戦略における拙速(せっそく)という言葉

2023.02.15

【国際・政治】2023

古代中国の兵法書「孫子の兵法」の解釈は、そもそも難しいですが、その中でも特に難しいとされているのが、「作戦篇」にある次の“くだり”です。
「兵は拙速(せっそく)を聞くも、未だ巧久なるを睹(み)ざるなり」
 
孫子には「兵」という言葉が多く登場しますが、様々な意味に使われています。
文字どおり「兵隊」という意味で使われている場合もありますが、戦争(いくさ)を意味していたり国家を意味していたり、民衆つまり「国民」を意味している場合もあります。
そうした単語の解釈を間違えると、全体を誤って解釈してしまう恐れがあります。
 
数ある孫子の解釈本の中には、上記の“くだり”を以下のように解説している本があります。
「戦いは先手必勝であり、準備不足でも早く仕掛けるほうが良い。長く準備を掛けて良い結果を出した例はない」とか「兵隊は、仕掛けが拙く(悪く)ても、早く踏み切ることを好む。だらだらと時間を掛けるべきではない」といった類の解釈です。
私も、数冊の解釈本を読み自習学習していた時代は、似たような解釈をしていました。
しかし、孫子全体に流れる思想体系と「どこか合わないな」という違和感を持ち続けていました。
 
それが、30年前に故武岡先生と出会い、以来、教えを受けるという運に恵まれたことで、それまでの解釈がまったく違っていることが分かりました。
 
先生の教えは以下のとおりです。
「兵(戦い)は、一定の目的を達成したら、それ以上の欲をかかずに、早期に戦いを終わらせることが大事だ」
つまり、「目的達成が不十分でも、欲をかかずに、早く収めよ」という意味が「拙速」という語に込められているということです。
もっと言えば、「目的の完全獲得を狙ってダラダラと戦いを続けることが良くない。臨機応変に、ある程度の物事を達成したら、後は深追いせずに早く収束しろ」ということです。
 
「拙速」を「準備不十分でも早く始めることが肝心」と解釈することは、まったくの間違いなのです。
つまり「戦争は短期決戦に限る。それが思いどおりに行かなかったら、いったん引いて、次に備えよ」ということが孫子の教えだということです。
企業経営にも通じることで、ロシアのプーチンに言ってやりたい言葉ですね。
彼が孫子を学んでいないことは確かですから。
 
一方、台湾侵攻を目論んでいる中国は、孫子の作者である孫武を産んだ国です。
孫子の教えが生きていれば、台湾侵攻は用意周到な準備の上で、電撃的勝利を狙う作戦となるはずです。
それに失敗すると、中国共産党自体が崩壊するという危機に見舞われるでしょう。
ただし、台湾も孫武の末裔の国です。
しかも、民主主義の国ゆえ、共産中国以上に孫子に対する自由で広範な研究が進んでいる国です。
当然、共産中国の戦略を理解して準備を進めているでしょう。
共産中国が安易に侵攻に踏み切れば、ウクライナ侵攻と同じ結果になるであろうと考えます。