2021年7月31号(経済、経営)

2021.08.02


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2021年7月31日号
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発行日:2021年7月30日(金)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2021年7月31日号の目次
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◇空気が支配する日本
★今後の建設需要(18):まちづくり
◇これからの近未来経済(9):日本の産業構造は問題か?
☆商品開発のおもしろさ(14):ワクチンの話(その1)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
新型コロナ感染の拡大が止まりません。
非常事態宣言が効かないことは明らかですが、政府も東京都も打つ手なしのお手上げ状態です。
「それみたことか」と批判のトーンが上がっていますが、それが解決策にはなりません。
 
五輪が終わっても、夏休みの帰省ラッシュが始まります。
こうなると、個人個人で対処するしかありません。
考えられる限りの防衛策を徹底するか、ワクチン接種に期待するか、とにかく閉じこもるか、はたまた、「どうにでもなれ」と開き直るか・・
私は、先日ワクチン接種を終えましたが、それでも防衛策に徹します。
日本は強制的に行動制限を掛ける法律がないので、政府は個人活動を力で抑え込むことができません。
仕方ないですね。
 
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┃◇空気が支配する日本                        ┃
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今では古典となった感がある山本七平著の『「空気」の研究』を読むと、日本は何も変わっていないことがよく分かります。
太平洋戦争の敗戦で日本は劇的に変わったと思い込んでいる日本人が多いですが、この本を読むと「何も変わっていないな」との結論に至ります。
例えば、山本七平はあの戦争の開戦に至る経緯で、以下のように述べています。
『第二次世界大戦が何で始まったかと言うと、ヒトラーやムッソリーニというファシストがいたからではなく、何となく誰も「やめよう」と言えなくなってしまい、空気の抑圧で押し流されて戦争を始めてしまった』
政治学者の片山杜秀氏は、『未完のファシズム 「持たざる国」日本の運命』という本の中で同じようなことを述べています。
『軍部は、総力戦研究のデータ分析で「米国には勝てない」という結論を出していた。しかし、それに基づく意思決定ができなかった。誰もが会議では勇ましく開戦論をぶちあげながら、家に帰って奥さんには「俺はこの戦争は無理だと思うんだよ」とコソコソ言う』
 
開戦前の大本営会議のメンバーであった陸軍の本間中将の夫人が、戦後に語った言葉を読んだことがあります。
開戦を方向付けた会議があった日の午後、外出から帰った夫人は、庭に一人たたずむ中将に気が付き、声を掛けました。
「あなた、きょうは大事な会議ではなかったのでは・・」
中将 「うん、会議は終わった」
夫人 「で、どうなったのですか?」
中将 「開戦に決まった」
 
夫人が驚いて「あなたは反対だったのでは・・」と問うと、中将は「そうだ、オレは反対だった」と答えました。
唖然とする夫人に向かって、中将はこう続けました。
「東條がな・・、反対するオレたちに向かって、こう言ったんだ。『卑怯者、貴様たちは、それでも帝国軍人か!』。軍人にとって『卑怯者』は最も堪(こた)える言葉だ。オレたちはそれ以上、何も言えなくなってしまった」
まさに、東條首相らが作り出した空気に、反対派は沈黙したということです。
本当に悪いのは東條たちではなく、本音は反対ながら空気に負けた本間中将たちかもしれません。
 
こうした空気の支配は、戦後日本にも連綿と続いています。
政治がリーダーシップを発揮しようとすると、野党やマスコミが「独裁だ」と大騒ぎし、国民はそうした空気の圧力に押し流されて、政権批判が大勢となります。
コロナ禍で大騒ぎしても「非常事態法」は「戦争に道を開く」とする反対の空気に支配され、国会での議論すらできません。
非常事態だからこそ、国会で議論を尽くすことが大事なのにです。
もちろん、議論を尽くさず「強行採決へ持ち込めば勝ち」みたいな自民党の姿勢があるからとも言えますが、それならそれで、国民の間に広く議論を巻き起こす戦略を取るべきであり、「絶対反対、問答無用」ではあまりにも子供じみています。
 
今回の五輪にしても、「有観客」を許さない空気が作られ、結果として「無観客」になったらなったで、「最低の開会式だった」と袋叩きです。
結局、何もかも中途半端な五輪開催となり、感染も拡大の一途という有様です。
 
最後に、本間雅治中将のことを。
中将は、フィリピン攻略の司令官として、マッカーサー元帥率いる米軍と死闘を繰り広げましたが、敗戦後、有名な「バターン死の行進」の責任者として、マニラで銃殺刑となりました。
中将の最後の言葉とされる「いっさい夢にござ候」が悲しいです。
 
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┃★今後の建設需要(18):まちづくり                ┃
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「まちづくり」で私権の調整以上に難しいのが「ファイナンス」です。
公の予算が付く場合は良いのですが、民間の開発事業では自力の資金調達がメインになります。
たとえ補助金が付いても、必要資金には大きく不足する場合が大半です。
 
ゆえに、銀行などの金融機関に事業計画を持ち込み、融資交渉となるわけです。
そのとき、銀行からは必ず以下の言葉が返ってきます。
「出口戦略は?」
つまり、融資したおカネを「いつ、どのようにして返済してくれますか」という問いです。
 
銀行の多くは“まちづくり”の目的、意義、将来構想などには無関心です。
ひたすら「回収」のことにしか関心がありません。
でも、銀行としては当然のことなので、怒っても仕方ありません。
要するに、大手企業や実績のあるデベロッパーでもない限り、銀行頼みのファイナンスは成り立たないと思ったほうがよいということです。
自前の土地があっても、土地評価額の5~7割程度が限度でしょう。
都心の1等地ならそれでも開発推進が可能でしょうが、郊外や地方ではそうはいきません。
ベンチャー型の“まちづくり”が進まない最大の要因といえます。
 
そうなると、考えられるのは金融ファンドの利用です。
たしかに、金融ファンドは銀行のように「出口戦略は?」などと、高飛車な態度は見せません。
だからといって、「有る時払いの催促なし」などと鷹揚にかまえているわけでもありません。
事業の採算性や配当については、銀行以上に厳しいと覚悟する必要があります。
その上、それなりの高いリターンを覚悟しなければなりません。
明確になっているわけではありませんが、配当としては8~15%を期待されます。
かなり厳しい数字ですが、ファンド側も集めた資金への配当が必要であり、リスクを考えれば、高いとはいえません。
しかも、この配当率は契約によって約束されていない場合が多いですから、投資を受ける側が最終的に「配当はできない」と言うことは可能です。
もっとも、それ以降、いっさい相手にされなくなりますから、そちらのリスクのほうが高いかもしれませんが。
 
米国のファンドマネージャーと交渉したことがありますが、雑談で「配当の期待値は15%だが、実際は12~13%で、損することもある」と話していました。
孫正義氏率いるソフトバンクグループ・ファンドは、大口投資家であるサウジアラビアには6~7%配当を固定値として契約しているといわれています。
となると、15%以上の収益を目指す必要があり、“ばくち”のようなスタートアップ企業の発掘に賭けているわけです。
時間も経費もかかる“まちづくり”への投資などは、まったく孫氏の眼中にないでしょう。
 
これらの話から分かるように、事業収支こそ最も大切な要素といえます(当然ですが・・)。
ただし、銀行のいうような「出口戦略」という考え方ではダメでしょう。
次回は、そのことを少々論じてみたいと思います。
 
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┃◇これからの近未来経済(9):日本の産業構造は問題か?       ┃
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五輪で日本を訪れている各国の選手には、初めて来日した選手が多くいます。
SNS時代を反映して、そうした人ほどSNSへの投稿が多いようです。
景色や、シャイだが心からの歓迎を示す日本人への賛辞や驚きが多い中で、「モノが溢れる」商店の風景に驚きを隠せない投稿の多さが目を引きます。
特に、開発途上国の選手たちには、自国ではありえないほどの豊富な食品や製品であふれる量販店やスーパー、24時間欲しいものが買えるコンビニ、料理を選手村の自室にまで届けてくれるデリバリーサービスなどは、夢のような体験のようです。
さらに、鮮度が落ちれば即廃棄、売れないモノはすぐに引っ込めて品揃えを変える商売には驚愕しかないようです。
 
しかし、そのような明らかな過剰サービスやモノにあふれた豊かな社会を実現しているインフラや物流、接客の現場で働く作業員や店員、ドライバーの大半が低賃金である裏面までは分からないでしょう。
だからといって、商店や中小企業の多くが「儲かって笑いが止まらない」というわけではありません。
アパレルに代表される大衆商品に関係する中小企業は、低価格での品揃えを強いられ、最終的に大きな「過剰在庫」に苦しめられています。
従業員に報酬で報いたくとも、こうした「ムダだらけのビジネスモデル」ゆえ、それができないのです。
 
日本は30年前のバブル崩壊で成長経済が止まり、そこから成熟経済に転換しなければならなかったのですが、企業の大半は相変わらずの「売上高至上主義」から脱することからできずにいます。
売上が数兆円という巨大企業に成長しても、あいも変わらず「○ヶ年計画で、売上○割アップ」を叫ぶ企業トップの、なんと多いことか。ため息しか出ません。
中小企業のトップの中には「売上を抑えて利益重視」を掲げる方もいますが、さすがに「売上を○%落として利益率を○%上げる」というような目標を掲げる経営者にはまずお目にかかりません。
しかし、鳴り物入りの「働き方改革」の真の狙いは「働かない時間を増やし、利益を増やす」とい夢(手品かな・・)の実現です。
ならば、「売上を落とし・・」という目標設定が必要なはずです。
ところが、そうではなく「生産性の向上」を掲げる企業ばかりです。
しかし、生産性向上により商品の生産力が落ちないということは、人口減少の中では過剰生産になり、デフレが促進されることになります。
売上高を落とさない限り、この矛盾は解消されません。
 
実際、コロナ禍で、大半の人の働く時間は確実に減っているはずです。
しかし、「このままでは日本経済は落ち込みから脱することができない」という声ばかりです。
コロナ禍を「天からの恵み」と受け止め、この機に需要をはるかに上回る過剰な品ぞろえや過剰なサービスの提供を止めようという声はほとんど聞こえてきません。
結果として、「過剰供給」の負のスパイラルから抜け出せない産業構造は少しも変わらないことになります。
 
こんなことを書いていると、「おまえの会社はどうなんだ、ご立派な経営ができているのか」と言われるでしょうが、正直、言葉に詰まってしまいます。
しかし、こんな意見を書いた以上、自社で実現する具体的な戦略を描き、少しずつでも経営を変えていこうと決意しています。
次回、私が考えた「山なり多重回帰曲線型経営」なるものを解説したいと思います。
 
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┃☆商品開発のおもしろさ(14):ワクチンの話(その1)       ┃
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現在、切実に求められている商品といえば新型コロナワクチンと思いますが、最も誤解を受けている商品ともいえます。
もとより私は専門家ではありませんが、医療関係や製薬関係の知り合いもいますので、それらの話を組合せて、自分なりに納得した意見を数回に分けて述べさせてもらいます。
 
まず、インフルエンザ用など、これまで使われてきたワクチンについて整理してみました。
こうした従来タイプのウィルスワクチンは、大きく3タイプに分類されます。
(1)生ワクチン:弱毒化した生きたウィルスを使う
(2)不活化ワクチン:ホルマリンに漬けるなどして感染力をなくしたウィルスを使う
(3)組み換え型蛋白ワクチン:遺伝子組み換えによって作成したウィルス蛋白を使う
 
今回の新型ウィルスに対しては、(1)は安全性で問題があり、(2)と(3)は有効性が低かったということです。
そうした中で、30年前からまったく新しい発想でワクチン研究を続けてきた会社があります。
ドイツのビオンテックという製薬会社です。
この会社が開発したワクチンが、今では多くの人が耳にする「m(メッセンジャー)RNAワクチン」です。
このワクチンは、ウィルスそのものを人体に送るのではなく、ターゲットとするウィルスを構成する蛋白を作る「設計図」を人体の細胞内に送り込むというものです。
この設計図はウィルスの遺伝子を解析して作りますが、“mRNA”とは、この設計図の名称です。
注射器で人体の細胞に送り込まれるのは、ウィルスではなく「設計図」というわけです。
こうして送り込まれた設計図に基づき、細胞はウィルスを構成する蛋白を作り出します。
このウィルス蛋白を体内の免疫細胞が認識し、体外から入ってくるウィルスに対抗する抗体を作り出し、ウィルスが体内に入ってくることを予防するというわけです。
また、実際に感染した場合でも、そこから回復することに欠かせない「細胞性免疫」を誘導する能力も獲得します。
このようにして作られたワクチンが臨床試験で「発症予防効果」95%という高い有効性を発揮したので、投与に踏み切ったというわけです。
 
といっても、ビオンテックはベンチャー型の小企業であったため、米国が多額な研究資金を提供し、ファイザー社と組ませて誕生したのがビオンテック・ファイザーワクチンなのです。
同時に、米国はモデルナ社を設立させ、同様の研究をさせ誕生したのがモデルナワクチンです。
モデルナ1社への支援額だけでも4000億円というから驚きです。
ちなみに、日本が「新興・再興感染症」と呼ばれる新型インフルエンザ、エボラ出血熱、MERSなどの研究に投じた予算は2019年度で64億円、しかも、新型コロナウィルスワクチンは、そのうちの一部というのですから、「できるわけない」のです。
 
こう書いてくると、資金さえあれば簡単にできそうに思えるかもしれませんが、30年もの年月がかかったのは、“mRNA”という設計図を細胞に運ぶ難しさゆえなのです。
ワクチン蛋白を作る精密な設計図である“mRNA”は非常に不安定であり、しかも、人体の細胞内に送り込まれると「異物」と認識され、すぐに壊されてしまうことが繰り返されたのです。
その結果、ようやくたどり着いたのが、マイナス70℃という超低温での保管であり、解凍後は「揺らすこと厳禁」などの厳しい扱い基準だったのです。
 
なお、英国オックスフォード大学などの研究で開発されたアストラゼネカも、同様の“mRNA”ですが、扱いが少し緩くて使いやすい反面、効果は少し劣ると言われています。
また、中国製やロシア製のワクチンは“mRNA”ではなく、従来型の不活化ワクチンです。
当然、効き目は薄いですが、扱いは簡単なので、途上国は気休めと分かっていても、これらを使うしかないというわけです。
先進国は、保管や運搬、解凍、接種までの体制の整備を含めて援助する仕組みを作る必要があります。
それができない理由の一つが、中国やロシアに忖度しているWHOや国連への不信感なのです。
次回も、ワクチンの問題を続けます。
 
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<編集後記>
五輪報道でも、マスコミの“いやらしい”言葉の乱発が目に付きます。
女子選手に対し「美人すぎる・・」というような、競技とは無関係な記事が多すぎます。
ネットでは、韓国や中国による日本選手に対する誹謗中傷が酷さを増しています。
自国批判が難しい分、その“うっぷん”が日本に向かうのでしょうか。
そうした言動を「卑怯」というのですが、分かっていないようですね。
 
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