2019年11月15日号(国際、政治)

2019.11.18


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2019年11月15日号
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発行日:2019年11月15日(金)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2019年11月15日号の目次
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★GSOMIA破棄の側面効果
★見栄の軍事力
★民主主義に軍事力は不要?(2)
★第一列島線の攻防(3)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の有効期限(23日0時)が迫ってきました。
韓国の高圧的な態度を見る限り、このまま協定破棄に進む公算が強いと思われます。
結果、日本との関係修復は不可能になり、破棄の撤回を迫る米国との関係も最悪となります。
今号は、この問題を側面から見てみようと思います。
 
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┃★GSOMIA破棄の側面効果                   ┃
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GSOMIAの破棄期限が迫る中、タイで安倍首相と文在寅大統領の短い対話が行われた。
韓国が半ば強引に持ちかけたこの対話、韓国が最大限に意義を強調したのに対し、日本側の発表はそっけなかった。
これに頭に来たのか、韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相が、奇妙な批判を繰り広げた。
この対談に関する日本政府の発表が「国際基準に合わない」と批判したのである。
そもそも、立ち話に近い非公式の対話に「国際基準」などというものは存在しない。
どうして良いかわからない苛立ちが、こうした奇妙な発言となったのであろう、
 
こうした韓国の感情発露に対して、至極冷静なのが日本の世論である。
日本国民の意識は、明らかに変わってきた。
長い間、日本国民の心理は、韓国への贖罪の意識に縛られていた。
それは「戦前の日本は悪い国だった」という刷り込み教育の効果である。
もちろん、この教育を強制したのは米国である。
「米国は、ならず者”日本”を叩きのめした正義の保安官」という姿を内外に植え付けることが目的だった。
 
この効果は絶大で、日本国民の多くは、「日本は悪い国だった」という意識で韓国への贖罪意識を持ち続けてきた。
2015年の慰安婦問題の合意は、その象徴のようなものである。
日本国民の多くは、この合意に賛同していなかったが、やはり贖罪意識で自らを納得させたのである。
もちろん、韓国国民も納得していなかったが、いつまでも過去を引きずることは得策ではないと判断したことで、ガラス細工のような合意がなんとか出来た。
このまま行けばよかったのだが、ガチガチの親北政治家である文在寅大統領が誕生したことで、すべて壊れてしまった。
 
しかし、逆説的であるが、これで良かったと言えるのではないか。
剥き出しの反日姿勢をあらわにする文在寅政権のおかげで、日本人の贖罪意識が消えたのである。
これは、マスコミが使う「嫌韓」とか「反韓」といった感情的なものではなく、あまりにも手前勝手な韓国の態度に「これまでの我々の認識は誤っていたのではないか」と、冷静に考えられるようになった効果である。
そして、この日本国民の意識の変化を韓国政府が見誤ったことが、今日の日韓関係の姿である。
こうしたことが、GSOMIA破棄の側面効果と言えるのではないか。
 
他方、韓国の世論も、今日の事態を受けて変化の兆しが出てきている。
しかし、それは一方向的な変化ではなく、互いが妥協できない徹底的な内部分裂という変化である
韓国の「アジア太平洋戦争犠牲者韓国遺族会」の事務局長である崔容相氏の次の言葉が印象的である。
韓国の新聞から引用する。
「徴用工問題にしても、慰安婦問題にしても解決を妨げているのは(反日)市民活動家であり、韓国政府なのです。私たち被害者、遺族を無視して、日本叩きばかりを行っている。いま本当に困っているのは、日韓関係が悪化して解決の途が見えなくなっている被害者・遺族です。市民活動家に牛耳られてしまった徴用工問題や賠償問題を、本当の被害者たちのための活動に戻さなくてはいけない。そのために私たちは市民活動家たちと闘うことを決意したのです」
 
この記事から分かるように、日韓の問題は、韓国の国内問題という側面がどんどん色濃くなってきている。
日本は一歩も二歩も下がって、当面は静観していたほうが良いようである。
 
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┃★見栄の軍事力                         ┃
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韓国海軍は、7万トン級の中型空母や原子力潜水艦の建造を計画しているという。
韓国は、こうした重武装兵器を持つ意味をどう考えているのであろうか。
 
7万トン級の空母や原子力潜水艦は防衛兵器ではない。
明らかに他国を攻撃する純粋な攻撃兵器である。
ゆえに専守防衛を標榜する日本にはそうした建造計画はない。
「いずも型の空母化計画があるではないか」と言われると思うが、こうした軽空母の任務は2つある。
一つは尖閣諸島などの離島防衛である。
日本は、本土から離れた離島を多く持つ国である。
その防衛を考えると軽空母の存在価値は大きい。
もうひとつは、陸上の航空基地が攻撃を受けて使用不能に陥った場合の代替基地である。
こうした理由で、いずも型の軽空母への改修は意味を持つ。
しかし、中大型の空母は防衛兵器としては不要である。
 
一方、原子力潜水艦はまったく不要である。
そもそもエンジン音の大きい原潜は、本土防衛には不向きな装備である。
日本の通常型潜水艦の能力向上はめざましく、潜水したまま一ヶ月の作戦も可能とのことである。
近くに母港を有する海上自衛隊にとって、原潜は無用の長物なのである。
 
かつて、仕事で潜水艦に乗ったことがあるが、その艦長は私に明言した。
「相打ちを覚悟すれば、本艦は原潜と互角に戦えます」
若かった私は、その言葉をまともに受け止めることは出来なかったが、今は技術的な意味でも戦術的な意味でも艦長の言葉を理解できる。
 
でも、ふっと思う。
あの時の艦長は30代半ばであったが、その若さで冷静に語る彼の顔に迷いはなかった。
きっと、現代の艦長たちも同じ思いと力量を有しているのであろう。
だが、日本は、将来も、そうした艦長たちを生み出すことができるのであろうか。
そこが一番の心配である。
 
冒頭の話に戻る。
私は、韓国海軍の計画のような軍事力を「見栄の軍事力」と呼ぶ。
日本は、決して、このような愚策に陥ってはならない。
 
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┃★民主主義に軍事力は不要?(2)                 ┃
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第二次世界大戦は、数千万人という犠牲を出した末にドイツ、日本の降伏をもって終わった。
数千万人というが、その実数は定かではなく、5000万~8000万人と諸説ある。
その悲惨な結果を前にして、英国の首相であったチャーチルの語った後悔の言葉がある。
「我々は、ナチス・ドイツが誕生した時、戦争を仕掛けて潰すべきであった」
 
本当に、戦前にドイツに対する軍事攻撃を実施していたら、軍事的劣勢にあったナチス・ドイツは崩壊し、第二次世界大戦は起きなかったかもしれない。
しかし、英国は、非難一色になったであろう。
その時点では、誰も、この後に起きた世界大戦の悲惨さを知らないからである。
 
当時から、英国は民主主義国家であった。
かつ、世界有数の軍事国家でもあった。
ゆえに、チャーチルは「民主主義に軍事力は不要」と思っていたわけではなかった。
むしろ、民主主義を守るため「軍事力は必要不可欠」と思っていた。
 
だから、第一次大戦の敗戦から復活してきたドイツを危険視し、先制攻撃を考えたのであろう。
しかし、第一次世界大戦が、それまでの戦争の概念を大きく変えてしまっていた。
それまでの戦争は、海上や野原が戦場であり、犠牲は兵員に限られていた。
一般市民は、戦場に駆り出された家族を心配したり、巻き添えを食うことを恐れてはいたが、戦争は、どこか遠い世界の出来事であった。
 
それが、第一次世界大戦では、飛行機や長距離砲、戦車などの出現により市街地が戦場となり、大量の市民の犠牲を出した。
その悔悟から、欧州市民は「厭戦」という戦争そのものを忌み嫌う気分に支配されていった。
その結果、「紛争は対話で解決すべき」という、至極まっとうな意見が大勢を占めることとなった。
 
欧州各国は、ヒットラー率いるナチス・ドイツの危険性を十分に分かっていたが、市民の間に浸透した「厭戦」気分に逆らうことは出来なかった。
それが民主主義国家の基本である以上、チャーチルも逆らえず、結果としてナチス・ドイツの勃興を許した。
 
チャーチルの後悔から我々が学ぶべきことは何なのか?
「民主主義にも軍事力は必要」と思うだけではダメなのであろう。
だが、軍事力の行使を、防衛に限定せず、先制攻撃にも使うということも、また難しい問題である。
米国が抱える北朝鮮問題の核心も、まさにそこにある。
次回、そこをもう少し掘り下げて考えてみたい。
 
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┃★第一列島線の攻防(3)                    ┃
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あまり報道されていないが、近年、石垣島や宮古島などの南西諸島が「建設特需状態」だと聞く。
賢明な読者のみなさまはもうお気付きと思うが、防衛関係の施設の建設が特需の中心となっている。
基地の拡充や新設といった直接関係の他に、隊員の宿舎用地の整備なども進められている。
こうした施設建設の種類や規模から、今後配置されるであろう駐留部隊の種類や規模が分かる。
 
こうした事実は、米中による「第一列島線の攻防」が新たな段階に入ってきたことを意味する。
外交上は日中関係の改善が進んでいるが、軍事的には日中は一触即発の敵対関係にある。
中国が尖閣諸島を「核心的利益」と位置付け、実力で狙う現状がある限り、日中は軍事的に対立せざるを得ない。
これを「日中のどちらが悪いのか」と論じることは意味がない。
日中両国には、それぞれの立場と政策があり、どちらが良い悪いの問題ではない。
日本から見たら、尖閣を守るか手放すかの選択問題であり、その答えは既に出ている。
 
中国にとっての第一列島線は、米軍を近づけさせないための防衛ラインであるが、その線上に国民が暮らす日本にとっては、防衛ラインどころか国民の生存を掛けた死活ラインである。
その重要性は、中国とは天と地ほども違う。
中国が第一列島線の支配を確立するということは、日本国が中国の支配下に入ることを意味する。
日本がそれを容認できないことは小学生でも分かる。
「平和が大事」というお題目の問題ではないのである。
 
この第一列島線の攻防に関して、平和に慣れた日本国民の関心は薄かった。
それに乗じ、中国は尖閣の領海侵犯を常態化させることで、やがて実効支配できると思ってきた。
かつ、オバマ政権時代、尖閣に対する米国の関心も薄いと踏み、実効支配の具体化を本格化させようとしてきた。
 
しかし、それは完全に中国の読み違いであった。
米軍は、共和・民主の政権に関係なく、第一列島線をアジア戦略の最重要ラインと認識していたのである。
米軍は、10年という時間を掛けて、中国の(A2/AD)戦略遂行の初動である第1列島線への短期高烈度の攻撃を跳ね除け、中国軍に勝つ戦略・作戦をほぼ完成させた。
2019年5月にCSBA(米国戦略予算評価局)が発表したMPS =Maritime Pressure Strategy(海洋圧迫戦略)を読むとその全貌が分かる。
ここまで掛けて、ようやく日米の戦略が完全な一致をみたのであるが、関心を持つ日本国民はほぼ皆無であり、マスコミも同様である。
 
だが、このMPSの発表に中国は大きく動揺している。
MPSは、それまでのASB(Air Sea Battle=エアシーバトル戦略)を補強したもので、一言で言って、対中国戦略の完結版といえるからである。
 
米軍はベトナム戦争の敗北の原因を究明していく中で、一つの結論を得た。
戦死したり捕虜となった北ベトナム軍の将校たちが持っていた2つの小さな冊子がそのヒントとなった。
その一冊は「毛沢東語録」であったが、もう一冊は古代中国の兵法書「孫子」であった。
当時の米軍の統合戦略本部は、こう結論づけた。
「我々は、北ベトナムに負けたのではない。この本に負けたのだ」
以来、米国には100を超す「孫子」の研究所が生まれ、その研究成果に沿って米軍の再編が行われ、新時代の戦略・戦術が練られていった。
冷戦の終結で、仮想敵国がソ連から、ロシア、そして中国へと変わった。
その変化を受けて、2010年からASBの検討が始まり、10年かかってMPSとして完成したのである。
 
次回、このMPSの概略を解説し、自衛隊との共同戦略について言及していきたいと思う。
 
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<編集後記>
「桜を見る会」の騒動は、今の日本政治を象徴している出来事といえるのではないでしょうか。
「安倍一強」におごる政府・与党と、国家戦略論や経済戦略で勝負を挑めない野党の姿は、ともに「情けない」としか思えません。
対立が激化する日韓問題だけでなく、日本海への進出の野望をむき出しにしてきたロシアや中国への対応、米中対立の影響など、国会で議論すべき重要問題は待ったなしです。
与党はもちろん、野党の真剣な意見を、ぜひ聞きたいものです。
 
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