2025年6月30日号(経済、経営)
2025.07.16
HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2025年6月30日号
┏━┓┏━┓┏━┓┏━┓┏━┓
H A L 通 信
┗━┛┗━┛┗━┛┗━┛┗━┛ http://www.halsystem.co.jp
発行日:2025年6月30日(月)
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2025年6月30日号の目次
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇企業の投資(1)
◇USスチール買収問題(中編)
◇新車陸送の世界(3)
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
3/31号の『◇会社は株主のものか?』で「投資の話は次号以降にします」と書いてから3カ月が過ぎてしまいました。
今号は、この続きの話から始めます。
話題の「日本製鉄によるUSスチール買収」は、総額で5兆円とも言われる巨額な投資です。
想像もできない金額ですが、中小企業に換算すると数千万円~数億円に相当する投資でしょうか。
スケールの違いはあれど、いずれも社運を賭けた投資といえます。
『経済はゼロサムゲーム?』の続きも統合する形で、企業の投資の話をしていきます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃◇企業の投資(1) ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
バブル崩壊以降、企業の内部留保が膨れ上がり、様々に批判を受けています。
ですが、民間企業が利益をどう使うかはその企業の自由です。
使わずに貯め込んだことに、株主以外から「文句を言われる筋合いはない!」のです。
ゆえに企業は、こうした批判に耳を貸す義務は全くありません。
しかし、義務はありませんが、大企業など名の通っている企業であれば風評被害を気にするかもしれませんね。
実際、マスコミは度々、企業の内部留保を批判しますが、その論調は「消費者や下請けから搾取してため込んでいる」というステレオタイプの批判で、まるで違法や下請けいじめ、ごまかしでおカネをため込んでいるかのように批判します。
これが的外れな批判であることは、読者のみなさまはよくご存じだと思います。
また、これも読者の皆様には釈迦に説法ですが、「内部留保」という名前の財務科目はありません。
財務科目としては「利益剰余金」の形で表現されます。
この利益剰余金は企業が創業以来積み上げてきた利益の総量であり、これが赤字になっている企業が「債務超過」と言われるわけです。
それでも倒産しない会社は、「おカネがある」からです。
「カネさえあれば、会社は潰れない」が企業経営の大原則ですね。
利益剰余金の話に戻ります。
復習と思って、BS(貸借対照表)を見てください。
左側が会社の財産状況を表し、右側がその財産を作った手段であり、中身は負債と資本で構成されています。
さらに、資本の中身の大半は、資本金と「利益剰余金」です。
この資本の総額は「資産-負債」の残高と一致します。
BS(バランスシート)だから当然ですね。
そして、現預金は資産の一部であり、利益剰余金(内部留保)とは本来無関係なこともお分かりかと思います。
ですが、マスコミは内部留保が現預金であるかのような印象操作をして国民に誤った概念を植え付けています。
企業経営とは、この資産を増やしていくゲームに他なりません。
そして、「投資」とは、この資産を大きくしていくための手段の一つです。
ゆえに、投資ができない企業は成長できず、やがて“じり貧”になっていきます。
それは、ゼロサムゲームの中で搾取される側に回ってしまうからです。
ゼロサムゲームは利益を奪い合うゲームであり、ゲーム参加者の利益の総量はまったく増えていかないゲームです(デフレ時代の日本がそうでした)。
麻雀ゲームを考えてください。
ゲームの中で、麻雀の点棒の本数は“ただの一本”とて減りも増えもしません。
「でも、おカネを賭けて、儲けも損も出るよ」と言われそうですね。
たしかに、ゲームでおカネを賭けることは一種の投資と言えますね。
(しかし、違法ですので、この点に関してはメルマガの著者としては奨励しませんが・・)
ですが、他のプレーヤーの投資金を奪い合うだけで、おカネの総額はまったく増えません。
(麻雀屋の場所代や、注文したラーメン代の分だけ減りますが・・)
ですから、こうしたゲームのような投資ビジネスの社会的貢献度はゼロだといえます。
では、大金を投じてビルを建てる場合はどうでしょうか。
自社の資金あるいは借入金で資金を賄えれば、その「現預金」などの資産が、所有ビルという不動産資産に変化します。
この新しいビルで企業収益が伸びればさらに資産が増えるので「成功した投資」となります。
逆に収益が伸びないと、ビルの不動産資産は経年劣化で減少し、資産減少となります。
つまり「失敗した投資」となりますが、建築費用以上に高く売却できれば、それでも「成功した投資」となります。
投資の話、次号以降も続けていきます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃◇USスチール買収問題(中編) ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
急転直下、トランプ大統領の承認で、日本製鉄によるUSスチールの買収が決まりました。
この買収成立は、想定内とも言えるし、想定外とも言えます。
USスチールはもはや自力更生は不可能で、どこかに買収してもらう以外の道はありませんでした。
その買収に、日本製鉄と米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが名乗りを挙げましたが、クリーブランド・クリフスの買収提示額は火事場泥棒ともいえる低い金額でした。
経済合理性からいえば日本製鉄を選ぶのは当然で、経営陣だけでなく労組も日本製鉄を希望しました。
しかし、上部団体の全米鉄鋼労働組合(USW)は、日本製鉄による買収に反対しました。
USWは民主党の支持団体なのでバイデン前大統領も「日本製鉄はダメ」と妨害しました。
両者は、日本製鉄の子会社となるUSスチールが自分たちのコントロールから外れることを恐れ、選挙に影響することを恐れたわけです。
トランプ大統領も当初は反対していましたが、一転して「本社移転や工場の閉鎖は認めない」の条件付きで「計画的なパートナーシップ」という意味不明な言葉で承認に転じました。
この言葉はともかく、彼が承認することは早期に想定できました。
当時はあまりニュースになりませんでしたが、トランプ氏は就任直後にそれまでの完全不承認の立場を翻していました。
彼は、内政も外交も口だけで、実質的な策がなく、どこかで花火をぶち上げる準備をしておく必要に迫られていたわけです。
現在、USスチールの従業員は1.4万人ですが、「これで少なくとも7万人の雇用を創出し、米経済に140億ドル(約2兆円)の経済効果をもたらす」との相変わらずの大風呂敷も、嬉しさ百倍の現れで、実に分かりやすい人物といえます。
しかし、日本製鉄からの技術供与を受けて高品質の鉄鋼を生産ができるようになるのは1年では無理で、2~3年は掛かると思われます。
その効果で生産量が劇的に増えなければ大幅に雇用を増やすことは不可能ですが、トランプ氏は、輸入する鋼材に天文学的な関税を掛け続ければ、可能だと計算したのです。
と、ここまでは想定内でしたが、想定外のこともいろいろありました。
まず、トランプ大統領が、日本製鉄がUSスチールの株100%を持ち「完全子会社にする」ことを承認した点が挙げられます。
日本製鉄が過半数を持てるかどうかがカギと思っていましたから、これは意外でした。
前々から、大統領府が「黄金株」を持ち、最終決定権は米国側にあると主張していましたが、その中身が不透明でした。
結果は、大統領府が1株の黄金株を持ち、本社移転や工場閉鎖、従業員の解雇などを阻止する強制権を持つとされました。
つまり、黄金株の権限は、上記の移転や閉鎖、従業員の解雇を阻止することに絞られているわけです。
それでも、トランプ大統領は米国民に対して、「USスチールは日本製鉄に部分的に所有されるが、米国によってコントロールされる」と、強気の(苦しい?)弁明をしています。
たしかに、米国にはない「高級鋼製造技術」を持つ日本製鉄とUSスチールの「パートナーシップ」が米国民に与える心理的効果は、日本人が想像する以上にあります。
トランプ大統領は、中国を米国の最大の脅威とみなしています。
鉄鋼の過剰輸出問題はもちろん、いつか必ず紛争に発展する中国に勝つためには、兵器や艦船、軍用機などに必須の高給鉄鋼の確保がどうしても必要でした。
「鉄は国家なり」はあまりにも有名な格言ですが、鉄鋼業再生なくして米国の再生(MAGA)はない。
ゆえに、この買収承認の拒否はそもそも不可能でした。
さらに、「米国経済の再生を妨害しているバイデン前大統領の不承認」をひっくり返すという政治的な効果という側面もあります。
一方、日本製鉄側から見ると、USスチールの収益の全てが得られ、さらにUSスチールの役員の選任・解任に関する決議を単独に近い形で決める権利を手中に収められる。
つまり、経営をほぼ完全に支配できるということになります。
この点は重要で、日本製鉄はUSスチールに供与する「最先端技術の流出」などの不測の事態を防止できることを意味します。
ただ誤算もあります。
この買収で、現在世界4位の生産量を3位に上げられると見ていましたが、どうやら第4位のままのようです。
そのくらいUSスチールの業績は悪化していたのです。
ゆえに、同社の業績が上がり、さびれた中西部ラストベルトの「忘れられた人々」の生活を改善することに、トランプ政権は全面的な支援を行うはずです。
それで、目論見通り、第3位に浮上できたら、本当に「win-win」と言えるでしょう。
この問題の側面を、次回、もう少し深掘りしていきます。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃◇新車陸送の世界(3) ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
先輩は「運ぶ前の点検方法、分かるな、と言ってもな・・」と言葉を切ったまま、走り去ってしまいました。
『うん?』と思った私でしたが、すぐに何の道具もないことに気付きました。
そう、スパナ一本無い中での点検を行うしかないのです。
仕方ないので、運転席で「ライトは点灯するか」、「方向指示器は作動するか」などを確認した上で、ボンネットを開けて、キャブレターの水量とかオイルの量とか、思いつくことを確認しました。
最後にタイヤを思いっきり蹴飛ばしてボルトの緩みを確認しましたが、そんな程度で異常が分かるはずはありません。でも、他には思いつきません。
そうこうしている間に、仲間の車は次々に発進し、正門へと向かいます。
先ほどの先輩が、私の車の前でいったん止まり、「早くしろ、遅れるなよ」と怒鳴りながら走り去りました。
私は慌てて車に乗り込み、エンジンを掛け正門に向かって走り出しました。
正門で一旦停止すると、守衛の方が車の前後に取り付けた「仮ナンバー」を確認し、「行けっ」と合図しました。
陸送中の新車にはナンバープレートは付いていません。
斜めに赤い線が入った「仮ナンバープレート」を付けて公道を走るのですが、このナンバーは車ではなく、陸送員個人を表すナンバーなのです。
陸送員は、運ぶ車の前と後ろにそれぞれ、このプレートを取付け、目的地に着いたら取り外し、自分で保管し、次に運ぶ車に取り付けるのです。
たぶん、それは現代でも同じと思うので、街で見かけたら、そう思ってください。
座間工場の正門前の通りは「国道16号線」です。
時間は、すでに夜の10時を回っていましたので、交通量はかなり減っていました。
国道に出て間もなく交差点があり、信号が赤に変わりました。
私は、当然、停止線で止まりました。
その時、後ろから猛スピードで走ってきた陸送車が、停止する“そぶり”も見せず、そのまま赤信号を無視して私を追い抜きました。
そして、私の車にぶつかるように追い抜きざま、開け放った窓から大声で怒鳴りました。
「バカ野郎!」
信号が青に変わり急いで発進した私でしたが、赤信号で停車するたびに、当然のように次々に追い抜かれ、埠頭に着いた時は、他の車はとっくに到着していました。
工場で教えてくれた先輩とは別の先輩が車を降りた私に近づき、「バカ野郎、何で止まった」と大声で怒鳴りました。
私は「でも・・赤信号でした」と、びくつきながら答えました。
すると、その先輩は、ニヤッと笑いながら、こう言ったのです。
「そういうときはな、“ぐるっと”回りを見渡すんだよ。どこかに青信号が見えるだろう。だったら・・走っていいんだよ!」
ここで、注釈を加えます。
当時の交差点の信号は、現代のように、少しの間、両方向とも赤になることはなく、瞬時に赤・青が切り替わりました。だから、確かに赤信号の時は、交差する側の信号は青になります。
先輩はそのことを言ったのです。
でも、無茶苦茶な解釈で『とんでもない話』ですよね。
しかし、この言葉を聞いたときの私には「そんなアホな・・」ではなく、「なるほど、上手いこと言うな」という、妙に感心する気持ちが湧いたのです。
当時の私は19歳でした。
この年代の危なさは、現代でも、様々な常軌を逸した犯罪で証明されています。
あの当時の私も同様でした。
次の輸送から、私はすべての赤信号を無視して走っていました。
埠頭に到着した車は、前の車と10cm程度の間隔でギリギリに詰めて停めます。
左側も同程度にギリギリです。
運ぶ車両の車種もいろいろ変わるので、これは、結構な難しさです。
それでも、すぐに出来るようになりました。若さですね。
その後、全員がマイクロバスに乗って工場に戻り、次の輸送を行うのです。
こうして6回の輸送を終えた頃、東の空が明るんできました。
座間工場からの輸送は車種に関係なく、1台500円が我々の取り分でした。
つまり、一晩で3000円の稼ぎです。
これを30日やれば9万円になります。
チームで走るので、ベテランも新人もまったく同額の「真に公平な世界」です。
かつ、当時の大卒の初任給は2~2.5万円ぐらいでしたから、相当な稼ぎになります。
私は最初のひと月は30日フルで運びました。
社長は「よく頑張ったな」と、1万円上乗せして10万円を封筒に入れて渡してくれました。
現代だったら100万円相当の稼ぎを19歳の私は手にしたのでした。
こうして、私は、それまでは想像もできなかった世界に飛び込んだのでした。
-------------------------------------------------------------------------
<編集後記>
山岳遭難が増えたことで、遭難救助を有料にすべきとの声が増えています。
私も登山をしますが、確かに安易な遭難が多いとは思います。
さりとて、遭難者をそのまま放置はできず、難しいところですね。
スキー学校のインストラクター時代、仕事で春山のスキーツアーをガイドしたことがあります。
学校は、事故の可能性を考えヘリコプターを要請できる保険に入っていました。
10数回のガイドで、一度だけヘリ救助を要請したことがあります。
お客様の一人が自力で動けなくなったからです。
上空から降りてくるヘリを見上げながら、心の中で手を合わせたことを思い出します。
----------------------------------------------------------------------
◎[PC]配信中止、変更の手続きはこちら
http://www.halsystem.co.jp/mailmagazine/
このメールは送信専用です。お問い合わせはこちらからお願いします。
http://www.halsystem.co.jp/contact/
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
【編集・発行】
株式会社ハルシステム設計
http://www.halsystem.co.jp
〒111-0042 東京都台東区寿4-16-2 イワサワビル
TEL.03-3843-8705 FAX.03-3843-8740
【HAL通信アーカイブス】
http://magazine.halsystem.co.jp
【お問合せ・資料請求】
email:halinfo@halsystem.co.jp
tel:03-3843-8705
Copyright(c)HAL SYSTEM All Rights Reserved.
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵