これからの近未来経済(18):悪者になる勇気を持てない国

2022.06.16

「これからの近未来経済」の大きなピースのひとつが中国であることに異論のある方はいないと思います。
今の中国は、国家資本主義とでも呼ぶような“異質な”経済の国です。
できる限り自由な経済活動を尊重する西側の資本主義と違い、共産党の支配の中での資本主義です。
 
資産の個人保有を認めず、社会の共有資産(つまり政府の資産)とするのが共産主義です。
その共産主義を捨てずに資本主義を導入するのは、大いなる矛盾です。
この矛盾を解くため、中国は、個人や民間企業の資産は、個々の保有ではなく、あくまでも中央政府が貸しているだけという建前(ごまかし?)を通しています。
故に、いつでも、政府は貸してある資産を取り上げることが可能ということです。
上海などで行われている強制隔離のようなロックダウンはその典型で、「政府>個人」の共産主義の強権発動なのです。
 
しかし、人間と違い、コロナウィルスは政治に忖度などしません。
経済への影響は、当局も隠しようがなくなっています。
上海手形交換所のデータでは、1カ月物手形利回りは3月下旬以降0.04%まで急降下しました。
この数字は、ほぼ経済活動が止まってしまったことを示しています。
しかし、それでも、銀行間金利は2%前後で推移しています。
誰もが「はてな?」と思いますよね。
これは「銀行の手形保有を短期融資とみなす」とした中国当局の方針転換の影響です。
銀行は、お互いが保有している引受手形を買い合い、それぞれの融資残高に上乗せすることで「融資目標は達成した」と報告し、当局も「計画どおりの達成です」と中央に報告するわけです。
これが計画経済の負の側面です。
こうした規制の抜け穴を作ることで手形の市場金利はゆがみ、経済の実態は見えにくくなります。
 
ゼロコロナ政策によるロックダウンによって人流が止まり、実態経済が悪化するのは当然なのですが、政策失敗を認めない習近平主席の鶴の一声は絶対です。
不動産バブルの崩壊が現実化してきて優良プロジェクトは激減し、不動産投資はストップ状態です。
それでも、各銀行は、融資目標を達成するために、こんな意味のない手形買い入れを行っているのです。
 
さすがに、融資目標達成のために手形を購入する動きについては、市場関係者から批判が出ています。
浙商銀行の幹部は、「流通市場で手形を購入しても実体経済に資金を供給したことにはならない。こうした取引の是正が必要だ」と指摘していますが、当局は「主席の鶴の一声」を無視できません。
当局は打撃を受けたセクターを支援し、融資奨励の補填策を講じていますが、ロックダウンで緩和の効果は効かず、資金を供給しても融資需要そのものが大幅に落ち込んでいるため焼け石に水です。
その結果、大量の資金が中国から米国に流出しています。
 
しかし、秋の共産党大会で3期目の続投を目指す習近平主席は、自らが出したゼロコロナ政策を止めることが出来ません。
秋までにコロナ禍が収まり、経済が回復することを祈るしかないのが現状です。
日本以上に、「悪者になる勇気は持てない国」なのですから。