日銀新総裁の政策は?

2023.03.31

【経済・経営】2023

3月10日、参院は、日銀の次期総裁に経済学者の植田和男氏を起用する政府の人事案を可決しました。
これを受け、政府は4月8日に退任する黒田東彦氏の後任に、植田氏を任命する見通しです。
学者出身の総裁は日銀初ですが、主な先進国では、近年、経済学者が中央銀行総裁を務めることが一般的となっています。
 
読者のみなさまは、報道で植田氏の経歴はとっくにご存知と思いますが、改めて簡単に説明します。
植田氏は、東大理学部を卒業後、MIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号を取得しました。
MITは工学系の単科大学ですが、金融を工学と捉えて学科を設けています。
日本の大学には無い“考え方”ですが、工学出身の私には納得できます。
 
植田氏は、2022年にノーベル経済学賞を受賞した米国FRB(連邦準備制度理事会)元議長のベン・バーナンキと共に、スタンリー フィッシャーに師事した同期生と言われています。
ユダヤ系のスタンリー フィッシャーは、金融経済学の巨人ともいうべき人で、西側先進国の金融トップの多くが彼の門下生と言ってもよいでしょう。
植田氏もその一人なので、これからの日銀の政策に注目していきたいと思います。
 
では、退任する黒田総裁のこれまでの政策を振り返ってみましょう。
まずは、時計を10年前の2012年12月に戻します。
第二次安倍内閣が誕生した年です。
翌年の2013年からアベノミクス(この名称は朝日新聞が使い始めたと言われています)が始まりました。
そこで打ち出された「三本の矢」の最初の矢である「異次元の質的・量的金融緩和政策」をリードしたのが黒田総裁でした。
物価目標2%達成を掲げ、達成期間を2年とし、マネタリーベースを2倍にするという「トリプル2」と言われた政策パッケージを発表しました。
 
しかし、目標は達成できず、デフレの進行は止まりませんでした。
こうした事態に、黒田総裁は2016年1月、マイナス金利という思い切った手を含む質的・量的金融緩和政策を導入しました。
それでも結果は出ず、同年9月には長期金利操作付き質的・量的金融緩和政策を決定し、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の導入やオーバーシュート型コミットメントの運用を開始し、
さらに、2018年7月に政策金利のフォワードガイダンス導入と、“なりふり構わぬ”策を繰り出し続けました。
その最後の政策が、2022年12月、長期金利の変動幅を「プラスマイナス0.25%」から「プラスマイナス0.5%」への拡大でした。
 
個々の政策に異論はありますが、黒田氏の執念のような必死さには敬意を払います。
野党は「失敗」だと非難しますが、ただの一つも対案を示せなかった自らを恥とすべきです。
 
結果として、ようやく消費者物価は2022年12月に4%上昇し、41年ぶりの上昇となりました。
しかし、当初の目標だった「経済の好循環によるマイルドなインフレ」ではなく、原材料価格の上昇、円安やウクライナ侵攻による輸入物価の高騰といった「コストプッシュ型」の物価上昇です。
 
帝国データバンクの調査によると、これまでの日銀の政策に対する企業の評価は100点満点中平均65.8点という結果でした。
学校の成績だと「優」は無理でも、「良」ということでしょうか。
さらに、点数分布を見ると、「90点以上」が14.5%、「80~89点」が22.2%あります。
黒田総裁の大規模緩和政策は、企業には一応評価されたとみてよいでしょう。
 
一方、副作用としての国債増加を懸念する声も聞かれますが、どうするかは植田新総裁の胸の内にかかっています。
さてさて、どのような政策が打ち出されてくるか、注目です。