AIは果たして人間社会に益をもたらすのか(2)

2016.09.20

前号で述べたように、これからさまざまな産業でAI(人工知能)化が進んでいくものと思われます。
AIのアルゴリズム(プログラム技術)そのものは、40年も昔に完成していましたが、コスト面の制約から軍事システムの世界に留まっていました。
一部の技術は民間市場に降りてきましたが、それも航空産業や原子力発電所など、製品単価が異常に高い産業に限られていました。
民間市場では採算の壁を乗り越えることが難しかったのです。
私は、原子力施設を設計するシステムの開発に携わったことがありますが、完成したシステムを一般の建物の設計・施工に応用する取り組みも行ってきました。
しかし、それは失敗に終わりました。
AIプログラムを実行するには高額な超高性能のコンピュータが必要でした。
時には1秒100~300円の使用料がかかるスーパーコンピュータが必要でした。
それでは、大型ビルといえども、とてもコストが合わなかったのです。
 
それが、近年、パソコンの性能が飛躍的に向上し、コストが合うようになってきたのです。
40年前と比べると、コストは1~10万倍は下がりました。
これから劇的にAIが民間市場の仕事に使われだしてくるものと思われます。
 
ただし、そのことは同時に、大量の職業が人間の手を離れていくことを意味します。
そして、それらの職業の担い手の多くが失業という悪夢が現実になるかもしれません。
ある調査によると「日本の労働人口の49%がAIによって代替できるようになる可能性が高い」という結果が出ました。
そうなったら社会はどうなるかが心配だし、なにより「自分はどうなる?」という不安が大きくなります。
 
ここで少し考えていただきたいことがあります。
今までのコンピュータ化は、経理の伝票作成などのルーチンワーク的な職業を淘汰してきましたが、AIが淘汰していくのは、比較的「年収が高い」職業にまで及ぶということなのです。
会計士、弁護士などの高い専門知識が必要な職業ほど、AI化のメリットが大きいからです。
囲碁や将棋の世界で名人が敗れていく姿は、そんな未来を暗示していると言えます。
 
建設の世界に目を転じると、AI化の波はこれから一気に進んできそうです。
土木の現場では、すでに機械化施工が行われています。
近い将来、無人の現場が出現してくることを疑う人はいないでしょう。
弊社が企画・設計中の案件でも、積極的にAIを活用し、大幅なコストダウンと正確性の双方の向上を目指しています。
狭い屋内作業が多い建築の現場では機械化施工は難しいですが、それも時間の問題と思われます。
40年前、軍事システムで味わった世界を建設の世界でも味わえる時代がようやく来たという思いです。
これが「人間社会に益をもたらすのかどうか」は、いったん横に置いて、次回は、そのような未来社会の姿を想像してみたいと思います。