ウクライナ戦争の行方

2025.02.17


トランプvsプーチンの電話会談が行われたことを、トランプ大統領自身が発表しました。
続けて「これでウクライナ戦争を終わらせる」と“いつも”のトランプ節ですが、具体案はゼロです。
 
ロシアによる軍事侵攻が始まったのは2022年2月ですから、もう丸3年もウクライナでの戦闘が続いているわけです。
ゼレンスキー大統領が明らかにした数字ですが、死者の数はウクライナ側が約4万5100人、ロシア側が約35万人に上っているということです。
ロシアは、最初の首都キーウ占領の電撃作戦に失敗しましたが、諦めることなく、圧倒的な兵力差を背景に兵士の犠牲を顧みない突撃攻撃でウクライナの東部や南部での戦闘を優位に進めてきました。
この間、ロシア兵士による民間人の虐殺や非人道的行為をロシア政府が黙殺してきたのは、戦死に怯える兵士に対する見返りの意味です。
 
その昔、日本の戦国時代を含めて、世界中で行われてきた下級兵士に対する見返り行為と同じです。
彼らは報酬もなく手弁当で死地ともいえる戦場に駆り出されました。
そうした兵士の戦闘意欲を掻き立てるため、戦死者の武器や鎧を剥ぐという行為だけでなく、民間人に対する強奪や虐殺、人さらい、女性に対する非道な行為などを容認したのです。
その戦国時代にあって、戦闘能力に劣る織田信長は、給料を払う常備兵制度にして、その代わり民間人に対する乱暴狼藉行為を禁止し、破った者は即刻打ち首にしました。
結果、信長は民間人からの支持を得、さらに堺の商売人などからの支持も得ることに成功し、天下取りに大きく足を踏み出したわけです。
そうした信長とは真反対の原始的な戦争行為を21世紀の現代で行うロシアという国の異常さが際立つわけです。
 
そんな中、去年の8月、ウクライナ軍が突如ロシア西部のクルスク州へ越境攻撃を仕掛けました。
不意を突かれたロシアは、かなりの土地をウクライナ軍に占領されましたが、その後反撃に転じ、4割ぐらいの領土奪還を果たしたところで戦線は膠着しています。
その結果、現在もウクライナが支配する地域はかなり残っています。
 
ゼレンスキー大統領は、英国・ガーディアン紙のインタビューで、トランプ大統領がロシアを交渉のテーブルにつかせることに成功した場合は、『ロシアに領土交換を提案する』と語っています。
そして、クルスク州を念頭に『我々は1つの領土を別の領土と交換するつもりだ』とも話しています。
ただ、どの領土と交換するのかについては『私たちのすべての領土が重要です』と述べ、「侵攻前のウクライナの領土すべてを奪還する」という大きな目標は掲げたままです。
 
これに対し、米国のヘグセス国防長官は、『ウクライナが占領されたすべての領土を回復することは非現実的な目標だ』と発言し、『それを認めることから出発しなければならない』と述べています。
しかし、プーチン大統領は、領土交換案は断固拒否の構えで、ロシア軍はクルスク州の奪還に向けて戦闘を激化させています。
結果として、停戦交渉の糸口すら見つからない中で、ますます戦闘が激化する状況になっています。
 
一方、米国は経済制裁の強化でロシアの後方を締め付ける戦略を加速させています。
ロシアが相当の経済制裁を受けながらも市民生活を保てているのは、「影の船団」と呼ばれる「老朽船を使う闇タンカー」による違法行為の効果といえます。
その船団の数は586隻に上り、ロシアの輸出の80%を担っていると言われています。
この船団を使った石油輸出により、ロシアは年間37兆円の収入を得て戦争を継続しています。
日本の国家予算の1/3ぐらいの金額なので、ロシアにとっては十分すぎるくらいです。
 
バイデン前大統領は、退任直前にこの船団を念頭に追加関税を課しました。
この政策で「影の船団」の183隻(31%)が対象となり動けなくなっているということです。
このように、この政策の有効性は分かっていましたが、バイデン前大統領は選挙結果に影響があるとして躊躇していました。
しかし、ようやく退任直前に実行に移したわけです。
片っ端からバイデンの政策を無効にしているトランプ大統領ですが、この政策だけはそのままにしています。
この処置は、船会社だけでなく、荷揚げした港湾も制裁対象となるので、対象数を増やしていけば、「影の船団」は崩壊するでしょう。
今のロシアには、新たな影の船団を作る資金も時間もないし、造れても、おそらくトランプ大統領は追加制裁を行ってディール(取引)材料に使うでしょう。
 
トランプ・プーチンの直接会談の結果によっては短期停戦が実現するかもしれませんが、それが続くことはないでしょう。
「影の船団」が壊滅し、さらに中国の支援も止まり、石油代金がバレル45$まで下がってロシア経済が破産状態となり、プーチンが退陣か逃亡となれば、ウクライナ戦争は終わるでしょう。
つまり、プーチンが音を上げるしか、この戦争は終わらないということになります。
ただし、プーチンには時間がありますが、トランプ大統領には実質2年間の時間しかありません。