2020年8月31日号(経済、経営)

2020.09.01


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2020年8月31日号
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発行日:2020年8月31日(月)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2020年8月31日号の目次
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◇これまでの経済、これからの経済(13):アフターコロナからウィズコロナへ
◇中国の思惑通りにはいかない(その5)
☆商品開発のおもしろさ(3)
◇今後の建設需要(9)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
安倍首相の突然の辞任表明で、マスコミ報道は一気に自民党総裁選一色です。
立憲民主党の合併報道は、もはや三面記事扱いです。
それを狙っての辞任表明・・ではないでしょうが、戦略論で考えると、今の野党が自民党の敵ではないことがよく分かります。
政治のことは次回9/15号で解説することにして、今号は、前号(7/31号)の続きをお送りします。
 
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┃◇これまでの経済、これからの経済(13):アフターコロナからウィズコロナへ  ┃
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新型コロナウィルスが消える日は来ない。
ゆえに、このウィルスと同居して生きるしかないとする意見が増えてきました。
結果、アフターコロナという言葉に代わり、ウィズコロナという言葉が多く使われるようになってきました。
しかし、多くの企業は、そんな言葉遊びをしている余裕などなく、どう生きるかの死活問題です。
 
今回のコロナ対策の特別融資で、かなりの資金が調達できた企業も多いと思います。
前号では「これほど借り手有利な融資は当面ないので、目一杯借りるべき」と主張しました。
しかし、「カネは魔物」です。
「やれやれ」と安堵したとたん経営姿勢が緩むのは人間心理ですから仕方ないとしても、借金は麻薬という意識を持ち続けることが大事です。
しかも、今回の特別融資は、より毒性の強い麻薬です。
 
弊社は、当面の資金繰りに必要はありませんでしたが、かなりの額の融資を受けることにしました。
“かなり”という曖昧な表現をしましたが、「無理なく返済を続けられる」金額という歯止めは掛けました。
かつ、大事なのは、これからです。
年初の事業計画で予定していなかった資金調達です。
当然、短期および中期の事業計画の全面的な見直しが必要です。
主題は、本業による利益を減らすことなく今回の資金をどう活用するかの戦略立案になります。
 
ある程度の規模の会社になると、幹部たちに戦略立案を任せる会社が多いようですが、今回だけは、経営トップ自らがリーダーとなり、全責任を負った戦略を立案すべきです。
戦略がなかったり、あっても実効性の薄いものであったりすると、いつの間にかカネは消えていくものです。
そのような戦略が立てられないのであれば借りるべきではなく、借りたとしたら、当面使わず塩漬けにすべきでしょう。
幸いなことに、今回の特別融資は、3年間無利子という特典が付いています。
つまり、金庫に塩漬けにしていても、経済は当面デフレ傾向になりますから、損失が出ません。
(もっとも、「それでは意味が無い」と言えばそうなのですが・・)
 
こんなことを言うのも、かつて未熟だった私が、そのような失敗をしたことがあるからです。
当時のメインバンクの口車に乗り、不要な大きな資金を調達してしまったのです。
結果として、大きな借金だけが残り、倒産の縁まで追い込まれました。
「そんなこと、分かりきったことではないか」と、読者のみなさまに笑われると思いますが、それがカネの怖さというものです。
 
本題に戻ります。
資金調達はできても、売上の下落が予想される会社もあるでしょう。
ある程度、赤字補てんに使うのは仕方ないとしても、どこくらいの額で補填を止めるか、その手段と期限を明確に決めなくてはなりません。
そうでないと、ザルの水の如くカネは抜け落ちていきます。
それ以外に考えられることは、財務体質の強化、事業基盤の強化、組織体制の強化といった強化投資ですが、経営者が最も考えるべきことは「戦略投資」です。
戦略投資とは、一言で言えば、自社を一段と高みへ引き上げる投資であり、新商品開発、営業分野およびエリアの拡大、海外進出などが、その具体策です。
 
しかし、最も難しく、かつリスクが高いのが戦略投資です。
よって、有期かつ具体的な目標を立てる必要があります。
今回の特別融資の多くは、10年返済となっています。
であるならば、「10年後、投資額の倍のリターンを得る」などの明示的目標が欲しいです。
かつ、その目標に順調に向かっているかどうかを、毎年度(できれば四半期毎)フォローする必要があります。
具体的には、「純資産額の増加」を貸借対照表でフォローしていきます。
要するに、経営トップ自らが公認会計士になって自社を監査していくのです。
 
「このコロナ禍の中でも成長できるのが本物の企業」ということを後押しするのが、今回の特別融資だと思ってください。
 
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┃◇中国の思惑通りにはいかない(その5)              ┃
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今回のコロナ禍で大きな打撃を受けているものの一つに、中国が推進してきた「一帯一路」があります。
「打撃を受けている」という表現は適切ではなく、「問題点が噴出してきた」というのが正解です。
まず、中国は「なんで一帯一路を考えついたのだろう」というところから論じていきます。
 
近年、中国が国際社会で影響力を広げてきた要素は次の2つです。
(1)安価な技術力・労働力、(2)14億人の市場規模
しかし、急速な経済発展は急激な賃金高騰を招き、(1)の利点は消滅してしまいました。
(2)にしても、格差の急拡大によって起きた貧困層の急増が足を引っ張り出しています。
裕福な中間層が大幅に増え、その規模は6億~8億人と推定されています。
しかし、同時に貧困層も急増し、4億~6億人がそこに落ち込んでいるとも言われています。
つまり、今以上に中国の購買力を高めるには、この貧困層を引き上げる必要があるのです。
習近平政権が貧困撲滅を掲げているのは、中国経済が貧困層の壁にぶち当たっている証拠です。
 
だが、共産党独裁政権を支えている中間層の利益を貧困層へ分配すれば、たちまち政権基盤が揺らぎます。
そこで中国政府は、蓄えた資金力を海外のインフラ整備に投資することでさらなる経済発展を目論む「一帯一路」なる海外戦略を打ち出したのです。
 
このように、「一帯一路」における中国の狙いは、あくまでも中国の発展にあり、その目的に沿って、投資先の国の発展の蜜を吸い取ることにあります。
中国は、自国の発展の経験から、インフラが整備されればそれなりの発展が見込めるということを学んだわけです。
しかし、そこには大きな落とし穴があります。
インフラ投資が利益をもたらすのは、プロジェクトの完成が大前提です。
プロジェクトが完成できずに借り手が破綻すれば、最も大きなダメージを被るのは投資国です。
 
「一帯一路」の核心事業は、ご多分に漏れず土木建設事業ですが、投資先の腐敗体質や安全性軽視の姿勢、未熟な建設技術、遵法精神の低さなどにより、事故や環境破壊が絶えず、かなりのプロジェクトが破綻の危機に立たされています。
危険を感じた商業銀行は資金の返済を求め出し、中国政府はその対処にも直面しています。
投資先の破産を防ぐため、償還期限延期や利子の減免、場合によって一部の債務を無償援助に切り替えるといった決断も必要になっています。
長い目で見れば、そうした選択が利益へとつながるのですが、資本主義の経験の浅い中国には重たい課題といえます。
 
RUSI(英国王立防衛安全保障研究所)のエリザベス・ブラウン専任研究員の米フォーリン・ポリシー誌への寄稿が非常に的を得ていますので以下に紹介します。
「中国には、米国が数十年にわたりさまざまな国に作ったソフトパワーが皆無だ。率直に言って、中国は米国ほど魅力的ではない。世界でだれが自発的に中国の歌、中国のテレビ番組、中国のファッションを見てまねるだろうか」
さらに、「金で影響力は買えても、心は得られなかった。中国の国際地位急落はこれまで中国がグローバル商業ネットワークだけを構築し、友情を育まなかったためだ」
 
彼女の指摘は、中国の弱点を見事に突いています。
いま、新型コロナウィルス禍で多くの国の経済が冷え込んでいます。
それに加えて、米国の反中姿勢が激烈になり、かつ米国の戦線に参加する勢力は増えてきています。
中国の援助を受けている発展途上国は、香港問題などでは中国の強硬姿勢を支持していますが、自分への影響が少ないからであり、本心ではありません。
今や、中国が掲げる利点だけでは中国と一緒にやる理由が乏しくなっています。
むしろ中国に対し抱えていた不満が水面上に出てきて、増える傾向にあります。
中国は、こうした声を抑えるため、償還期限延期や利子の減免、債務免除といった策を打ち出さざるを得なくなるでしょう。
しかし、それは、減少傾向の外貨準備高のさらなる減少を招くという劇薬でもあります。
一帯一路は、中国経済破綻の導火線になるかもしれません。
 
最後に、マルクスの有名な言葉を紹介します。
「経済問題では、意志が現実を克服することはできない」
経営者が胸に刻んでおくべき言葉でもあります。
理念では経済は扱えないのです。
 
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┃☆商品開発のおもしろさ(3)                   ┃
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今回は、自動車の話をします。
読者のみなさまで、テスラという会社を知らない方は、ほとんどいないでしょう。
電気自動車の先駆メーカーですが、2003年創業の若い会社です。
近頃、テスラの時価総額がトヨタを超えたとの記事が出ました。
年間生産台数が、たかが36万台(2019年度)の会社が1000万台のトヨタを実質的に上回れるはずはないのですが、米国における株価は、バカ高値となっています。
過剰ともいえる未来への期待感が株価につながっているのです。
 
創業者のイーロン・マスクは、とてつもない変人で、彼への評価は真反対に分かれます。
私は、自分では言いにくいのですが、「常識的」な人間なので、彼の言動には付いていけません。
でも、反面「羨ましい」とも感じます。
そうした感情を抑え、商品開発という視点でテスラの業績を分析すると面白いことが分かります。
まず、既存メーカーと違い、営業はネット販売に特化することで販管費を徹底して抑え込んでいます。
その代わり、派手な話題を振りまくことでマスコミの記事となることを仕掛けています。
報道記事は無料の宣伝ですから、非常に上手いやり方です。
 
さらに、販売した後、オートパイロットやFSD(Full Scale Development=先行量産)のソフトウエア使用料で稼ぐというビジネスモデルになっています。
このソフトウエア使用料は、売り上げの6%ですが、粗利では25%近くになるということです。
ソフトウエアは、開発に多額な費用がかかりますが、原材料費も要らないし、物理的な工場も在庫スペースも必要ありません。
つまり、アマゾンやグーグルと同じビジネスモデルなのです、
株価が自動車メーカーの水準ではなくIT企業の水準に近づいているのも道理といえます。
新車が売れなくても、売った車が使われている間は収益が途切れないというモデルなのです。
こうした「売った後に稼ぐ」ビジネスを「ストックビジネス」といいます。
 
このように、ビジネスモデルとしては優れていますが、電気自動車の未来は、そう明るくはないと私は見ています。
やはり、最大のネックはバッテリーです。
急速充電のスタンドも出てきていますが、それでも30分の充電で200~250kmの走行距離です。
テスラの新型は、カタログによると、満タン充電なら600~800km走行とハイブリット車並みですが、充電時間は20~24時間です。
ガソリン補給の1~2分に対抗できなくても、5分ぐらいが待てる限界でしょう。
 
もちろん、劇的な性能を持つバッテリーが開発される日は来るでしょうが、それがいつかは予言すらできないのが現状です。
私は10代で免許を取って以来、今の車が15台目になります。
まだ買い換えることを考えていますが、電気自動車にはまったく魅力を感じません。
トータルで考えると、次もハイブリット車になる公算が強いです。
おそらく、生きているうちに電気自動車に乗る日は来ないと見ています。
当面、テスラの販売台数は頭打ちが続くのではと思います。
すべては、画期的なバッテリーの開発にかかっています。
 
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┃★今後の建設需要(9)                      ┃
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国交省が鳴り物入りで推進しているキャリアアップシステムですが、黄色信号が灯っているようです。
累積赤字が2020年度末には100億円を超える状況になり、しかも登録者が増えれば増えるほど赤字が拡大するというジレンマ状態です。
さらに、その解決策は登録料や利用料の値上げという安易さです。
 
その上、システムはまだ未完で、この先もかなりの開発費が必要というのですから、もう、前途は「どしゃぶり」状態です。
はっきり言って、事業モデルとしては破綻していると言わざるを得ません。
 
弊社は、建設業の基幹業務システムの開発、販売、サポートを30年続けていますが、弊社だったら、とっくに事業打ち切りのプロジェクトです。
国家というのはノンキなものだと言いたくなります。
 
50年近く前の話ですが、当時の通産省主導で「第5世代のコンピュータ開発」が国家プロジェクトとして華々しくスタートしました。
当時、私が在籍していたコンピュータ・メーカーも主力企業として参画していました。
私は、一時期ですが、東京の三鷹にあった電気通信研究所で、このプロジェクトのOS開発に携わっていました。
しかし、官僚主導の弊害ばかりが目立ち、プロジェクトは迷走し、ついに幻に終わってしまいました。
 
建設会社に転職した後、高速増殖炉「もんじゅ」の開発にも関わりましたが、これも頓挫しました。
今も経費を垂れ流す「もんじゅ」の無駄使いは3兆円を超えると言われています。
それらの失敗プロジェクトを考えれば、100億円程度の損失は研究のための初期投資だと腹をくくり、ここでいったん止まるべきではないでしょうか。
その上で、本システムの意義・目的を再考し、本当に技能者、建設会社双方にとって有意義なものなのかを検証すべきです。
 
はっきり言って、技能者も建設会社も、プロジェクトの意義は認めても、実質的な利を感じることができないのだと思います。
そこには、能力評価の難しさが横たわっています。
一口に「能力評価」と言っても、元請けの能力、専門工事会社の能力、技能者の能力は、各々が多様性に富み、かつ多くの要素が絡み合い、能力そのものの解析がまったく出来ていないのが現実です。
 
うんと単純化して考えて、実質的な運用までこぎ着けたとします。
しかし、そこで、目論んだ能力が額面どおりにいかなかった場合、金額保証をするのでしょうか。
また、その場合、どうやって補償額を算定するのでしょうか。
本システムが、どのように生産性向上に結びつくかがまったく見えない中で、「待遇改善につながる」と言われても、信じることができないはずです。
誰のためのシステムかが、技能者にも建設会社にも、もう見えないのではないでしょうか。
はっきり言って「失敗プロジェクト」となっています。
 
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<編集後記>
テレワークやonline会議が恒常化した企業が増えてきたとのニュースに接しますが、本当でしょうか。
弊社は、毎日のようにonline会議を行っています。
たしかに、会議の頻度は上がるし、短時間で済み、出張や外出時間の節約にもなるという利点を感じますが、コミュニケーションの密度が上がらないという弊害も目立ってきています。
慣れもあるのでしょうが、一方通行の説明になりがちで、話す側からすると、聞き手の反応が把握しづらいという欠点が目立ちます。
お互いにイライラ感が募ってくるという負の側面にも気を使う必要を感じています。
やはり、リアルな会議との併用が望ましいですが、コロナ禍が収まらない現状では、それもままならず、次善の策を思案中です。
 
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