2024年からの展望(6):責任あるAIってなんぞや?

2025.01.06


AIが一種のブームとなり、あらゆるシステムが「AIになるかAIに駆逐される」というような報道や発言が増えています。
そのこと自体は確かだと思いますが、“すぐに”ではありません。
早い段階でAI化される仕事もあれば、遥か先になる仕事もあります。
どうも古い体質の企業ほどAIという言葉に弱いようで、「AIを導入しないと置いていかれる」との脅迫観念に囚われているように感じます。
 
日本企業(というより、日本人)は目に見える“モノ”があると動くが、見えないと動かないと言われます。
しかし、システムは目に見えない部分のほうが多く、画面とか出力帳票のような「目に見える」部分は、全体のほんの一部にしかすぎません。
その結果、日本企業のシステム化の関心は、目に見える浅いレベルに留まり、本質的な問題を解決する手段になっていないケースが多いのです。
 
「目に見えない」部分のシステム化を考えるには、かなりの能力が要求されます。
ここが、企業のシステム化にとって大きなネックとなっています。
つまり、相応の実務および経営経験を持ち、戦略理論を理解し、その上でシステムに対する洞察力も深いという人材を抱えている企業が少ないというネックです。
そのような存在がいなくても、社外を含めてトップを支援する仕組みがあれば良いのですが、そこが欠けている企業が多いことも現実です。
 
それが誇大広告に付け込まれる要因になっています。
大手システム会社のTV広告に有名な芸能人が使われているのを見るにつけ、「この人の高いギャラもシステム価格の一部なんだよな」と、ため息が出ます。
 
AIは、通常のシステム以上にその実態が目に見えません。
しかも、あたかも生身の人間が判断しているかのような錯覚を生む答えを出してくれます。
そこを利用して、既に様々の分野に使われ出しています。
今や、銀行の融資判断の多くはAIが出していますし、国税の税務調査の判断すら8割以上がAI判断になっています。
「そんなアホな・・」と言いたくても、こうした現実の広がりを止めることはできません。
それゆえ、本音は別でも時代の流れに置いていかれる恐怖に縛られ“いやいやながら” AIに関心があるふりをする人が多いのです。
そうした不安心理が、実体が怪しい“自称AIベンチャー”に利用されています。
そのような怪しい企業の餌食にならないためにも、今後も本メルマガの連載をお読みください。
 
それでは、ここからAIを構成する基本技術のことを順次、解説していきます。
でも、ChatGPTに代表される生成AIを日常的に使ったおられる方には意味がないかもしれませんので読み飛ばしてください。
 
最初は「自然言語処理」、つまりコンピュータが人間の言葉をそのまま理解し、人間の使う言葉で答えを返す技術のことを解説します。
前号で取り上げた「第5世代コンピュータ開発」では、自然言語処理は主要なテーマの一つでした。
しかし、目標達成は中途半端に終わり、大きな成果は生まれませんでした。
プロジェクトそのものは国家プロジェクトでしたからカネの問題ではなく、技術上の問題でした。
人間の言葉は、単語数が多いだけでなく、単語の連結や表現の多様さ、多義語の多さ、文脈の矛盾など、組み合わせは天文学的な多さになります。
当時の半導体の性能では実用段階に達することが無理だったわけです。
結果として、このプロジェクトに参加した私も目標達成はできませんでしたが、その後、元の会社に戻って裁判記録の言語処理プロジェクトを担当したときに、その経験は活きました。
このように使用目的を限定すれば、自然言語処理の技術は50年も前にできていたわけです。
現代でも、AIを使う上で大事なポイントと言えます。
 
その頃からすれば、半導体の進化は驚異的なレベル(というより、物理的な限界に近づいているとさえ、言われています)に達しています。
40年前、私はスーパーコンピュータを使って、複雑な構造計算や気流解析を行っていましたが、現代のパソコンは、当時のスーパーコンピュータのレベルに達していると感じています。
それなのに、なぜ、自然言語処理がAIの中核技術として発展するのに、これほどの時間がかかっているのでしょうか。
それは、「知識データベース」という、もう一つの重要な技術の未成熟さにあります。
次号に続きます。