台湾有事に備えるとは

2023.08.15

【国際・政治】2023

自民党副総裁の立場で訪台した麻生太郎氏の台湾有事を念頭に置いた「戦う覚悟」なる発言が物議を醸しています。
当然、中国は猛反発し、日本の左派も一斉に非難しています。
ただ、この発言は、失言ではなく、周到に用意された発言であり、自民党右派の総意を背景にしたものです。
 
麻生氏の発言を正確に書くと、以下のようになります。
「(東アジア情勢について、)日本と台湾を取り巻く環境は大きく変化した。平時から非常時に変わりつつある。大事なことは、台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせないことだ。抑止力には能力が要る。そして、抑止力を行使する意志を持ち、それを相手に教えておくこと。その三つが揃って抑止力だ」と、対中抑止力の強化が発言の主旨です。
その上で、『最も大事なことは『台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせない』ことだ。
今ほど日本、台湾、アメリカをはじめとした有志の国々に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時代はない。戦う覚悟だ。いざとなったら、台湾海峡の安定のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」。
 
報道では、「戦う覚悟」だけが強調されていますが、発言の主旨は「抑止力の強化と、それを中国に伝えること」だと解釈できます。
「戦う」という言葉の持つ強さで、そちらに重きがあるように報道されていますが、抑止力の強化が主題であることは明白です。
 
こうした発言は、当然、功罪両面の側面から論じる必要があります。
まず、「中国をいたずらに刺激するだけの軽率な発言」との批判は、当然に起きます。
しかし、その伏線となっているのは、今の中国の非常に好戦的な動きです。
尖閣諸島だけでなく、日本の領海・領空への侵犯や接続水域への侵入を日常化し、さらには沖縄・宮古海峡や津軽海峡をロシア艦隊と合同で通過し、日本近海での軍事演習を常態化するなどの露骨な軍事的圧力を強める一方です。
ゆえに、もはや「中国を刺激・・」などという言葉は意味を失っています。
もちろん、“遺憾砲”などは、とっくに効力ゼロになっています。
「これ以上やるなら、武力防衛も辞さず」を示す必要があるレベルの危機だと思います。
台湾有事と日本有事は、もう重なり合っているとの認識が必要なのかもしれません。
 
一方、「まだ武力防衛を口にする時ではない」との見方も、当然あります。
ハリネズミのようになっている中国をこれ以上刺激すると、本当に戦争になる危険を高めるだけだとの意見に賛同する向きも一定割合あるでしょう。
 
この両論を国内でぶつけ合うことは、まったく意味がありません。
議論の的は、中国による台湾侵攻であり、それに付随する日本への攻撃だからです。
そして、「無いだろう・・」との楽観論ではなく「あり得る」との現実論が議論の下敷きでなければなりません。
この可能性を根本から下げるのは「日本が平和主義に徹する」ことではなく、「習近平政権の終焉、もしくは外交姿勢の180度の転換」しかないのです。
目下のところ、その両方とも可能性は低く、日本は有事に備えることを主とするしか手はありません。
その上で、日本経済を中国経済から切り離す戦略を進めることです。
すでに、中国による理不尽な人質戦略で、かなりの日本人が罪状も不確かなまま逮捕・留置されていて、釈放への見通しも立っていない状況です。
社員の日本帰国を急ぐ企業も増えてきています。
私も、中国にいる知人とのメールのやり取りなどは止めています。
お互いに危険だからです。
 
麻生氏の発言をどうこう言う前に、中国と日本との間は、「すでに準戦争前夜」と捉えて距離を置くしかないと考えます。