放射能汚染の島

2025.01.17


福島第一原発の話題は、ときに忘れられ勝ちになり、ときに浮上します。
そもそも『いつのことなのか』を覚えている方はどのくらいいるでしょうか。
2011年3月11日ですから、まもなく14年前になるわけです。
私は事故の翌日から弊社のホームページに、原発とこの事故に関するページを開設し、事故の分析と今後の予測の書き込みを続けました。
かつて同原発内で放射能汚染の調査をし、自身も被曝した経験から書けることもあると考えたのです。
そのとき、弊社ホームページの閲覧数がいきなり3桁も上昇したのにはびっくりしました。
多くの人がそのくらい怯えていたということですね。
質問もたくさん来て、その中には「東京に住んでいますが、すぐに九州あたりに避難したほうが良いでしょうか」などという切実(?)な問いもありました。
私は「東京は、まったく心配ないです」と返答を書きましたが、ネットには「東京も危ない」などという無責任な投稿も多かったです。
こうした風評被害が怖いなと思います。
 
さて、「表題と違うぞ」とお叱りを受けそうなので、本題に入ります。
この「放射能汚染の島」とは、マーシャル諸島のビキニ環礁のことです。
そう聞けば、「あ~」と思われる読者の方も多いと思います。
1954年、米国が行った世界初の水爆実験の実験場になった島(環礁)です。
この時の水爆は広島型原爆の1000倍の威力だったと言われていますが、広範囲の海域に死の灰をまき散らし、その灰を被った日本漁船の第五福竜丸のことで、日本中が大騒ぎとなりました。
この死の灰とは「放射性物質」のことですが、同船の乗組員の証言では「灰は、雪のように船に降り積もった」とあります。
驚くほど冷静な証言から、乗組員たちは「この灰が何か」分からなかったと思われます。
当時、周辺海域で被爆した船舶は延べ一千隻に及んだと言われています。
しかし、第五福竜丸以外が話題になることはなく、被害実態も分かっていません。
 
年月を経た現代では忘れられた島となっていましたが、昨年12月に米国のアーティストであるカーク・ヘイズ氏がSNSで公開した現地の様子が話題を呼んでいます。
ビキニ環礁は、現在でも放射線レベルが高すぎて、ヘイズ氏も「滞在は3時間しか許されなかった」と書いています。
彼の言葉です。
「島を訪れて厳粛な気持ちになった。ビキニ環礁は信じられないほど美しい場所でありながら、環境にとってはとても有害で、子どもを含むあまりに多くの人が放射能中毒や先天性欠損症に苦しんだ場所でもある」。
 
ビキニ環礁は世界遺産に登録されていますが、人間の立ち入りは厳しく制限されています。
原住民の一部の帰還が許されましたが、帰還した住民のセシウム137の体内量が11倍に増加していることが発覚し、さらに流産や新生児の遺伝的異常も見つかり問題になっています。
映像も見ましたが、このまま何の説明も加えずに「世界遺産の景色」として見せたなら、「行ってみたい」と思うこと必然の美しさです。
私は、かつて爆発前の福島原発で、格納容器の蓋を開けた中を覗き込んだことがありますが、そのとき、透明のごとく澄み切った水の中に整然と並ぶ何本もの燃料棒は青白い光に包まれていました。
文字通り「息をのむほど美しい」光に意識も体も吸い込まれていきそうになりました。
しかし、あれは「死の美しさ」です。
ビキニ環礁の映像は、同じ思いを抱くほどの美しさです。
 
ただ、ビキニ環礁の映像には、島に生い茂る植生や木が大量に映り、海の中は海藻がびっしりでした。
帰還した島民に被曝の影響は出ていますが、全員というわけではありません。
この違いの原因はどこにあるのでしょうか。
科学的および医学的解明が進むことが望まれます。
我々が、放射線を正しく理解し、正しく恐れるためにです。