抑止力という名の軍事力(15)

2021.07.30


戦闘機同士の戦いというと、第二次世界大戦での空中戦の様子が目に浮かびます。
(実際には、映画やドラマでしか知らないのですが・・)
その時代、各国で「エース」と呼ばれた伝説的なパイロットの名前は、現代にも語り継がれています。
その一人、ドイツ空軍のエーリッヒ・ハルトマンが挙げた撃墜数350機という空前絶後の記録は、永遠に破られることがないでしょう。
というのも、現代の空中戦の大半は、相手を肉眼で視認することのない「見えない」戦闘であり、システムに導かれる電子戦闘だからです。
 
それでも、1対1の決闘シーンはロマン(?)を感じさせるのか、未来モノの戦争アニメでは、昔ながらのドッグファイト戦闘の場面が描かれます。
しかし、このような場面が実現する可能性は、ほぼゼロなのが現代の空中戦なのです。
 
冷戦時代、敵対する米ソ両国は高性能の戦闘機開発に血道を上げていました。
その象徴が最大速度競争です。
音速の2倍(マッハ2)を超える戦闘機が続々開発され、ついにはマッハ3という戦闘機も現れました。
しかし、現代では、そんな競争は影を潜め、マッハ2レベルの戦闘機が主流になっています。
相手を視認できない遠方から長射程ミサイルを撃ち合う現代の空中戦闘では、速さの効果が薄れただけでなく、大出力のエンジンを全開することは、敵の赤外線探知に早期に発見され、不利になるからです。
ゆえに、アニメに描くと、およそ“見栄えのしない”世界になっているのです。
 
現代の最先端戦闘機のF-22やF-35は、ステルス性能が売り物の第5世代機と言われています。
それに対し、「令和のゼロ戦」ともいえる次期国産戦闘機(F-3)は、第6世代戦闘機になるのではと言われています。
それは、第5世代機とどう違うというのでしょうか。
前号で述べた「ネットワーク網による連繋機能」を有することが最大の違いです。
超簡単に言うと、1機の有人機に数機(時には数十機)の無人機を組合せた集団戦闘能力の獲得です。
もちろん、こんな戦闘機は世界にまだ出現していません。
ゆえに、「日本が本当に開発できるのか」という疑問があるのも確かです。
また、米国は自力で開発するだろうという声が上がるのも当然です。
しかし、開発費用や技術的困難さから、「日本を利用して早く安く・・」と米国が考えるのも当然といえます。
日本にしても、共同開発によって、自衛隊だけでなく米軍にも売れるというメリットが見込めます。
同じ理由で、エンジンも日本のIHIと英国ロールスロイスとの共同開発という話が持ち上がっています。
そうすれば、EUにも売れるという皮算用もあるというわけです。
 
いずれにしても、戦闘機の開発が新次元に入ってきたことは確かであり、商売という側面も強くなってきたということです。
抑止力も単純な思考で考える時代ではなくなってきました。