中国の思惑通りにはいかない(その6)

2020.10.16


現代の中国では、米国のように、次々と新しいIT企業が生まれ、あっという間に大企業になっていきます。
その第1世代にあたるのが、アリババの馬雲(ジャック・マー)や華為技術(ファーウェイ)の任正非(レン・ジェンフェイ)などです。
ですが、今は、彼らの時代から第2世代の時代に入っていると言われます。
 
話題の「TikTok(ティックトック)」を生み出した張一鳴(チャン・イーミン)はその代表的な人物でしょう。
EMS(電子機器受託製造サービス)大手となった立訊精密工業(ラックスシェア)の創業者の王来春は、中卒の女性です。
また、コロナウィルス禍に乗り、online会議システムで一躍ブームとなったZoom社は、米国企業ですが、創業者の袁征(エリック・ヤン)は、中国生まれで米国に渡ったのは大学卒業後です。
かつ、同社の開発拠点は中国にあり、中国から多額の出資を受けています。
私は、同社は中国企業だと認識しています。
 
こうした第2世代の経営者が、今の中国に続々と生まれています。
だが、強烈な光は、同時に濃い影を生み出します。
急激に大きくなった彼らが、若者にありがちな「怖いもの知らず」になっていくのは必然といえます。
かつ、中国政府が彼らを世界制覇の尖兵として利用していくのも当然です。
 
そこに強い危惧を抱いたのが米国政府です。
米国は、セキュリティー問題などを理由に、これらの中国企業を市場から排除する動きに出ています。
ティックトックは、米国政府が利用禁止に動き出しています。
いったん決めた禁止の発動を停止しましたが、大きな制約が課されることは確実でしょう。
Zoom社は発展を急ぐあまり、セキュリティー上の懸念やプライバシー面での問題が表面化しています。
同社は米国企業とはいえ、米国政府は実質的に中国企業と認識しています。
中国との関係を完全に絶たない限り、その圧力は強化されるでしょう。
台湾企業から独立した立訊精密工業は、ソフトウェアではなく半導体企業ですが、今後の競争激化の中で、国際的なトラブルに巻き込まれていく可能性は大です。
 
彼らは国有企業ではないので、中国政府と距離を置き、セキュリティー上の問題をクリアしていくことは可能なはずですが、独裁色を強める一方の習近平政権下では難しいでしょう。
中国が彼らの強みを活かすためには、彼らの活動の自由を認めることですが、そのジレンマに中国政府は直面しているわけです。
中国政府が、金の卵を産む彼ら“ニワトリ”を活かす道を見つけられるかどうかに注目していますが、香港への強引な締め付けを見ていると、やはり権力に従わせる方向にしか行かないように見えます。
目の前の金の卵欲しさにニワトリを殺す愚を犯しそうな気がするのです。