曲がり角の先の経済を考えてみよう(3):円安は悪いこと?

2022.11.02

円安の話を続けます。
前号から1ヶ月経ちましたが、日銀の介入もあり円ドルレートは150円を挟む攻防になっています。
円安は、輸入比率が多い企業にとっては死活問題ですが、海外からの個人旅行が解禁になった効果も重なり、観光業などは大歓迎です。
 
ところで、前回述べたように1ドル360円時代を経験している私には、「この程度の円安、たいしたことではない」と思ってしまいます。
たしかに、海外旅行は「円高になるまで待とう」という気持ちになっていますが、それで困るわけではありません。
建設商売のほうでの輸入資材の高騰は痛いですが、吸収する手段はいろいろあります。
先輩経営者の方からは「そのくらいの才覚が無ければ商売人とはいえない」と言われます。
もっとも、実際に損失を被っておられる方からは、「何を言うか!」とお叱りを受けそうですが・・
 
通貨の売買も、モノの売買と同じです。
さらに、円もドルと同様、国際通貨です。
つまり、商品としての円を発行する「日本商店」の信用が世界で認められていることを意味し、“円”は国際的に流通性の高い商品だということなのです。
そうなると、市場における円とドルのどちらが多いか少ないかで円ドルの為替レートは動きます。
多ければ希少価値がなくなり値下がり(円安)し、少なければ希少価値があるとして値上がり(円高)します。
となると、日米両国のマネタリーベース(通貨の供給量)が「円ドルレート」を決める要素になります。
日本は、景気対策で大量の国債を発行し、しかも日銀がその国債を買い続けた結果、円は市場に溢れる結果となり、希少価値がなくなり、値下がりしているわけです。
 
米国もコロナ対策で大量の国債を発行していますが、中央銀行がドルを刷って買っているわけではないこと、経済規模がはるかに大きいこと、及び国際基軸通貨としての価値が円よりはるかに高いことで、市場への影響は限定的となっているのです。
ゆえに、現在の日銀の姿勢が続く限り「円売りドル買い」は続くことになります。
 
もちろん、ヘッジファンドは、現在値だけでなく、将来の予想値を加味して売り買いを決めますので、思惑だけでも為替相場は動きます。
もし、日銀が小幅でも利上げに踏み切り、さらに「追加の利上げもあり得る」なんて言うだけで、一気に円高へと流れは変わるでしょう。
ゆえに、ヘッジファンドは日本の政策に神経を尖らしているのです。
それが、世界一の債権国である日本の力といえます。
 
バブルの頂点の1990年末での対外純資産は44兆円でしたが、2022年6月末は449兆円と10倍になっています。
1990年までは日本は貿易で稼いでいましたが、現在は対外資産で稼ぐ国になっているのです。
つまり、30年続いたデフレ経済で国内投資は減少し、人件費も上がらなかったことで、大量のカネが余ってしまいました。
そのカネを海外へ大量に投資した結果なのです。
こうして世界一の“カネ貸し”国となった日本では、円安メリットは貿易赤字を打ち消すほどに大きくなっていて、経常収支では黒字になっているのです。
しかも、最大のメリットを享受しているのは「外為特会」といわれる外国為替資金特別会計で外貨資産を保有する日本政府なのです。
こうした日本国の能力に見合う政策を発揮できない日本政府の力の無さが最大の問題なのです。
もっと経済に強く、かつ果断な政策を立案・実行できるリーダーが必要なのです。