新しい日本型資本主義の中身(3)

2022.01.17


安倍前首相が、岸田首相の掲げる「新しい資本主義」に注文を付けました。
一言で言って「アベノミクスを続けろ」という注文です。
TV画面から受ける安倍氏の表情からは、注文というより、ほとんど『脅し』です。
お腹の痛いのは、もうすっかり治ったのでしょうか。
最大派閥をバックに再々登板するつもりなのかなと思いました。
政治の話はこのくらいにして、底辺を這うがごとくの日本経済の話に戻します。
 
バブル崩壊後の30年間、日本はゼロ成長が続いているわけですが、経済理論からするとあり得ない話です。
かつての日本や今の中国などを見れば分かりますが、先進国に成長する原動力は輸出です。
その効果で国民が豊かになり、やがて輸出に代わる内需がさらなる成長力の原動力になります。
イギリスや米国が典型的な例です。
そうした国では、輸出エンジンである製造業はすっかり衰退していますが、旺盛な内需で高成長を続けています。
 
この内需の中身が、モノからサービスへと変わり、やがて福祉国家へと進化していくわけです。
EU先進国はその道に入っていますが、そこに至らないギリシャやかつての東側国家が足を引っ張る格好になっています。
いまや、ここがEUのアキレス腱です。
 
日本は、すでに欧米先進国と同等の内需主体型の経済になっています。
ところが、日本の内需は伸びないまま、経済成長が止まった状態が続いています。
どうしてでしょうか。
先の総選挙で、野党はさかんに「消費税を下げて経済活性化を」と主張していましたが、まるで経済を分かっていない素人発想です。
しかし、与党も似たりよったりで、岸田首相の「新しい資本主義」も、少しずつ中身が見えてくると、資本主義と社会主義の「良いとこ取り」を狙った「ツギハギ資本主義」のように見えてきました。
 
では、経済低迷の真の理由は何かを考えていたところ、大阪大学・社会経済研究所を核にした研究グループの実験結果を目にしました。
この実験の概要は以下のとおりです。
いろいろな国の被験者を集め、公共財を作るゲームをしてもらったところ、顕著な結果が出ました。
欧米人や中国人に比べて、日本人は「他人の足を引っ張る行動が多い」ということです。
日本人は「自分は自分、他人は他人」という割り切りができず、互いに相手の行動を邪魔するというわけです。
「なるほど」とか「そうだ」と思い当たる読者の方も多いのではないでしょうか。
政治の世界では、「野党は与党の批判だけ」という声はよく聞かれますし、まさにそれが国会の風景となっています。
また、何か新しいビジネスやサービスが生まれると、必ず批判が寄せられ、誹謗中傷で運営が頓挫するというケースも多いです。
弊社の経験でも、新しいビジネス構想を発表したところ、ネットで「また汚い金儲けが出てきた」とか「新しい騙しだ」とかの書き込みが入ってきてびっくりしたことがあります。
 
ビジネスで巨万の富を築いた前澤友作氏が100億円払って宇宙旅行をしましたが、氏のこれまでの突飛な言動への批判もあって、非難や中傷の声が多く聞かれました。
正直な気持ち、私も手放しでは称賛できませんでしたが、そこには前澤氏への嫉妬の気持ちもあったと思います。
でも、冷静に考えて見れば、自力で稼いだカネだし、タンスに溜め込むより使うほうがより経済には貢献するわけです。
それに、純粋な民間人でも宇宙に行けるんだよというメッセージを発信したことは素晴らしいと思えるようになりました。
 
欧米人は合理的な考えを主体にするし、中国人は善悪より計算で物事を考えます。
双方とも、日本人のように成功者を妬むより拍手を送る傾向のほうが強いといえます。
ゆえに、日本人の成功者は多くを語らず、その成功の根本要因が広く世に伝わらないのです。
大阪大学のこの研究結果には「なるほど」と頷ける面が多く、日本人のこうしたメンタルこそが、日本のさらなる成長を阻害している最大の要因ではと思うようになりました。
 
20代での強烈な思い出があります。
米国での勤務が終わり日本に帰国した直後、本社の会議でひとつの提案をした時、役員の一人から投げかけられた一言です。
「ここはアメリカじゃないんだ」
怒気を含んだ憎しみとも言える口調でした。
「アメリカでの経験を鼻にかけた生意気な小僧が・・」という声が聞こえたような錯覚すら覚えました。
この会社は、日本を代表するコンピュータ会社です。
それでも、こんな世界だったわけです。
私が建設会社に転職したのは、その2年後です。
この会議が動機だったわけではありませんが、心理の底にはあったと思います。
 
大阪大学の別の研究グループによると「新型コロナウイルスに感染するのは自業自得だ」と考える日本人の比率は11.5%と、突出する高さです。
米国ではわずか1%です(中国は4%台です)。
この意識の差が欧米に比べて感染者が少ない理由の一つとも言われています。
マスク着用や消毒の徹底を見ると、この自制意識が良い結果につながっているのですが、経済全体としてはマイナス要因となっているわけです。
複雑な思いがしますが、日本人のこうした心理からくる負の側面を改善することが、低成長から抜け出す道のような気がします。
大阪大学などのこうした研究がもっと進み、国民への啓蒙が進めば、内需主導型の成長軌道に乗れるのではないでしょうか。
 
岸田首相に言いたいです。
「新しい資本主義」のような意味不明なキャッチコピーより、「日本人のメンタル改善が新しい成長につながる」というようなコピーを打ち出してください。