抑止力という名の軍事力(19)

2021.12.01


10月18日、中露10隻の艦隊が日本海で共同演習を行った後、津軽海峡を抜け、日本列島に沿って南下し、鹿児島県の大隅海峡を抜け、そこでも演習するという行動に出ました。
日本に対する公然とした脅しです。
こうした露骨な脅しは開戦前夜といっても良い挑発行動ですが、中国は「平和を守るための行動だ」と臆面もなく言っています。
 
さらに、米艦艇が台湾海峡を通過することと同じだと言い張りますが、まったくのウソです。
国際海洋法で各国とも領海は海岸から12海里(21.6km)となっていますが、台湾海峡は、中国と台湾の領海が重なり合うところはなく、完全な公海です。
つまり、国際法で公海となっているところを米艦艇は通っているので、中国には文句を言う権利はありません。
一方、津軽海峡は、狭いところで11海里(19.8km)と12海里以下です。
しかも両海岸とも日本領土なので、津軽海峡は日本の領海内です。
したがって、「我が国の許可なく他国軍艦の通過は認めない」と言うことができるのですが、日本政府は、国際海峡として特別に外国艦船の通過を許容しているのです。
本音は日米安保のためなのですが、建前としては世界への便宜を図っているのです。
それを、中露は日本への恫喝のために利用したわけです。
まさに戦争を仕掛けられていると言ってもよい事態なのです。
 
ゆえに、岸田首相が言う「国家安全保障戦略を見直す」必要性は急務なのですが、首相の本気度が分かりません。
安倍前首相は、「中国とロシア相手に『二正面作戦』を実施する力は日本にはない」との認識で、ロシアとの間の懸案の北方領土問題を片付け、平和条約を結ぶことで、中露の離間を目指す戦略を採りました。
しかし、27回にも及ぶ首脳会談は何の成果も挙げられない失敗外交でした。
逆に、そうした日本を見下したロシアは、中国との合同軍事演習という強硬手段に出たわけです。
 
対ロシア政策の失敗は、安倍政権だけでなく、米国も同様でした。
オバマ政権は、米軍兵力を欧州からアジアに回す政策を採り、結果としてロシアの軍事負担を減らすという構図を作ってしまいました。
次のトランプ大統領は、まったくの軍事音痴ぶりを露呈し、中露に利用されるばかりでした。
バイデン政権は、オバマ、トランプ政権での失敗を教訓に、安全保障戦略の暫定的な指針で、米国にとって最大の脅威は中国、2番目の脅威をロシアと定め、中露の軍事協力懸念を表明しました。
 
しかし、世界はすでに大きく変わり、米国頼みの防衛戦略はほころびを見せています。
日本は、米軍はあくまでも補完の軍事力として独自の防衛力整備を急ぎ、中露の脅しには屈しない姿勢を具体的に示す必要に迫られているのです。