民主主義の脆さ(その2)

2022.06.30

米国が民主主義国家群のリーダーであることに異論を挟む方は少ないと思います。
しかし、その米国の民主主義が危機とは言えないまでもゆらぎを見せています。
その第一の要因は、急速に進んだグローバリゼーションです。
民主主義には個人の自由を最大限に尊重するという概念が欠かせません。
それゆえ、国家のドアを開き、外部からの人、物、カネの流入を自由にするという意味でのグローバル化は避けようもありません。
しかし、そのことが米国の中間層の没落、そして未来への不安を招いたのです。
こうした人々の心理を、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」の一言で真正面から貫いたのです。
この言葉が「そうだ、世界よりアメリカが大事なんだ」という意識を目覚めさせたのです。
 
第二の要因は、深刻化する一方の人種対立です。
オバマ政権による「黒人および少数民族の権利拡大」により、それまでの白人優位の社会への批判が高まり、中間層の白人たちは危機感を憶えました。
トランプ氏は、明確な民族差別になる言葉を避け「不法移民を防ぐ壁の設置」などの、一見合法的な言葉に置き換えていましたが、今なお多数派である白人層は「白人優位」を守る政策をトランプ政権に期待したわけです。
それにより、とくに白人男性の間に岩盤のようなトランプ支持が広まり、今に至っているのです。
 
第三の要因は、米国の伝統であるキリスト教的価値観が揺らぎ、悲観主義が広がったことです。
米国は「清教徒」と呼ばれたプロテスタントの人たちが欧州から移住して作った国です。
ローマ教皇と偶像崇拝という外面重視のカソリックと違い、清貧と純粋な信仰という内面重視のプロテスタントは、それだけ個人の意識の深いところに錨を降ろす傾向が強くなります。
そうした意識が、貧富の格差や人種分断、さらには米国の国際的な地位の低下といった事象に影響され、「米国の未来は暗い」とする悲観主義に傾く要因になっています。
 
こうした要因が複雑に絡み合って生まれた悲観的感情を、トランプ氏は「強く豊かなアメリカを取り戻す」という単純明快な目標を、強く明るい語調で語ったのです。
そうした強いインパクトが、中間層の国民の意識を動かし、我々が想像できなかった大統領が誕生しました。
まさに、民主主義が「衆愚政治」に陥った出来事が民主主義のリーダー国で起きたのです。
古代アテネに誕生した最初の民主主義もフランス革命で誕生した中世の民主主義も、やがて衆愚政治に陥り崩壊しました。
 
幸か不幸か、トランプ氏が、まったく思慮に欠ける政治家であったことが露呈し、そこに危惧を持ったリベラル派が、かろうじて彼の再選を阻みましたが、トランプ人気を支えてきた要因は未だに米国内に健在です。
次回2024年の大統領選挙でトランプ氏が返り咲く可能性は、かなりあります。
米国は、果たして、こうした衆愚政治から脱却できるのでしょうか。
ロシアや中国といった独裁政治による外部からの危機以上に、民主主義が内面に持つ弱さからの危機のほうが問題なのです。