、高度成長期が終わってもこの保護政策を続けたため、それを狙っての起業が後を絶たず、現在の「低賃金企業だらけ」の状況に陥ってしまったとの主張です。
 
うなずける点もありますが、賛同できないことも多いです。
たしかに「中小企業基本法」は、中小企業にある程度の恩恵を与えていますが、日本の商慣習や官庁の政策は、それ以上に大企業有利になっています。
また、大企業が圧倒的に強く中小企業が育っていない韓国では、労組寄りの文在寅政権による大幅な賃金上昇が続きましたが、それで「韓国は日本より裕福になった」と、この識者は主張するのでしょうか。
もっとも韓国は、就労者の4人に一人が自営業者と言われていますので、財閥と自営業者に挟まれた形で中小企業が育たない経済だといえます。
 
私は、中小企業の多さこそが日本の強みだと思っています。
ただ、その強みを活かせていない政策が問題です。
政治家の劣化が甚だしい日本ですが、それに劣らず官僚の劣化もひどくなっています。
私には、付き合いのある官僚の方もいるので、劣化などと言いたくないのですが、コロナ補助金を騙し取る官僚が出るに至っては、言葉もありません。
一つの大学出身者が多くを占める現在の採用制度を改め、多様な人材を登用できる制度へ改めることが急務です。