“やっぱり”な結果しかなかった米ロ会談
2025.08.18
「今の時代、さすがに全面的な軍事侵攻はないだろう」との見方は、およそ3年半前のロシアによるウクライナ侵攻で破られてしまいました。
そして、一度侵攻に成功してしまえば、侵略した側が撤退することはまず無いという現実に世界は直面しています。
その現実はもう3年半も続き、今なお収束の気配はありません。
そうした膠着状態の中、米国トランプ大統領の突然の呼びかけで、米アラスカ州アンカレッジにおいて、トランプ・プーチン会談が行われました。
お互いを誉め合う“気色悪い”記者会見でしたが、互いの置かれた状況と思惑が透けて見えました。
ニュース解説者も言及していましたが、トランプは本気でノーベル平和賞が欲しいようです。
そして、どんな形であれウクライナ停戦を実現すれば、当然もらえると思っています。
しかし、ノーベル賞の推薦期限が9月末に迫る中、相当に焦っていたのでしょう。
それで、今回の対プーチン会談を皮切りに、ウクライナのゼレンスキー大統領を入れての3者会談で、強引にでも停戦を実現させようとしているわけです。
「中東のガザはどうでも良いのかよ」と言いたいですが、彼の辞書には「humanity=人道」なんて言葉はなく、「deal=ディール(取引)」と「self love=自己愛」しか無いようです。
記者会見を聞いた限りですが、何の新鮮味もなく、二人の爺さんが「互いを誉め合う」という気色悪い光景を見せられただけでした。
プーチンがこの会談に飛びついた背景には、破綻の淵にあるロシア経済の苦境があります。
この会談で西側の経済制裁を少しでも緩和させられないかという焦りを感じました。
頼みにしていた中国の支援がほとんど得られていないどころか、温暖化によって北極海航路を中国が開くかもしれないことを恐怖しているように感じました。
単にノーベル平和賞が欲しいだけのトランプに比べて、プーチンの立場が非常に悪いことを如実に感じさせる記者会見でした。
トランプは、ウクライナを入れての3者会談に言及していますが、会談自体は行われる可能性が高いと思われます。
この会談は「どちらが妥協するか」の問題になりますが、プーチンの妥協は考えられず、トランプがプーチンに肩入れしてゼレンスキーを脅す場面のほうが考えられます。
ただし、プーチンが要求する東部4州の放棄およびNATO加盟の断念などの条件をゼレンスキーが飲む可能性はほぼゼロです。
結局、トランプは「後は欧州が面倒見ろ」と投げ出すのではないでしょうか。
さすがに、そこまで言い切ることは無いでしょうが、投げ出す姿勢は見せるかもしれません。
こうした脅しに負けて欧州の腰が引け、結果としてウクライナがロシアに組み入れられるとしたら、次は欧州東側に位置する国々がロシアの侵略の餌食になることは確実です。
プーチンは、旧ソヴィエト連邦の復活を己の政治目標としていて、その野望を諦めることはないでしょう。
こうした身勝手なプーチンの夢が実現したら、EU東側の各国はロシアに削り取られ、世界情勢は一気に緊迫化します。
当然、EU(というよりNATO)はそうした事態を容認できないので、フランス、英国は言うに及ばず、ドイツもNATOの軍事強化に全力を挙げ出しています。
今のロシアにはNATOとの軍事衝突に勝ち切る力はないため、この策が最も現実的な策といえます。
一方、トランプは、以下のシナリオを考えている節があります。
ロシアのウクライナからの全面撤退は要求しない(それが当然なのですが・・)。
代わりに、現在の戦線での停戦、または一部地域をロシアの支配下に置く代わりに後の地域からのロシアの撤退を要求する可能性があります。
この場合、「一部地域」の線引きが非常に難しく、おそらく、クリミヤ半島およびルハンスク州とヘルソン州南部のロシアへの引き渡しではないかと思われます。
それでロシアが納得しない場合は、さらにドネツク州西部の引き渡しも付けるかもしれません。
しかし、ウクライナにしてみれば、どの案も到底飲むことが出来ずに拒否するでしょう。
となると、前述したように、トランプは投げ出し、「あとは欧州がやれば・・」と、同じシナリオとなります。
このように、関係国が納得できる結果が出ることはまったく期待できない会談を、なぜにトランプは持ち掛けたのでしょうか。
それは、前述したように「ノーベル平和賞が欲しい」の一点なのです。
最近の戦況ニュースを聞くと、前線はロシア有利に傾いているようです。
人口と武器・弾薬量で数倍の違いが大きいのですが、しかし、ロシアの兵站(武器・弾薬等の供給)能力はかなり落ちているようです。
ウクライナの戦う姿勢はなおも旺盛なので、この戦争を終わらせるには、米国がNATOと一致協力した軍事支援を強化してロシア軍の瓦解を導く以外の道はないように思います。