今後の建設需要(23):建設業の生産性

2022.01.17


国土交通省の毎月統計「建設工事受注動態統計」で、データを二重に計上していたことが問題になっています。
衆院予算委員会で、立憲民主党は「水増しされたデータを基に経済指標を作っていたことにならないか」と質問しましたが、至極もっともな疑問といえます。
それに対し、山際大志郎経済再生担当相は「GDP(国内総生産)統計にも影響が及ぶ可能性はあるが、現時点では軽微と考えている」と答えました。
相変わらずの“はぐらかし”答弁ですが、野党はズバリ核心を付く質問でないと負けですね。
 
建設関係者ならば、重層下請け構造の建設産業の受注統計の重複計上は昔から分かっていたことです。
政府は、統計手法などを駆使して、そうした重複計上を是正する策を採っていましたが、そこにミスがあったということです。
山際大臣は「影響が軽微かどうか」ではなく、データの重複が発生してしまう根本要因を正直に答弁し、是正策は講じていたが、そこにミスがあったと言えば良いのですが、“はぐらかし”答弁に終始しました。
大臣の能力がなかったのか、うまく誤魔化そうとしたのかは分かりませんが、少々お粗末でした。
 
この少し前、建設業協会が大手・準大手26社の業績見通しを発表しました。
それによると、17社が粗利10%を下回っています。
土木は、国交省の地方自治体に対する指導強化の効果で、2社を除いて2桁の粗利が確保できていますが、民間主体の建築は、みな1桁に落ちています。
コロナ過の影響が、これから深刻化してくる予兆ともいえます。
 
乗り切る手段のカギは生産性向上なのですが、統計データでは、95,647円/8時間・1人と、横ばい状態です。
それに対し、公共工事での労務単価は、全職種平均で20,409円となっています。
さらに、社会保険等の企業側の負担を足した金額は、28,777円となっています。
建設工事が生み出す収益=生産金額(95,647円)と考えると、人件費率は約30%となります。
製造業や飲食業での人件費率は20%程度ですが、優良企業は15~10%です。
ちなみに、人件費率が高いIT産業や介護産業では、40~50%になっています。
建設産業の目指す生産性を製造業並みとするには、現在の1.5倍、143,885円/8時間・1人まで上げなければなりません。
かなり厳しい目標です。
 
江戸や明治初期までの建設業は人力主体でしたから生産性は低く、人件費率は50%以上だったと推定されます。
それが近代になり機械施工中心になったことで劇的に向上して現在に至っています。
これからの建設業で、そうした劇的なイノベーションに匹敵するのはICT施工ですが、まだ実用域に達したとは言い難く、その道は遠いです。
地方建設会社に対するアンケート結果によると、ICT施工に対する関心は7割ということですが、「BIMに取り組みますか」に対するYesの答えは2割程度しかありません。
情報化に対する真の理解は、実質的にはほぼゼロに近いことが分かります。
これでは、DX(データ交換)など夢のまた夢ですね。
もちろん、システムの完成度が低く、導入効果がほとんど見込めないというシステム自体およびITインフラの貧弱さという問題も大きいのですが、業界関係者の意識の低さが一番の障害であることは確かです。
私は、「普及は30年先かな」と思う2021年の年末です。