2015年7月4日号(経済、経営)

2015.07.04

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2015年7月4日号
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                発行日:2015年7月4日(土)

いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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          2015年7月4日号の目次
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★ギリシャ、ついにデフォルト
☆TPPがまもなく合意に
★政治の劣化
☆小さな会社の大きな手(4):経営幹部のスカウト
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りする号で、6月末の発行予定でしたが、ギリシャのデフォルト前後の情報を確認するため、予定をずらしてお送りします。

3日間、ギリシャ情報を追いましたが、想定外のことは何も起きませんでした。
この先も、淡々とシナリオでも出来ていたかのように、ことが運ぶものと思われます。
今号は、この話題から解説します。

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┃★ギリシャ、ついにデフォルト                   ┃
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7月1日、国際通貨基金(IMF)は、6月30日を期限としていたギリシャからの返済がなかったことを発表し、ギリシャは事実上のデフォルトに陥りました。

ギリシャのチプラス政権は、ドイツに対し戦時中の賠償だとして22超円もの要求を出したり、ロシアへ接近する姿勢を見せたりと、欧州連合(EU)へ様々な揺さぶりをかけてきましたが、このような姑息な手段が通用するはずはありません。
ドイツは相手にもしないし、自らの経済が火の車のロシアが支援出来るとは思われません。
ギリシャ国民は、このような首相を選んだことが、さらなる苦境を招いたことを知るべきです。

ギリシャは、5月、IMFへ約7.5億ユーロの融資返済を行った際、IMFの特別引き出し権(SDR)を取り崩しました。
SDRはタンスの奥にしまっている最後のおカネのようなもので、ここに手を付けた以上、デフォルトは時間の問題となっていたわけです。

しかし、デフォルトにはなりましたが、7月5日の国民投票の結果によっては、EUの支援が得られる可能性もゼロではありません。
ところが、7月2日、ギリシャのチプラス首相は、国民に対し、改革案へ反対票を投ずるよう演説しました。
国民の反対を理由に債権者への言い訳を作り、政権の延命を図るつもりと見られていますが、この首相には呆れてものが言えません。
さすがに、アテネのカムニス市長などが、「EU案に反対すれば、ギリシャはさらなる危機に追い込まれる。国民投票では賛成票を投じてほしい」との呼びかけを行うなど、まともな意見も出てきています。
さらに、弁護士や医師、大学教授のグループ、産業界の団体など、インテリ層からは次々と「賛成」の表明がなされてきています。

国民投票の結果、賛成派が勝てばチプラス首相は退陣に追い込まれ、ギリシャは厳しい道だが、EUの支援をバックに再建への一歩を踏み出すことになります。
逆に反対派が勝てば、ギリシャはユーロ圏離脱の迷路に入り、その先は闇としか言いようがなくなります。

銀行休業などの現実が国民の目を覚まさせたのか、当初、反対派が有利と言われていた世論も、最近の調査では、賛成が反対を上回りだしました。
なにより、「投票に行く」と答えた有権者が86%超と、急上昇していることから、最後は賛成派が勝つと予想されています。

ギリシャ危機がここまで深刻化したのは、ギリシャ政府と国民の意識の甘さの「相乗効果」ならぬ「相乗悪化」であり、いわば、自業自得なのです。
選挙目当ての減税や公共サービスの拡大、公共投資を繰り返したあげく、公務員の数は就業者数の25%に達し、しかも、その公務員は「皇帝福祉」と呼ばれるほどの高福祉を享受していたのです。
例えば、あまりにも遅刻が多いため減給するのかと思えば、逆に、定刻に出勤すれば「定時出勤手当」がもらえるというデタラメぶりです。
100万人に達した公務員に出す月給がGDPの50%を超え、財政破綻の危機が迫っても、58歳になれば退職して在職時の月給の98%ほどの年金を一生涯受けとる制度はそのまま、といったような有り様だったのです。
さすがに、2010年のユーロ危機の時には、その年金の一部を削りましたが、公務員たちが猛反発。
削減額は、債権団の要求には遠く及ばない「雀の涙」に終わりました。
当然、そんな経済が続くはずもなく、そのつけは若者に跳ね返ってきました。
青年失業率は50%にまで跳ね上がったままなのです。

しかし、外国からの借金が、国内総生産(GDP)の1.8倍にあたる3100億ユーロに達しても、国民は軽微な改革案すら受け入れず、政府には国民の反対を押し切ってでも改革を断行する気概もありませんでした。
こうして、ついにデフォルトの日を迎えてしまったのです。

ギリシャ危機は、借金で福祉を支える国家運営がどれほど危険なものかを我々に克明に見せてくれています。
今のギリシャの姿が、未来の日本に重なって見えるのは私だけではないはずです。
しかし、日本の国民も甘い言葉を求め、政党は相矛盾するウソを平気で垂れ流しています。
高福祉国家を目指すのであれば、高い税金負担は当然です。
逆に、税金を低く抑えるのであれば、福祉を抑制するしかないのです。
野党は、とかく、「高福祉を低率の税金で実現する」などというウソを言いますが、それは「ギリシャのようになれ」と言っていることと同じなのです。

5日の国民投票の後、臨時号を発行して、ギリシャの今後を解説したいと思います。

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┃☆TPPがまもなく合意に                     ┃
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米国で、難産の末、大統領貿易促進権限(TPA)法案にオバマ大統領が署名して、同法案は成立しました。
この結果、7月中に、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が発効する可能性が高まりました。

日本では、未だに、TPPに対する反対も根強いですが、賛否を問うている場合ではなくなりました。
不毛な議論は打ち止めにして、協定執行に備えた対策を早急に練り上げていく必要があります。

農業にとっては黒船来襲のような事態かもしれませんが、今のままで日本の農業が成り立たなくなることも確実です。
ゆえに、本気で農業改革を進める好機が来たと、逆転の発想で考えることは出来ないでしょうか。

私が生まれ育った新潟の田舎は、田んぼが広がる典型的な農村です。
今でも、本家を始めとする多くの親戚が農業を営んでいます。
しかし、専業農家はほんの少数になっています。
私が子供の頃はもちろん、伯父たちが健在の頃までは、みな専業農家でした。
それが、従兄弟たちの代になって、大半が兼業農家になってしまったのです。
どうしてなのでしょうか。

一番の原因は、生活スタイルが変わってしまったことにあります。
現代生活は、昔に比べて、格段に多くの現金を必要とします。
昔は、自給自足に近い生活でしたから、数十万円程度の現金収入で暮らしていけました。
住居費はほぼゼロだし、外から買う食材はごくわずかでした。
衣服だって、新しい服は数年に1回程度しか買いませんでした。
学習塾も習い事もなく、遊び道具は、全部、自分たちで作っていました。

やがて、時代が進むにつれ世の中は豊かになり、それに伴い農家でも現金の必要額は増していきました。
農業機械の導入により農作業の負担は減りましたが、法律が農地の拡大を許さず、同一労働時間での生産量が増えなかったため、農業収入は上がりません。
逆に、農機具購入による多額のローンがのしかかってくる事態になりました。
現金収入が増えないのに、現金の必要量は増すばかりです。

しかし、前述の理由で農業の生産革命は進まず、生産性は上がらず、収入は増えません。
農業で収入を増やすことが出来ない以上、農家は、農業以外に収入源を求めるようになっていきます。
最初は、冬期の出稼ぎでしたから、農繁期には農業に戻ることが出来ました。
でも、そのうち、地方にも工場が出来、スーパーなどが出来、通年での勤務が可能になってきました。
そうなると、得られる現金の多いほうがメインの職業となり、農業は副業となってしまったのです。

それでも兼業農業が続いたのは、国家による手厚い“農家支援”があったからです。
長野で「農楽」を営む安江さんが、ご自身のブログに書かれている言葉をお借りすると、
“農業支援”ではなく、“農家支援”ということですが、私の故郷の実態はまさにその通りです。
ちなみに、「農楽」は安江さんの造語で、ご自身の農業をそう自認されています。

さて、そんな日本の農業に、TPPは、どんな影響をもたらすのでしょうか。
次号で、そんな解説をし、さらに私の狙いをお話ししましょう。

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┃★政治の劣化                        ┃
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自民党の勉強会における報道規制や沖縄に関する発言が波紋を呼び、国会審議にも影響が出ている。
この勉強会のメンバーの多くが安倍首相を支える中堅・若手議員であることから、野党は「安倍政権の本質的な問題だ」と追及している。
安保法制をめぐる攻防では、数の上で劣勢で打つ手もない野党は、敗色濃厚の中、「しめた」とばかり、政権批判を強めている。

冷静に考えてみれば、あまりにも低次元の騒ぎで、国会での議論を止めるほどの価値があるとは到底思えない。
そんな場外乱闘しか仕掛けられない野党は存在価値もないし、大事な法案審議のさなかというのに、昼間から宴会やってバカ言い合っているような自民党の姿はあまりにもみっともない。
記者の質問に答える渦中の議員の態度にしても、アルコールが入っているのかと思うような酷さである。
国民からすると、ここまで劣化した政治の姿を見せつけられるとは・・と、ため息しか出ない。

この勉強会の正式名称は、「文化芸術懇話会」と言うらしいが、
「九条の会」の発起人に名を連ねる作家の大江健三郎氏や、脱原発の音楽家の坂本龍一氏ら、リベラル系文化人と言われる人々の発信力に対抗して、
政権の思想や政策を、文化人を通して発信してもらう狙いで作られたと聞く。
そして、この日の講師に呼ばれた百田(ひゃくた)尚樹氏が、報道陣に公開されていた冒頭で「反日とか売国とか、日本をおとしめる目的で書いているとしか思えない記事が多い」とマスコミ批判を展開し、
それに呼応した議員たちが「そうだ!」と盛り上がったとある。
その後は記者には非公開となったが、記者にべらべら喋る出席者が出ることは当然である。
百田氏の冒頭発言が呼び水となり、議員たちから報道規制を正当化する発言が相次ぎ、やがて沖縄のマスコミにまで話が及び、批判がエスカレートしたようである。

このように、今回の騒動の責任は政権党たる自民党にあることは明白である。
ゆえに、安倍総裁(総理としてではなく)は陳謝を表明し、谷垣幹事長たち自民党執行部も相次いで苦言を呈している。
しかし、渦中の大西議員などは、厳重注意などの処分を受けたにも関わらず、言いたい放題を続けている。
こうなると、発言内容に関わらず、政治家として失格の烙印を押すしかない。
自民党執行部は、反省のかけらも見せない議員たちに対して辞職勧告をするくらいでないと、政権党の責任を果たせないと思うが、どうであろうか。

それでも、野党の弱さに助けられて、自民党は次の選挙でも負けることはないであろう。
政権交代能力のない野党しかいない日本政治の悲しい現実である。
そうなると、今回のバカ騒ぎの責任の一端は、野党(特に民主党)にもあることになる。
ため息が深くなるばかりである。

ところで、勉強会での放言の口火を切った作家の百田尚樹氏への批判も相次ぐが、
彼を政治家と同列に置いて批判することは間違っていると思う。
彼を擁護するつもりは全くないが、政治家ではない、一作家の放言に責任まで問うことは出来ない。
それこそ言論弾圧になってしまう。
「言論弾圧の発言に対する言論弾圧」など、質の悪い冗談にしかならない。
そこは区別していくべきであろう。

ただし私人でも、影響力の大きい方は、その影響力の及ぼす功罪まで考えて発言すべきであろう。
百田氏もその一人と思うが、言葉の軽さは否定しようもない。
聞いている人のレベルに合わせて軽くしたというのであれば、納得するが・・

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┃☆小さな会社の大きな手(4):経営幹部のスカウト         ┃
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前号の「軍争篇」の話、少々消化不良だったと思います。
どこかで、改めて解説を追加したいと思います。
今号は、視点を変えて、経営幹部の問題です。
6月16日の日経新聞に、「CEO、経営力より創造力」と題する記事が掲載されました。
その記事は、米国の有力ベンチャーキャピタルの創業者であるベン・ホロウィッツ氏へのインビューで構成されていました。
彼は、シリコンバレー等で次々と誕生している米国のベンチャー企業について、
「今はアマゾン・ドット・コムのクラウドサービス『AWS』と数人のエンジニアとノートPCがあれば起業できる。CEOに求められるのは経営の経験や巧みさよりイノベーションを生み出す創造力だ」と指摘しています。

彼の投資先には、ツイッターやスカイプなど、一般の人々でも知っている先進企業名がずらっと並んでいます。
そんなホロウィッツ氏は、企業経営について、「専門の経営者を求めない」ことを主張しています。
最初は「?」と思いましたが、読み進むうちに頷(うなず)けてきました。

ベンチャー企業の創業者は、最初は何もかも自分でやっていたはずです。
しかし、成功して会社の規模が大きくなると、たいてい、経営マネジメントに課題を抱え込みます。
そして、経営マネジメントの経験がある人をスカウトして招き入れます。
大成功したベンチャー企業であれば、IBMなどの大きな会社の経営幹部を引き抜いてきます。
日本でも、ソフトバンクなどが、そうしたヘッドハンター的人事を繰り返しています。

しかし、ホロウィッツ氏は、それが良くないと言うのです。
そのような人物をスカウトしても、その人間では「イノベーションを起こせない」ため、結局は企業の停滞を招くというのです。

そこで、米国の有名なベンチャー企業のことを考えてみました。
そして、ホロウィッツ氏の言うとおりであることが分かりました。

マイクロソフト、アップル、フェースブックなど、大成功を収めたベンチャー企業は、組織が大きくなると、例外なしにIBMなどの大手の経営幹部を引き抜いて、創業者の片腕的存在にしています。
さすがに、名のある大手企業で、比較的若いうちから幹部として認められてきた人物は優れた人材です。
企業の利益体質は向上し、営業成績も上がるケースが多く見られます。
しかし、全くと言ってよいほど「イノベーションを起こせていない」のです。
そして、現状維持としか思えない経営になってしまっています。
そうです。「停滞」なのです。

ビル・ゲイツが引退した後のマイクロソフト、ジョッブス亡き後のアップルなどは、典型的な例です。
勿論、両社とも今でも大企業で、経営は盤石の強さを保っていると言えるでしょう。
でも、創業期の輝きは感じられず、アッと驚くような新製品の発表もなくなりました。
大企業で経営ノウハウを身に付けた現在の経営トップは、マネジメントに長けていても、イノベーションは起こせないのです。

その中にあって、アマゾン・ドット・コムは未だにイノベーションを起こし続ける企業です。
同社を率いるジェフ・ベゾス氏がイノベーションを起こせる経営者だからです。

そのアマゾンの次の一手には驚かされますが、業種は違えども、我々中小企業の参考になる考え方です。
次号で、その一手を解説し、我々中小企業でも起こせるイノベーションを考えたいと思います。

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<後記>
女子サッカーやテニスの錦織くんなどの華々しい活躍の影で、大リーグのイチローの話題をとんと見かけなくなりました。
6月中盤以降、まったくヒットが出ない状況で、来季の契約すら危ぶまれています。
私は、イチローが40代になっても自分のスタイルを曲げないことに原因があると思っています。
彼は全盛期から「四球」の少ないバッターでした。
4つのボールを選んで塁に出ることより、ヒットを打ち続けることに価値を持っているのでしょうか、
過去の記録を調べても、「四球」の少なさは歴然です。
これが彼の落とし穴なのです。
各チームの投手には、彼は「四球」を好まないバッターであることが知れ渡っています。
つまり、ボール球を選んで塁に出ることより、少々コースが外れたボールでも打ちにいくことが分かっています。
そうなると、彼には明確なストライクを投げずに、くさいコースばかりを投げてきます。

それでも、そんな球をヒットにしてきたのですから、イチローはスゴイ天才です。
しかし、30代も後半になれば、すべての運動能力は落ちていきます。
かって打てたコースも打てなくなってきます。

それでもスタイルを変えないイチローに、思っていたより早く「終わりは来る」と危惧していました。
イチローに助言は出来ませんが、「四球」を選ぶスタイルに変えて、1日でも長くプレーを続けてほしいものです。
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