企業にとっての借入金(6)

2023.11.17

これまでの話で、自社開発の商品を持つことは魅力ですが、そこに至る困難さは分かると思います。
多くの場合、多額な借入を行うことになるからです。
 
では、おカネがあって借入の必要がなければ良いかというと、そうでも無いのです。
私の知り合いに、資産家の息子がいました。
彼は、「画期的な商品を開発するんだ」と言って、会社を立ち上げました。
もちろん、設立資金は親のカネです。
立派なビルのワンフロアを借り切って、必要な器材を揃えました。
かなりの高給を提示して技術者を何人も雇いました。
私とは比べものにならない境遇を羨ましいとは思いましたが、私は確信していました。
彼の会社から画期的な商品など生まれないことをです。
 
数年後、そのビルから彼の会社の名前は消えていました。
個人的にも応答はなくなりました。
私に自慢した手前、会いたくも話したくもないのでしょうね。
 
彼のように「失ってもよい資金」での開発では、本気度は出ないのです。
新興企業は特にそうです。
ダメだったら、全財産をなくすだけでなく、夜逃げするしかない状況ぐらいでないと、画期的な商品も、独創的な商売も成功しないのです。
100円ショップを始めたダイソー創業者の矢野社長のお話しを聞いたことがあります。
100円ショップにたどりつくまでに経験した商売は30種で全部失敗、夜逃げも3回と笑い話のように話されていました。
 
私も似たようなものでした。
それまでに積み上げた利益と自己資金で用意した1億円では商品は開発出来ず、さらに1億円の借金をして、ようやく商品は完成したのです。
借金をしてからが本気になれたということなのです。
 
それでも、やはり借金は怖いですね。
そこで、幾つかの原則や限度額を設定したのです。
 
前に、その一つ、「借金をする時の鉄則」を以下のように書きました。
「自社の粗利%以上の金利で借りたら、返せなくなる」。
もちろん、短期で少額の借入なら問題はないでしょう。
 
では、どのくらいまで借入金が膨らんでも大丈夫かと聞かれることがありますが、結構難しい問題です。
その企業の商売の質、代金回収や支払いのサイクルなどを分析しないと確実なことは言えません。
ですが、私は、だいたい以下の基準で限度額を考えています。
仕入れ販売型の企業なら、年商の30%、自社開発商品を持つ企業なら、年商の90%です。
その上で、支払う利息金額は、粗利益金額の3%に抑えることが必要です。
 
ただし、上記の数字は、あくまでも平均的な目安です。
経営の立て直しを頼まれた場合は、弊社の算定方法で各種の指標を計算しています。