原発の再稼働(その4)

2021.11.02


原発には毎年、原子炉を停止して定期点検を行うことが義務付けられています。
その間、原子炉は停止しているとはいえ、核燃料は装填されたままであり、膨大なエネルギーと放射線を出し続けます。
ゆえに、原発内は真夏以上の暑さです。
我々は、そうした暑さと放射線の環境下で、密封した防護服と全面を覆うマスク姿で作業するのですから、放射線調査作業は、過酷な仕事でした。
 
当時、リーダー2人を除くチーム全員が20代だったのは、体力勝負の仕事だったからです。
しかも、特別チームだった我々は法律の外の存在だったため、本来違法な昼夜兼行の作業を強いられました。
あくまでも「個人の自主判断」という建前の下で。
今もって世間には全く知らされていない、こうした作業がどのくらいあったのか、我々でも全容は伺いしれない世界でした。
 
20代とはいえ、メンバーはそれぞれの分野の専門家であり、原子力施設での経験も知識も豊富でした。
それゆえ、レベル4エリア外でのストロンチウム90の検出が何を意味するかは分かっていました。
間違いではないかと分析を繰り返し、その結果を詳細に検証しましたが、結果は変わりません。
 
しかも、以前にも言及しましたが、リーダー2人が対立したあげくに両名とも離脱するという最悪な状況の中でした。
リーダー不在の中で、我々は、この結果を東電側の責任者に報告することにしました。
責任者は、何度も「間違いではないか」と我々に問いただしましたが、詳細な検証結果を見せた後は黙ってしまいました。
その後の東電側の動きは、我々には、まったく分かりませんでした。
数日後、呼び出した私に向かって、その責任者はこう問いただしました。
「この調査および検証結果は、私に報告したものが全てですか?」
「コピーも取っていないですね?」
その問いかけに疑問を持ちましたが、私は「はい」とだけ答えました。
すると、彼は「このことは一切忘れてください。『何も問題はなかった』が結論です」
 
これが、東電というより大企業の体質なのだということは理解していました。
当時の私の所属会社も大企業で、似たような体質でしたから。
私は「分かりました」というしかありませんでした。
 
しかし、私はウソをついていました。
一部だけコピーを取っていたのです。
気心が知れたメンバー数人に、ことの顛末を話し、口外すれば、それぞれの所属会社だけでなく、我々にも害が及ぶことを話しました。
一人が冗談めかして言いました。
「このコピーを共産党に渡したら、どうなるかな」
私は、こう答えました。
「日本中の原発が止まるさ。内閣が倒れるかもしれないぞ」
みな、黙りこくってしまいました。
 
結局、我々は、このことは会社にも報告せず封印しました。
告発する気持ちがなかったわけではありません。
しかし、未来のため、原子力の研究・開発を止めてはいけないという思いが強かったのです。
あれから30数年後に、我々が働いていた福島第一原発の事故が起きました。
あの時、告発して原発を止めていたらと思うことはありますが、後悔はありません。
原子力行政には疑問だが、原子力開発そのものを止めてはいけないと思うからです。
私は、過去より未来を見つめていきたいのです。