円安or円高のどちらが良いの?
2024.05.01
ネットで著名な経済評論家がこんなことを言っていました。
「1ドル110円時代に『この先1ドル150円になる』と言ったら誰が信じたでしょうか?」
このような「たら・れば」の話は世の常ですが、日本が貧しかった時代を知らない方々は160円を超えてきた現在の状況に不安を感じるでしょう。
ですが、私が初めて米国へ派遣された時は、1ドル360円の固定相場でした。
しかも、持てる限度額は2000ドル(72万円)。
短期出張ならともかく、長い滞在となると苦しい生活を強いられました。
その後、円ドルは変動制となり、250円、200円と米国に行くたびに円高となり、滞在も楽になっていきました。
この時代、海外から原材料や商品を仕入れている企業も仕入れ値が下がり、利益が増えました。
他方、輸出企業は海外での販売価格が上がり、ダンピングで利益を減らした上、ダンピング課税を掛けられ、大変な苦境となりました。
しかし、トヨタを筆頭に輸出関連の企業たちは、品質を上げながらのコストダウンという困難な生産革命を成し遂げ、日本経済の基盤強化に貢献してきました。
その結果、日本は世界有数の金持ち国となり、円高は進み、1ドル80円という超円高となりました。
こうなると、マスコミは「円高をなんとかしろ」と騒ぎたてます。
かつては「円安からの脱却を」と言っていた同じ口で反対のことを騒ぐのです。
つまり、円安も円高も、その時々の自分の立場で「良い・悪い」となるわけです。
当たり前の話ですが、大事なポイントです。
では、「これからどうなるのか」を考えてみましょう。
経済評論家は、日米の金利差が大きい現在のままでは、円安傾向が続くとみています。
たしかに、それも大きな要素ですが、私は消費者心理が一番大きな要素ではないかと考えます。
日本は、33年前のバブル崩壊とその後の長いデフレを経たことで、消費者の心理はまだ冷え込んだままです。
つまり、一種のトラウマ状態が続いています。
たしかに「賃金アップ」の報道が増えていますが、「このアップがいつまで続くか」には疑問を抱いています。
その心理がある限り、購買意欲が上がってくるとは思えません。
その昔、バブルへ向かっている時代の給料は年10%以上の上昇が続き、バブル崩壊前は30%も上がりました。
私事ですが、あの時代、2年置きぐらいに車を買い替えていましたが、すべて即金払いでした。
お金を使うことに対する不安は、はっきり言ってありませんでした。
そんな思い出を持つ年配者の方も多いのではないでしょうか。
そうした時代からみたら、5%程度の賃上げで、しかも社会保険料等の天引き額も増える中で、「収入が増えた」の実感は乏しく、財布の紐は緩みません。
なので、今の状態がずるずると続いていくだけという公算が高いのです。
このような状態で、日銀が利上げ(0.5~1.0%)に踏み切り、しかも「3.0%まで段階的に上げる」ような雰囲気を醸し出せば、一気に円高に振れる可能性が高くなります。
しかし、その結果、借入金利の上昇で中小企業の倒産や住宅ローンの破綻が起き、輸出は減速し、日本は一気に不況に落ちる可能性があります。
ならば「このまま円安のほうが良いのか」というと、原材料や輸入品の値上げで、小売業、飲食業、建設会社などは苦しくなる一方です。
つまり「円安が良いか円高が良いか」の議論は無意味なのです。
日本は、もはや貿易で食べている国ではありません。
GDPに占める輸出依存度は14.6%、輸入を足しても28.6%と、ほぼ米国なみに低いのです。
しかも、「輸出-輸入」の差は0.6%と極小なので、マクロでいえば、円安でも円高でも経済への影響は変わらないということになります。
日銀の植田総裁は、この状況下での利上げは、為替相場に影響を与えることができても、経済への悪影響が強く、早急には「できない」と考えているでしょう。
日銀に期待するのは無理ということです。
ならば、どうしたら良いかですが、答えは単純です。
公共事業を増やし消費税率を下げ、投資と消費増を喚起することです。
その理由は、次項の「◇2024年への展望(5):日本経済が上りきれない理由」で述べます。