新しい日本型資本主義の中身(1)

2021.12.01

今回の選挙では「分配」がひとつのテーマになりました。
選挙前、現役の財務事務次官の「今度の総選挙はバラマキ合戦」という内容の寄稿が物議を醸しました。
事務次官という官僚トップの発言ですから、これが財務省の見解だと受け取られるのは当然です。
財務省は、新型コロナ対策で急増した国債発行に危機感をつのらせ、バラマキには反対なのです。
民間企業でも、財務部門は借入を増やすことに抵抗しますから、国家も同じといえます。
それゆえ、トップの“責任を伴う意志の表示”が何よりも重要になるのです。
そもそも「分配」とは自由主義(資本主義)の行き過ぎを是正する手段として出てきた社会主義の経済手法です。
経済的自由が極端に進むと、社会の富(資本)が一部の富裕層に集約してしまいます。
このこと自体は、個人の能力の差、環境の違いなどが主因なので、どうしようもないことです。
しかし、この状態を放置すると、経済活動は低下し、やがて死んでしまいます。
これが自由主義の限界で、避けることが不可能です。
ところで、麻雀(マージャン)というゲームをご存知の方は多いと思います。
参加者が東南西北(トン・ナン・シャー・ペイ)の4つの場に分かれ、点棒という資産を奪い合うゲームです。
ところが、4つの場がありながら、東南という2局でゲームは終り、そこで勝ち負けの清算となり、そして、また東(トン)から始まるので、北西(シャ・ペイ)という局面はありません。
これが不思議でした。
東西南北と4つの場があるのに、なぜ2局面で清算になるのかということがです。
この理由が分かったのは経営者になってからなので、20年以上の歳月を必要としたわけです。
自分の理解力の浅さに自分で笑ってしまう話です。
読者のみなさまは、とっくにご存知と思いますが、理由は簡単でした。
ゲームが進むと勝者と敗者がはっきりしてきて、勝者に点棒(財産)が集まっていきます。
4つの場の最後までゲームを進行させると、その途中で、一人の勝者に点棒が集中し、他の3名は、その勝者に借金(点棒を借りる)しなければゲームを続けられなくなります。
これではゲームになりません。
ゆえに、東南(トン・ナン)という2局面で精算し、点棒を平等に分配し直し、ゲームを再開するルールになっているのです。
くどくどと述べましたが、この「平等に分配」が社会主義の根幹なのです。
それによって経済を再生させる仕組みで、かのカール・マルクスが考え出したと言われています。
しかし、実世界の経済はゲームほど単純ではありません。
「分配」の前の「清算」が簡単ではないのです。
苦労して溜め込んだ利益を無条件で吐き出せと言ったら、誰でも抵抗するでしょう。
ゆえに、その昔、徳川幕府は強引に「徳政令」で武士の借金をチャラにしましたし、欧州では市民革命で、血を流しながら強引に実行しました。
しかし現代では、こうした手法は、独裁国家以外は不可能な話です。
仕方なく補助金バラマキとなるのですが、これは一過性の効果しかなく、根本解決を遠ざけるだけです。
どの国でも、富の偏在が進むことへの対処がうまくいかず、政治の不安を招く要因になっています。
岸田首相が打ち出した「新しい日本型資本主義」が、富の偏在の是正を目指しているのか、正直分かりません。
ところが、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が「新社会主義にしか聞こえない」と批判しました。
なるほど、大資本家である三木谷社長は、岸田首相の主張に自分の富が削られる危険を感じたのでしょうか。
そこに大きな興味が湧きました。
岸田首相の「新しい日本型資本主義」の姿は、これから徐々に明らかになってくるでしょう。
それを確認しながら、本メルマガで解説していこうと思います。