2021年2月28日号(経済、経営)

2021.03.16


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2021年2月28日号
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発行日:2021年3月1日(月)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2021年2月28日号の目次
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◇これからの近未来経済(4):現代の錬金術SPACの問題点
◇中国の思惑通りにはいかない(その11)
☆商品開発のおもしろさ(9)
☆今後の建設需要(14)
 
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
貧富の格差がどんどん広がっています。
米国の場合、上位1%の富裕層(約240万人)の平均年収が日本円で約1億5000万円なのに対し、下位の低所得層(約1億2000万人)の平均年収は約190万円ということです。
下位といいながら人口の約37%もあり、世帯数でみると50%に達するといわれています。
嫌な言い方ですが、「貧乏人の子沢山」が確認できるデータです。
 
コロナ禍が企業・個人のIT依存を加速させています。
しかし、ITの急速な普及が貧富の格差をさらに広げていくことは確実です。
その先に待っているのはどんな世界なのでしょうか。
明るいと言えそうもないことが気がかりです。
 
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┃◇これからの近未来経済(4):現代の錬金術SPACの問題点      ┃
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SBG(ソフトバンクグループ)のようなVC(ベンチャーキャピタル)型の投資運用会社は、未公開企業に投資して上場させることで巨額の利益を狙っています。
しかし、当然ハイリスクなビジネスであり、実際に巨額な損失を被ることもあります。
そうした投資会社にとり、SPAC(スパック)はリスク軽減の手として願ったり叶ったりの仕組みです。
早速、SBGが飛びついたことからもそれが分かると思います。
日経新聞は、3月20日の記事に「『空箱上場』米で400社」と掲載しました。
この『空箱上場』とはSPACのことです。
 
このSPACに対し、詐欺まがいの“うさんくささ”を感じる方は多いと思います。
乱暴に言うと、投資家に対し「相手先は未定ですが、有望な会社を買収します。私を信用して無条件でお金を預けてください」というものですから当然です。
投資家は、投資運用会社に「白紙の小切手」を渡すようなものです。
実際、SPAC(スパック)は、「Black check company(白紙小切手会社)」とも呼ばれます。
読者のみなさま、あなただったらお金を預けますか?
 
そうした不透明さが分かっていても、米国では急激な株高を背景にSPAC投資は活況を呈しています。
いまの株高が弾ける前に、従来型では上場が難しい未公開企業を上場させようと、大手のVCや私募ファンドがやっきになっているのです。
しかし、対象となる企業は、実績が乏しく、まともな事業計画書もなく赤字続きの会社、といった透明性に欠ける会社が大半です。
投資家は、投資運用会社を信用するしかないのが実情です。
 
一応、投資家保護のため、エスクロー(信託口座)や償還(払い戻し)の権利が設けられていますので、投資家は株を返還すれば資金の払い戻しを受けることはできます。
また、買収や上場が成立しなかった場合も資金は払い戻されることになっています。
しかし、いかなる場合も、投資運用会社は得た手数料を返還する義務はありません。
その分は、残った投資家が持つ株価値の下落となる仕組みです。
 
だが、それでは大口の機関投資家が黙っていないだろうと思うでしょうね。
そこには、以下のような仕組み(抜け道?)が用意されています。
大口の機関投資家には一般投資家より有利な条件で追加ワラントが与えられるのです。
機関投資家は、上場成功のような有利な状況になったとき、そのワラントを行使して割安で株を追加購入できるのです。
しかし、上場後にそうしたワラントが行使されると発行株数が増えて既存株主の株が値下がりします。
それを見越して、機関投資家は、追加購入と同時に全部の株を売って利益を確定します。
何も知らない一般投資家は、自分の株を売るどころか、値が上がったと錯覚し、値上がり後の株を追加購入します。
その結果は、当然、悲惨です。
 
実際、スタンフォード大学など複数の大学の調査では、一般投資家の資産価値は66.7%に目減りしていたという結果が出ています。
それに対し、手数料収入が入る投資運用会社は、決して損はしないという仕組みです。
 
SPACは、あまりもリスクが大きいとして、日本では解禁されていません。
しかし、米国の携帯投資アプリのロビンフッドなどにアクセスすれば、日本からも簡単に買えてしまいます。
ロビンフッドは「手数料ゼロ」をうたい、人気アプリになっていますが、どこかに落とし穴を設けて、一般投資家が落ちるのを待っている「蟻地獄ビジネス」だと思います。
こうしたアプリを利用する会社は、一株1ドル未満の「ボロ株」をSPACによって化粧させ、まんまと公開企業にしてしまうという怪しい会社が多いようです。
もちろん、実態がバレれば、一気に株価下落を招き、投資家は大損します。
実際に、そうした事例が増えていると聞きます。
IPO(新規上場)が過去最大を記録する今の米国市場には、こうしたリスクが潜んでいるのです。
日本は、SPACを認めてはいけないと思う次第です。
 
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┃◇中国の思惑通りにはいかない(その11)             ┃
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コロナ禍で欧米日のGDPがマイナスに陥る一方、中国だけがプラスとなっています。
このデータから、中国経済が2028年に米国経済を上回るというネット記事が散見されます。
しかし、中国の発表数字をそのまま信じた上で統計数字を単純に上乗せしただけの記事で、小学生並みの低レベルだなと思いました。
そこで、前号で取り上げた中国の「双循環」戦略について、中国のエコノミストである全国政協委員の賈康氏たちの見解をミックスして考えてみました。
 
まず先行させる「内循環」ですが、以下の3段階を想定しています。
(第1段階)デジタルインフラなどの新型インフラ建設への投資拡大 ⇒ 内需拡大、雇用促進 ⇒ 民衆の収入増 ⇒ さらなる市場への期待の促進という循環を加速させる。
(第2段階)その後、政府が富の再分配の最適化と農村人口の都市民化を行うことで、「輸出から国内消費への転換」が起きる。
(第3段階)企業と政府の関係が改善され、市場経済を基礎としたビジネス環境が高度化し、法治化を含めた全面的な改革が深化する。
 
こうしてできた内側の力を的確に選択して、外に向かってレベルの高い(中国有利な?)開放を目指す。
これで、西側社会が作り上げた既存のグローバル・サプライチェーンとは別に、中華圏経済の国際サプライチェーンを新たに構築する「外循環」を形成する。
要約すれば、中国国内経済の「内循環」を餌にアジア諸国などを従える「外循環」という国際分業の仕組みを「双循環」としているようです。
 
これだけでは、まだ説明が足らないですね。
中国は、現在の米国中心のグローバル・サプライチェーンの一員としての中国の成功を「国際大循環」と位置づけていますが、米国による中国の排斥が顕著になってきています。
そこで、中国国内の内循環を主体とする双循環システムに移行させることを目論んでいるのです。
習近平主席の唱える「一帯一路」戦略の補完ともいえます。
 
しかし、「双循環」戦略には致命的に大きな弱点があります。
それは、世界経済の大半が米ドルという基軸通貨で決済されている事実です。
となると、中国の真の狙いは、米ドル基軸体制からの脱却ということになります。
つまり、人民元基軸体制の確立狙いということです。
 
しかし、現在の人民元の信用の裏付けは外貨準備高(つまり米ドル)という矛盾が生じます。
さらに、外貨準備高が日本より下回っている(つまり、円のほうが、信用度が高い)という現実が重たいです。
中国が、やっきになって推し進めようとしている「デジタル人民元」や「人民元の仮想通貨」の狙いは、こうした弱点の逆転を狙ってのことなのです。
でも、米ドルやユーロ、円で決済している国々が、デジタルや仮想通貨の時代になろうと人民元を信用するでしょうか。
長引く米国の金融制裁で経済が壊滅状態の北朝鮮とイランが飛びつくくらいでしょう。
中国の経済閣僚や専門家の力量を疑わざるを得ないことが、率直な感想です。
 
ただ、ひとつ不思議なことがあります。
中国経済を主管する立場の李克強首相が「双循環」にはまったく言及していないことです。
習近平主席との不仲が取り沙汰されていることもあって、「双循環」は失敗するとみて、距離を置いているという見方もあります。
率直に見て、政治的力量はともかく、経済に関する知見において、習近平主席の力量は李克強首相に遠く及びません。
次号で、この2人の考えの違いを述べてみます。
 
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┃☆商品開発のおもしろさ(9)                   ┃
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商品というと、自動車や家電、食品や化粧品など形あるものがすぐに思い浮かびますが、サービスも商品です。
しかし、日本では「サービス=無料」と受け取られる傾向があるため、サービスを「利益を上げる商品」と考えにくい下地があります。
「あのお店のサービス、よかったね」という評価も、対価を伴わない“無償の行為”が大半です。
もちろん、その行為によってお客が“有形”の商品を購入してくれれば、間接的に利益にはなりますが・・
 
そんな中、抵抗なく対価を払うサービスのひとつが「水商売」です。
最近の言葉でいうと「接待を伴う飲食業」という商売です。
もっと噛み砕いて言えば、女性が脇に座って水割りなどを作り、どうということもない会話を楽しむというビジネスです。
これ以上、微細に書くと読者のみなさまからお叱りを受けるかもしれないので、このくらいで止めます。
 
本メルマガで何度か言及したことがありますが、私が大学に入った年に、父はそれまでの商売を止め、水商売を始めました。
しかし、父の水商売は典型的な「武士の商法」でした。
店の運営は銀座からスカウトした支配人に任せっきりで「善きに計らえ」経営でした。
当然、赤字続きになり、運転資金は3ヶ月で底をつくという有様でした。
 
父は頭を抱えて「もうダメだ」というばかりで動きません。
大学へ入ったばかりだった私は、「大学は辞めたくない」ので、母に「2人で立て直そう」と提案しました。
父以上に修羅場をくぐってきた母は、私の提案に同意しました。
しかし、私も母も水商売の経験は皆無です。
何をどうすれば良いのか、皆目見当もつきません。
そこで考えました。
「まず店の現状をこの目で確認すること、同時に水商売がどんな商売かを知ろう」とです。
 
早速、私と母は、翌日から行動を起こしました。
店を開ける前に母が酒の残量など材料をチェックし、昨日の伝票の整理と現金の照合を行い、出勤してくる従業員の時間などを記録する。
私は、大学の授業が終わった後、店に行き、皿洗いやバーテンの下働きをしながら従業員の言動やお客の観察に務めました。
 
水商売は、毎日似たような状況が続く商売です。
1週間で、商売の実態はほぼ把握できました。
従業員たちが、てんでに好き勝手にしていることもです。
接待の女性たちは、好みの客とそうでない客とを露骨に差別していました。
責任者の支配人はというと、知り合いが来店すれば“ただ酒”を飲ませていました。
ボーイに至っては、レジから現金を盗み取るという惨状です。
3ヶ月とはいえ、ここまで店がもったのが不思議なほどでした。
さて、若造の私がどうしたかは、次号で。
 
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┃☆今後の建設需要(14)                     ┃
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今号から“まちづくり”の話を始める予定でしたが、今号は、最近出てきた「ジョブ型雇用」について述べます。
 
建設通信新聞の2月18日付けの一面に「ジョブ型雇用 建設産業でも広がる兆し」という記事が掲載されました。
同紙を購読されている方は読まれたと思いますが、同紙の記事からの抜粋で、ジョブ型雇用を簡単に説明します。
同紙の記事によると、「あらかじめ雇用主と合意したジョブディスクリプション(職務記述書)に記載した仕事内容や求められる成果に基づいて雇用契約を結び人材を評価する制度」となっています。
要するに、TVドラマの「ドクターX」型フリーランス雇用ということです。
ドラマでは、主人公を快く思わない同僚から「バイト風情が・・」と言われていましたが、日本ではまだまだ「バイトとどこが違うの?」という認識が大半だと思います。
未だに、終身雇用が主流の日本の雇用環境では、労使ともにハードルが高いといえます。
 
建設通信新聞の記事では、そのことを以下のように解説しています。
企業側からみると「職務内容・業務の洗い出し・切り分けが難しい」、「ジョブディスクリプション(職務記述書)の作成負荷が大きい」といった課題を挙げています。
さらに、「既存制度との整合性や折り合いが難しい」、「コミュニケーション不足から共有業務の役割が不明確・おろそかになる」といった不安の声を挙げています。
 
記事の中でコベルコ建機が述べている「制度対象のジョブがなくなった際に自由に解雇できる法制度がないことが課題」に問題の本質が現れています。
企業側には「要らなくなったら解雇できる」という期待が見え隠れしますが、雇用者側から見たら、雇用の安定性が損なわれる不安がつきまといます。
よほど自分に自信がないと、大門未知子(ドクターXの主人公)のような生き方は選択できないでしょうね。
 
自分の話で恐縮ですが、20代前半のコンピュータ会社に勤務していた頃を思い出しました。
米国に派遣されていた時、仕事を通じて米国の若い技術者たちとの交流がありました。
夜の会食など、私的な付き合いの機会に、彼らのほとんどが、こう聞いてきたのです。
「きみは、いつ会社を作るんだ」
彼らにはサラリーマン人生を全うすることなど、まったく意識にないのです。
そうした付き合いの中に、27歳という最年少でIBMフェローとなったアンディ・ヘラーがいました。
IBMの「トップエンジニア」の称号がIBMフェローで、日本人ではノーベル賞受賞者の江崎玲於奈博士がそうでした。
そんな最高レベルの待遇を受けていた彼でも独立を念頭においていることに、ただただビックリしました。
「これが米国の活力なんだな」との思いを強くしました。
しかし、帰国した日本は、米国とはまったくの別世界でした。
 
あれから50年近く経っていますが、未だに日本では、この程度の認識レベルなのです。
働く側(特に、若い人たち)の「自分の働くことの意義・意識」が大きく変わらないと、労働のイノベーションが起きようもありません。
企業側も、ジョブ型雇用を「いつでも首が切れる」への期待ではなく、自企業の価値を高めるアイテムのひとつとの認識を持つべきです。
しかし、日本全体がその意識になっていくには、あと20年、30年、いや、それ以上かかるかもしれません。
経営者の中には、「ならば、我が社が・・」という方が出てくるかもしれませんが、簡単ではありませんよ。
 
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<編集後記>
コロナ感染や車の暴走事故などで高齢者への風当たりは強くなる一方ですが、森氏の言動はそれに輪をかけたようです。
運転免許の強制返納や議員の定年制など、高齢者への圧力は一層高まりそうです。
高齢者のひとりとして、正直、息が詰まりそうな世相を感じます。
 
でも、分かって欲しいのです。
大多数の高齢者は、暴走事故も起こさず、森氏のような高飛車な言動を行うこともなく、静かに暮らしているのです。
高齢者側も、より慎重な運転を心がけ、不安に思うようになったら、どこかで免許の返納も考えるべきなのでしょう。
しかし、免許を取得したときから自分の車を持ち、車漬けのような半生を送ってきた私自身が運転を止めるという決断は、正直、難しいのです。
「どこかに客観的な決断線を引かねばならない」と考える日々です。
 
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