安藤忠雄という建築家
2025.05.01
建設産業の方、特に建築関係の人なら、この建築家の名前を知らない方はいないでしょう。
一般の人でも、名前を聞いたことのある人は多いでしょう。
そんなタレント並みの名声を得ている建築家が安藤忠雄です。
私は、建設会社時代、何度か有名建築家の案件を担当したことがあります。
ですが、正直、あまり良い印象を持っていません。
特異な設計が多いため施工には苦労しましたが、それが理由ではありません。
むしろ、技術者として困難な施工を達成する満足感もありました。
同時に、無理難題な設計変更を要求され、施工現場で辛酸をなめたこともあります。
だが、これは設計家が悪いというより、そうした無理な設計変更を強いながら、請負金額も工期も“そのまま”という施主(国や自治体を含めてです)の問題です。
ただ、その変更の仲介をすることもなく、知らん顔の建築家先生に対する違和感は大きかったです。
安藤忠雄氏の設計案件を担当したこともありますが、同様の苦労を味わったことで氏に対しても良い印象はありませんでした。
いや、むしろ否定的印象と言ったほうが良いかもしれませんでした。
ところが、先日、日刊建設通信新聞に掲載された記事を読み、安藤氏の意見に同調を覚えたのです。
それは、大阪で行ったトークイベントで安藤氏が語った言葉です。
会場には日本人だけでなく、台湾をはじめアジアの国々の若者が多かったようなので、そうしたことも氏の心境に影響したのかもしれません。
それでは、以下に4月16日の同紙に掲載された記事のポイントを要約します。
「今の日本人にはもうあまり期待していません。特に若者に勇気も元気もない」
「学校に通えなかったから、私はひたすら本を読んだ。今の日本人は本を読まないし、一生懸命働かないように見える。日本人は内向き志向で、かつての元気を失っている」
「これからは人として本当の力が試される時代。試験に合格するためでなく、人間の力を高めるために、学ぶ必要がある」
そして、「でも、台湾の人たちは違う。よく勉強するし、優秀な学生は積極的に海外に出る」として、アジアの若者のほうを評価している。
こうした安藤氏の言葉に、冒頭に書いた私の嘆き(?)と共通の思いを感じたのでした。
日本人が、こうも後ろ向きになってしまった要因は、たった一つではないかと思っています。
50年前、20代の頃に一緒に仕事をしたドイツ人に言われました。
「今の日本人には勇気が足らないよ」
安藤氏は、徒手空拳で世界一周の旅に出た自身の60年前の時のことを「勇気を振り絞るしかなかった」と述べています。
そうです。今の日本人に決定的に欠けているのは、この「勇気を振り絞る」ことではないでしょうか。
そして、このことは、今の若者だけでなく我々年代の者にも言えるのではないでしょうか。
私の頭の中には、若き日の「あのドイツ人から言われた言葉」が、あの日以来、こだまし続けているのです。