2020年10月31日号(経済、経営)

2020.11.04


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2020年10月31日号
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発行日:2020年10月31日(土)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2020年10月31日号の目次
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◇これまでの経済、これからの経済(15): 最終回
◇中国の思惑通りにはいかない(その7):中国だけが経済回復?
☆商品開発のおもしろさ(5)
★今後の建設需要(10)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
米国は、ヨーロッパで迫害されていたキリスト教プロテスタント派の人々が海を渡り建国した国です。
そうした歴史的背景もあって、米国民の心理の根底には強いキリスト教信仰が流れています。
1ドル札を持っている方は、真ん中の大きな「ONE」の文字の上を見てください。
「IN GOD WE TRUST」という文字が刷り込まれています。
「我々は神を信じる」というより、「我々は神の存在、そのすべてを信じる」という強い意味が込められたアメリカ合衆国の公式な国家標語です。
集会に参加せず、ものも言わぬ隠れトランプ支持者は、ここに結集しているのでしょう。
ただ、1億人を大きく超えると予想される事前投票は民主党支持者が多いと言われています。
ものを言わないのは民主党支持者も同様です。
もの言わぬ国民の声が政治を動かすのが民主主義の姿であるなら、米国は健全と言えるのかもしれません。
 
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┃◇これまでの経済、これからの経済(15): 最終回        ┃
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前回はマクロの話をしましたので、最終回はミクロの話で締めくくります。
飲食業を経営している知人の話では、一時は80%減になった売上高が30%減ぐらいには回復してきたということです。
しかし、そこで売上回復は停滞し、それ以上向上する兆しがないということです。
「コロナ特別融資で一息ついたけど、それも残高が減っていく一方で気が気じゃない」と危機感がいっぱいの様子。
つまり、以前の売上70%では黒字にならないということです。
 
彼の経営は、それまで続いた好調な売上が固定費を大きくしてしまっていました。
そこをコロナウィルスに直撃され、脆さを露呈してしまったわけです。
ですが、今回のウィルス禍は、近未来の市場変化を先取りして加速させただけです。
ゆえに、収束しても市場が元の姿に戻ることはなく、大きな変化の時代が来ると思うべきでしょう。
ということは、彼の経営には、業態を根本から変えるような戦略が必要ということになります。
 
しかし、この知人は、本メルマガの8/31号で言及した「戦略投資」を行う余裕などまったくないよと嘆きます。
私は、「君は、戦略投資というものを誤解しているよ」と言い、さらに続けました。
「戦略投資=売上拡大は短絡的な解釈だよ、そうではなく、必要な利益確保のための投資だよ。会計学的に言えば『総資本経常利益率』の向上ということかな」
 
ところが、私の話をさえぎって、彼は言いました。
「あなたの言っていること、よくわからないよ。学校で教わらなかったし・・」
それを聞いてハタと気付きました。
「そうだ、学校の勉強って、こんな時、役に立たないよな・・」ということに、です。
 
「学校に行ったら先生の言うことを聞け」
と親から言われた記憶を持つ方は多いでしょうし、ご自分のお子さんに、今でもそう言われている方もいるかもしれません。
私は、それが間違っていたと言うつもりはありません。
貧しかった日本が先進国になった原動力は製造業の力です。
それを支えたのは、正確な工場ラインの稼働であり、労働者の一糸乱れぬ働き方でした。
だから、先生の言うことを聞いて、秩序ある行動様式を身に付け社会に出ることが大事だったのです。
「先生の言うことを聞け」は、それなりの効果があったのです。
 
しかし、時代は大きな転換点に来ています。
私の考えだと、その大転換点は2025年ですが、新型コロナウィルスがその時期を早めました。
ゆえに、転換するのは「いま!」になったのです。
 
この大転換の時代に必要なのは「協調性のある人材」ではなく「飛び抜けた人材」です。
しかし、今の学校教育の中で先生の言うことだけを聞いていても、飛び抜けた人材になれるはずはなく、中年になる頃にはリストラ要員になるだけでしょう。
 
ならば、企業は、今の学校教育からはみ出している中から人材を発掘しなければならないということになります。
しかも、はみ出し方に条件を付けてはいけないのです。
「よし、はみ出し人材を探そう」と思っても、「上にはみ出すのは良いが、横や下ではダメだ」となりがちですから、難しいのです。
そうした既成概念抜きに人を見出す能力を持つ人材が“経営側に”欲しいのです。
つまり、経営トップは、役員人事から見直す必要があるのです。
 
最後に一言。
日本では、未だに「学校に行ったら先生の言うことを聞け」というような20世紀型の教育方針を信じている親が多いように思います。
今の学校、登校拒否をするぐらいのお子さんのほうが、見込みがあるかもしれませんよ。
 
(予告)
本シリーズはいったん終わりにしますが、大転換の曲がり角を曲がった世界の話を、次のシリーズでお送りする予定です。
 
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┃◇中国の思惑通りにはいかない(その7):中国だけが経済回復?   ┃
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中国の発表では、7~9月期のGDP成長率が4.9%のプラスになったということです。
日米欧より一足先に経済回復基調に入ったということで、2021年度は6.9%の成長に戻すと自信を深めています。
中国の発表数字をそのまま信じることはできませんが、回復傾向は事実でしょう。
徹底した都市封鎖という急ブレーキを踏んだ後に強引に経済再開へアクセルを踏み込むという政策は、独裁政治だから可能でした。
西側先進国では、とうてい不可能なことです。
この点で、人権を重んじる民主主義国家は弱いということになります。
でも、中国式の政策を正しいとは思いたくないですね。
 
その一方で、新型コロナウィルスによる経済ダメージが深刻な新興国への多額の債権が中国のアキレス腱になる可能性があります。
新興国全体の対外債務残高は7.5兆ドル(約800兆円)を突破し、償還どころか利払いの確保すら困難になっています。
こうした国々への大規模な債務免除について、債権国がこの問題の国際会議を開いています。
ところが、一帯一路で膨大な債権を抱えている中国は「自分も開発途上国だ」と言い張り、債務免除の大半を西側先進国に押し付けることを画策しています。
つまり、日本を含む欧米諸国に債務免除を負担させ、そのカネを中国への返済に充てさせようという“虫の良い”戦略です。
 
中国は、借金漬けで苦しむ開発途上国のことなど眼中になく、我欲のみです。
そもそも、債務免除が許されても、その国は将来的に国際市場から資金調達することが難しくなり、経済成長など見込めなくなります。
そうした事態に陥ることが分かっていながら、開発途上国の政府要人たちを甘い言葉とワイロで籠絡し、借金漬けにしてきたのが中国です。
 
しかし、そのことを非難しても馬耳東風なのが今の中国です。
西側諸国は、小異を捨て、力を合わせて中国に相応の負担を負わせるべきです。
おそらく中国は、硬軟の手段を織り交ぜ、各国の切り崩しを図ってくることでしょう。
標的は、中国寄りの姿勢の強いドイツと、そして日本です。
さて、菅政権は、こうした中国の策略をどうさばいていくのでしょうか。
 
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┃☆商品開発のおもしろさ(5)                   ┃
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今回は、商品としてのアニメ・コミックの話をします。
読者のみなさまは、アニメ映画が大盛況の「鬼滅の刃(きめつのやいば)」というコミックをご存知だと思います。
私は、TV版の第1回を観た時、「これはヒットする」と確信しました。
「商品開発のおもしろさ」が詰まっていたからです。
 
時代背景が大正時代という異色の設定が、まず興味を引きます。
あの時代の日本なら、敵役(かたきやく)の「鬼」にリアリティ感を持たせられるからです。
「兄妹の愛」というテーマは陳腐ですが、大正時代という異色の時代背景と組み合せたことが成功しています。
 
こうした話の王道で、当然、妹は「美少女」です。
ところが、時に鬼になってしまうこの少女は、昼間は兄の背負うカゴの中に、竹の猿ぐつわをはめられ眠っています。
この意表を突く第三の設定が興味をさらに掻き立てる道具となっています。
 
この少女、鬼と戦っている兄がピンチになると、突如覚醒し、カゴから飛び出し、凄まじい形相で敵対する鬼を倒すのです。
かわいらしい妹の顔が鬼の形相に一変するのですが、美少女の面影をちゃんと残している作画能力も、ヒットの大きな要素です。
 
このアニメ版の作画には大きな特徴があります。
背景が水墨画のようにモノトーンの世界になっているのです。
そのせいで、登場人物たちの派手な色柄の服装がより際立つ仕掛けになっています。
しかも、この背景が実に緻密に描かれていることで、このプロダクションの作画能力が尋常ではないことが分かります。
その背景の上で激しく動く派手な衣装の主人公たちは、「動く浮世絵」のようです。
このプロダクションの作画能力が、ヒットの最大の要素といえるでしょう。
 
ところで、この妹、コアなファンの間で人気のキャラクターになっています。
女性の芸能人たちが、インスタグラムで、この少女のコスプレを次々と披露していて、それが話題になるなど、二次的、三次的な広がりになっています。
そうです。このコミックの大きなキーワードのひとつは「強い美少女」です。
この妹以外に、主人公の同僚となる「鬼殺隊(きさつたい)」には、何人もの美少女隊員が登場します。
これら美少女たちのコスプレも芸能人に流行っていますが、少し前の「セーラームーン」のコスプレを世界的なフィギュア選手が演じたことからも分かるように、「強い美少女」は現代のキーワードです。
 
最後のキーワードは、敵役の「鬼」にあります。
登場する凶暴な鬼たちは、元は人間だったという設定です。
日本各地に、鬼伝説と人食い伝説(一部は事実)が残っています。
「人は死ぬと鬼になる」は、中国の道教の思想です。
死ぬことを「鬼籍に入る」と言いますが、道教の思想が日本に広く伝播していることの証明です。
そして、生前、悪行を行っていた者は、地獄で閻魔様に許されず、永遠に地獄をさまよい続ける悲惨な末路となります。
鬼滅の刃では、そうした鬼たちを絶望的な哀れな存在として描き、その境遇に主人公も心を痛めます。
そうした日本人的な感傷をうまく引き出していることもヒットの要因です。
そして、この「敵にも情感を」という傾向は日本アニメの大きな特徴になっています。
 
このように、日本のコミック・アニメには現代の商品開発のヒントが山のようにあります。
読まない、観ない方も、読んでいる知り合いやお子さんから話を聞いてみることをお勧めします。
商品開発者は、あらゆることに興味を持つことが必要です。
旺盛な好奇心こそ、“おもしろい”商品開発の一番の要素です。
 
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┃★今後の建設需要(10)                     ┃
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建設業法の改正に合わせる形で「工期ダンピング」がやり玉に上がっています。
しかし「適正工期」なる言葉を明確に定義することは困難です。
いや、あえて「出来っこない」と言っておきます。
日建連は「著しく短い工期による請負契約には、官民を問わず、国交省が発注者に対して勧告して欲しい」と要請しましたが、「著しく短い」をどう判定するのでしょうか。
もちろん、発注者が建設会社に対し「短工期をむりやり飲ませた」という証拠が上がれば、勧告も意味を持つでしょう。
しかし、それが事実でも、果たして請け負った会社が訴えるでしょうか。
私だったら訴えません。
本当に自社で無理なら、そもそも断ります。
請け負っておいて訴えるなど、とてもできるわけがありません。
 
かつて問題になった構造計算の不正の動機は、鉄筋材料費の削減ではなく、極端に短い工期を実現するための鉄筋量の削減だったと言われ、施工会社や指導したコンサル会社の関与が浮上しました。
この施工会社は、外部から現場を見えないようにして、その工法を隠していました。
しかし、その追求は、施工会社が倒産するなどして、結局うやむやになってしまいました。
あの時、追求し切れなかった国交省や日建連が、いまさら「著しく短い工期・・」と言うことに強い違和感を覚えます。
 
不正行為で短くした工期は、検査の厳格化で暴くことができるはずです。
また、様々な事情で、突貫とならざるを得ない工事もあります。
この場合は、相応の割増賃金を払うことで働く職人さんたちが納得すればOKだと思うのです。
私の経験でも、短工期の中で大晦日にコンクリート打設を行うという工程を組まざるを得ないことがありました。
職人さんたちから「冗談じゃない!」と拒否されると思いましたが、「倍の日当を出すから」と提案したら、みな喜んで、大晦日まで続く年末の徹夜作業に参加してくれました。
こうした行為も「著しく短い」と判定されるのでしょうか。
 
私は、現場代人時代に「工程圧縮技法」と名付けた工期短縮(というより、納期に間に合わせる)方法を開発し、実際に工期短縮を行っていました。
日建連の解釈だと、この技法も不正となるのでしょうか。
今後、BIMが施工にまで及び、やがてロボット施工の時代が来て、短工期は当然となるでしょう。
建設産業は、官民をあげ、そうした短工期施工を目指しているのではないでしょうか。
 
そもそも「著しく短い工期」は、元請けや顧客の利益重視のツケを下請けに負わせることで起きます。
日建連も国交省も、空虚な言葉遊びは止めて、未だに産業界にはびこる上下関係の文化を変えることに注力して欲しいと思います。
ゼネコンから仕事を請ける立場の各種団体も「専門工事会社にしわよせが・・」と言うだけで、その立場の弱さの是正には及び腰です。
こうした上下関係の文化は、建設業界だけではない、日本の産業全体の問題です。
しかし、「文化」ですから、変革は容易なことではできません。
東大を頂点と考える日本人の学歴意識がある限り、変わることはないでしょう。
 
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<編集後記>
コロナウィルス禍が下火になっても「テレワークを継続する」という会社が、大企業を中心にかなりあります。
通勤費の削減やオフィスの賃貸面積を減らすことで経費削減になるという解説が多いですが、それは枝葉末節のことです。
本音は、この機会に人事制度を一新し、人員整理を進めて総額人件費を下げることにあります。
 
出社するのは、システムで代替できない仕事を行う一部のエリートだけでよい。
その他の仕事はやがてコンピュータシステムが自動で行うことになり、多くの管理職は不要になる。
それ以外の社員も、責任を負い独立して仕事を行っているような人は別にして、多くは不要になる。
今のテレワークブームは、そうした人員整理の布石のような気がしてなりません。
 
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