曲がり角の先の経済を考えてみよう(1):SBGマジックの行方

2022.09.20

SBG(ソフトバンクグループ)が直近の四半期(4~6月)で3.2兆円の大赤字を計上しました。
業績悪化の元凶は、投資会社のSoftBank Vision Fundが持つ投資株の下落です。
Vision Fund は、この半年で6兆円の損失を出しました。
損益累計では、まだ1122億円の黒字ですが、ピーク時に7兆円あった利益をほとんど吐き出したという状況です。
 
赤字の最大要因は米国の株価下落ですが、米国FRB(連邦準備制度理事会)は、今後も利上げを続けることを明言し、株価はさらに下がる見通しです。
こうした政策の影響を最も強く受けているのが、期待先行で株価が上昇していたIT先端銘柄であり、そこへの投資額が大きいSBGというわけです。
 
世界のIT業界ではサブスクリプション型のビジネスモデルが行き詰まりを見せ、さらに中国経済の失速が鮮明になり、世界全体で景気後退懸念が高まっています。
そうした状況下でSBGの投資株は、さらなる下落リスクにさらされています。
 
SBGの巨額な投資事業を根底で支えてきたのが、中国のアリババ・グループです。
誰もが知っているように、アリババ株はSBGの「打ち出の小槌」だったわけですが、この構図自体が崩れようとしているのです。
アリババは、共産党政権の強い締め付けに直面し、4~6月期に上場来初めて減収に陥りました。
こうした事態を受けて、SBGはアリババの株式を使った資金調達の一部をアリババ株の売却で返済するという“タコ足”的な裏技を使わざるを得なくなりました。
その調達額は約1兆3000億円に上ります。
巨額ですが、数年前なら、この3倍の金額にはなったでしょう。
それだけ、資金調達を急いだということです。
 
この売却によりアリババはSBGの関連会社ではなくなりました。
さらに、中国政府はアリババを締め付け、共産党の意向に沿った事業運営を徹底させようとしています。
孫正義氏の盟友でもある創業者のジャック・マー氏はアリババを含むアント・グループの支配権を手放す計画だと報じられています。
そうした懸念から、孫正義氏は「今後はコストカットを徹底して守りを強化する」と発表しました。
強気一辺倒だった孫氏が初めて口にした弱気といえるでしょう。
SBGは、財務管理の強化、出資先企業のリスク管理はもちろんですが、ビジョンファンド自体のリストラも必要となるでしょう。
しかし、アリババを失ったSBGにとって、頼みの綱は、半導体設計会社である英国アーム社の高値上場だけと言っても過言ではないでしょう。
 
ただ、孫正義氏は類まれなマジシャン経営者です。
この先の時代も、彼のマジックは効くのでしょうか?