抑止力という名の軍事力(9)

2021.01.31


前月号で、中国の「尖閣を奪取するぞ」という本気度が見えないと書きましたが、「今は・・」という枕詞(まくらことば)が付きます。
中長期的には、尖閣どころか沖縄も中国の侵攻目標になっています。
中国から見たら、第一列島線の基点である沖縄は、どうしても抑えておきたい戦略拠点なのです。
 
よく知られていることですが、中国の国防予算は日本のほぼ4倍です。
しかも、その差は広がる一方で、日本だけでは対処不可能なレベルになっています。
ゆえに米国頼みになっている日本の防衛ですが、その米国はコロナ禍の影響で国防費の増額は難しく、2027年に米中の軍事力は拮抗するという見方すら出ています。
日本も似たような状況ですから、防衛費を急激に引き上げることはできません。
そうなると、残る手段は軍事力の質的な充実です。
 
日本は2隻のヘリコプター空母を軽空母に改装することに着手しました。
しかし、これ以上の増強は意味がないです。
空母艦隊の増強は莫大な経費がかかる割には軍事的な意味合いは薄れてきています。
折しも、中国が無人とはいえ航行中の船に対艦ミサイルを命中させる訓練に成功したとの報が入ってきました。
まだまだ米国の空母艦隊には通用しないでしょうが、日本の軽空母には脅威となります。
空母は、政治的デモンストレーションの効果はありますが、日本の場合は、補完的な戦力にしかなりません。
 
防衛費で劣る日本が力を入れるべき兵器はミサイルと潜水艦です。
小惑星探査の“はやぶさ”の成功に見られるように、日本のロケット制御技術は超一流です。
建前としては「平和利用に限定」を貫きながら、非公式に軍事応用を進めるべきで、その噂(うわさ)を流すだけでも効果はあります。
 
もうひとつは、究極のステルス兵器である潜水艦隊の充実です。
潜水艦の数は日本22隻、中国60隻と言われていますが、日本は退役潜水艦を解体せず整備を続けているので、稼働可能な潜水艦は30隻と言われています。
さらに、日本の潜水艦の大半は騒音の少ない最新式です。
中国の潜水艦の性能はよく分からないことが多いですが、例えば、激しい水圧から艦体を守る鋼鉄の性能や溶接技術において日本に肩を並べているとは言えないレベルです。
推測ですが、最大潜航深度においては、1.5倍以上の差があると考えられます。
また、私の昔の体験から言えば、乗員の質と練度においても差があるように思われます。
日本は、中国に勝つことではなく、ミサイル防衛網の整備と潜水艦隊の増強で、中国にとって「攻めにくい」防衛力(つまり、抑止力)を備えた国になるべきです。
 
ただ、抑止力では済まない危険要素もあります。
中国が台湾侵攻に踏み切る時は、同時に、邪魔になる日本攻撃に踏み切ると考えられます。
それに対する抑止力は、日米同盟を軸とする多国間安全保障協議体「クアッド」です。
それは、また後の機会で述べるとします。