映画「オッペンハイマー」

2024.03.18


映画「オッペンハイマー」が米国アカデミー賞で7部門を受賞しました。
作品賞と監督賞の両方を受賞した作品は、アカデミー賞における歴史的評価と位置づけられます。
原爆の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーの生涯を描いたことで、日本では公開できないと言われた“いわくつき”とも言える映画です。
 
読者のみなさまは覚えておられるでしょうか。
本メルマガで、オッペンハイマーのことを数回に分けて取り上げたことがあります。
天才と狂人が入り混じった人物であり、その極端な頭脳が原爆開発の成功要因であろうと考えると、彼に対する評価は複雑です。
ただし、彼が開発に成功しなくとも、誰かが成し遂げたであろうことは確実なので、そのことで彼を責めることはできません。
 
アインシュタインがルーズベルト大統領に原爆開発を促す手紙を送ったことも有名な話です。
当時、ナチス・ドイツが原爆開発にやっきになっていたこともあり、その前に米国が開発すべきという意見書です。
こうした事実から、米国の原爆開発そのものを非難することもできません。
 
しかし、米国は、そのドイツ降伏後に日本に対し2発投下しました。
台頭してきたソ連に対する警告の意味があったと言われていますが、急死したルーズベルトに代わって大統領に就任したトルーマンが「原爆の威力を見たかった」という説が一番有力ではないかと言われています。
連合国によるポツダム会議の会議中に、ネバタでの第1号原爆の実験成功の報が秘密裏にトルーマンにもたらされ、彼は第2号、第3号の日本への投下を決意したと言われています。
日本への降伏を促すポツダム宣言の内容が、日本が到底飲むことができない内容に書き変えられたことが真実ならば、そのとおりなのでしょう。
日本には変更前の草案内容が伝えられていて、日本は受諾する方向で動いていました。
しかし、正式に届いた宣言書の内容は、まったく受け入れ不可能な内容でした。
つまり、米国は、原爆投下前に日本が降伏しては“困る”ということだったのです。
こうした話は、広島・長崎を経験し、戦後世代にもその記憶が強く受け継がれている日本人には、到底受け入れがたいことです。
 
私は、本メルマガで過去にも言及したように、原子力施設の設計や原発内の放射能調査などを行った経験があります。
ですから、当然、この映画には強い関心があります。
では、「観たいか?」と問われると、「観たい」、「観たくない」の相反する気持ちが起きます。
技術者としての本能からは原子力推進に賛成ですが、自分が身を持って体験したあの“すさまじい”エネルギーを制御できるまでに人類の倫理観が成熟していない現状に考え込んでしまいます。
 
現に、核兵器使用を匂わせ世界を脅すロシアや中国、北朝鮮のような国が存在しています。
中国は分かりませんが、プーチンや金正恩は躊躇なく使うような気がしています。
それを阻止できない未成熟な人類(ホモ・サピエンス)には、原子力を扱う資格が無いのではと思ってしまいます。
 
この映画に広島や長崎の惨状を描くシーンが無いことを非難する声が高いですが、これはアメリカ映画です。
かつては「原爆が戦争を終わらせた」として原爆肯定派が圧倒的だった時代から、今は否定派がかなり増えてきました。
ですが、多数派を占めるには至っていません。
この映画に惨状を描くシーンが入ったら賛否両論が乱れ飛ぶ事態となります。
興行を考えて避けたことは当然かもしれません。
 
東京では3月25日の先行公開から全国でも上映するようです。
アカデミー賞の威力でしょうが、行くかどうか、気持ちは半々です。